11.院長室
さて、ここまで騒ぎが大きくなっているのに、バーバラは一向に確認に出てくる気配がない。いち早く異常に気付いて別の逃走経路で逃げたか?いや、トーマスが直前に部屋から出てきて、驚いていたところをみると気付いていない可能性が高い。
バーバラの部屋だけ気密性を高くして、防音処理がされている?あり得る。子供達が騒いでいるのを見て、いつも嫌そうな顔をしていたもんな。だが、それが今回は仇になった。
「リディア様、バーバラ院長はまだ気付いていない可能性が高いですね。」
「ほう、私もそう思っていたところだ。ちなみに根拠を聞いてもいいかな。」
俺は、先程考察したことを話した。リディアはそれを聞いて感嘆の声をあげ納得した。
「君はその歳にしては聡明だね。とてもこんな劣悪環境な孤児院育ちとは思えない。どこかの上流階級の子息のようだ。」
「いえ、ただの孤児ですよ。」
「・・・ふーん。ま、そういう事にしておこう。向こうが気付いていないのであれば、ちょっとした余興をしてみるのもいいね。」
そういって、ニヤリと笑ったリディアはバーバラの部屋のドアをノックした。
『トーマスかい。なんだい忘れ物かい。』
返事で在室を確認し、静かに扉を開けるリディア。
「これは、これはバーバラ院長。アポイントも無しに失礼します。」
「だ、誰だい!あ、あんたは!」
「おや、私の顔に見覚えが無い?うーん、これでも有名人の自覚があったのだが、私もまだまだだな。」
「な、何を言ってい・・・、え?え?もしかして、リ、リディア・イ、イスタール・・・さ・ま?」
「お初にお目にかかります、リディア・イスタールです。」
「な、なぜにそんな、て、天上人のイスタール様がこのような錆びれた孤児院に?」
「いやぁ、縁あってここにいるリノ君と知り合ってね。恥ずかしながら私も孤児院の現状を知らなかったのだよ。こんなにもやせ細って困窮しているとは。ご始祖様に顔向けが出来ないよ。そこで、援助をしようと出向いたのさ。」
そこで、ようやくバーバラは俺の存在に気付いて驚愕する。が、直ぐに喜色満面になり手もみを始めた。
「まぁまぁ、それはそれは、わざわざご足労ありがとうございます。このご時世、物価が上がっておりまして、なかなか行政からの予算だけでは・・・」
「と、言うとでも思ったか戯け!」
「まか・なえ・・・へ?・・・」
「毎年、予算は福祉課に十分に回していると報告受けている。他の区の孤児院も問題なく経営出来ているとな。この孤児院の子供だけが困窮し、あまつさえほぼ無償労働をさせられているというではないか。」
「め、滅相もございません。そのような事は一切、ござ・・・。」
「既に調べはついている。言い訳は衛兵所で聞かせて貰おう。」
「・・・しょ、証拠はあるのですか!私が予算を着服しているという、証拠が・・・。」
うわ、開き直りやがった。
「ふん、語るに落ちたな。まぁ、証拠か。・・・リノ君。君に任せた!」
は、はぁ?な、なんだその無茶ぶりは。そんな証拠なんて俺は知らないぞ。
驚愕してリディアの方を見ると、リディアもこちらを見てニヤリと笑った。
・・・これも含めて余興って事か。先程のトーマスへの対応を見るに、リディアには強行で連行出来る権限が与えられているのだろう。それをわざわざ証拠探しをするという事は、これはただの遊びだ。なら、それに乗るのも一興か。
「わ、分かりました。机を捜索してもいいですか。」
「うーん、現場は現状維持が鉄則だよ。あまり触ることは勧めないな。」
ハ、ハードルあげるな。この人。
着服した金をどこに置いているかだ。この世界に銀行があるか分からないが、まずそんな金を他人には預けまい。手元に置いておきたいのが心情だ。長い間、着服していたと考えるとそれなりの金額になる。金庫でも相当な大きさになりそうだ。・・・隠し部屋か!
俺は部屋を見まわした。ここは建物の突き当りで、俺達の部屋4つ分+廊下の広さはあるはずだ。南側には窓が二つ、突き当りにも窓が一つある。そのひとつの窓の前に執務机があり、その前には応接セットが置いてある。北面の壁には壁一面の本棚があり本がびっしりと詰まっている。
・・・本当に部屋4つ分の広さか?本棚分を考慮しても、もっと狭くないか。・・・ここか?
俺は本棚を指差した。
「あそこが怪しいです。部屋の広さに違和感があります。恐らくあそこの裏に隠し部屋があります。」
さて、こういうのは一冊の本がキーになっていて、キーのカギを傾けると棚が動いたりするんだよな。ちょっとワクワクしてきたぞ。
「ふむ、隠し部屋か・・・。」
リディアがツカツカと本棚に近づくと、腰だめに構えた剣を横一線に振り抜いた。剣線状に本棚に1本の線が走り、本棚が崩れ、その後ろにある空間がポッカリと顔を出した。
「おぉ、本当にあった。」
げ、現状維持どうしたーーー!!!
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