9.出陣
「はっ、リディア閣下にお伝えしたい義がございまして参上いたしました。」
「どうしたんだい。そんなに畏まって。」
「こちらに控えているリノの事です。先程、閣下も仰っておりましたが、彼はこの街に住んでいる同年代の子供達と比べても、体が小さく細いのです。彼が極端に食が細いのでは無く、食べる物が少ないのです。」
「・・・よく見ると服もボロボロではないか。・・・親は何をしている。」
俺の一張羅ですけどね!
「彼は、孤児です。南区の孤児院で暮らしております。」
「なに!どういう事だ!毎年、福祉課、特に孤児院関係には十分な予算が回っていると報告は上がっているぞ!」
リディアが段々と熱を帯びてくる。比喩表現ではなく現実にだ。リディアの周りに陽炎が揺らめいている。
俺は、今回こちらに転移してから魔力感知を発動していた。魔力が-2P/時間ぐらいのペースで減るくらいの薄さにしてだ。習熟度を上げるためであったので、人の魔力はほぼ検知できない薄さだ。
だが、リディアを初めて見た時に彼女の周りに薄い赤色の膜が見えた。魔力が溢れるほどの魔力を保有しているのか、ワザと膜を作っているのかは分からないが、その魔力膜の色が濃くなっていくのだ。
「はっ!毎年福祉課には潤沢に予算が回され、南区の孤児院以外は問題なく運営できている事が確認できております。」
「では、なぜリノ君はこんなにやせ細っているのだ!」
「調査によりますと、南区の孤児院長と福祉課南区担当者が共謀して予算を着服している疑いがでております。こちらに控えるリノより南区の孤児の現状をお聞きください。」
俺は、しどろもどろになりつつも、リノの記憶にある孤児院の現状を話した。俺が話し始めた時には一瞬落ち着いたように見えたリディアだったが、また段々とヒートアップしていく。
「・・・なんだその始祖を真正面から蔑ろにするバカ者どもは・・・。そいつらは私に喧嘩を売っているのか!セバーース!!」
リディアの周りにある膜が爆発した。チリチリと肌を焼くような熱さだ。
「はっ!こちらに。レイモンド様の情報を基に、福祉課及び南区孤児院周りは衛兵を配置し包囲しております。また、不当に孤児たちを働かせていた土木会社にも兵を向かわせました。福祉課の担当者は小遣い程度の横領を行っていた小物です。向かわれるのであれば孤児院が宜しいかと。炎狼隊も待機させております。」
「・・・ふん、レイモンドの手配か。分かっているではないか。良い段取りだ。セバス!直ぐに出立する。馬を用意せよ!」
リディアは颯爽と部屋を出て行った。セバス、レイモンド、ダルトンもそれに続く。俺も慌てて追いかけた。足早に廊下を過ぎ、玄関ポーチに到着すると揃いの赤い鎧兜を着込んだ兵士が整然と整列していた。
「これより、私利私欲で幼気な子供を食い物していた悪党を成敗にいく!者共!遅れを取るな!」
「「「応!!!」」」
リディアが進み出ると、兵士たちが両方に分かれて道を開ける。両開きの玄関ドアが開かれ颯爽とリディアが出て行きその後ろを兵たちが続く。カ、カッコいい!
「では、私達も追いかけましょうか。」
レイモンドがそう告げると、
「馬車も回しております。」
セバスが答える。この人本当にそつがないな。
兵に続いて俺達も玄関ドアを出た。そこには白馬に跨ったリディアがいた。白馬の白毛にリディアの赤髪が映える。物語のヒロインのようだ。
リディアの白馬の後ろには、黒毛や栗毛の馬に跨った兵達が20基程整然と並び、その後ろに歩兵たちが80基程並んでおり、総勢100名程の一個中隊並みだ。
その中隊の後ろにある馬車に俺達3人も向かおうとすると、リディアから声を掛けられた。
「リノ君、君はここだ。案内を頼めるかな。」
そう言って、リディアは自分の鞍の前を指すのであった。
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