6.ルノア
「どうぞ。」
「失礼します。リノ様。お休みの所を申し訳あ・・り・・ませ・・ん?」
ルノアさんが、部屋に入ってきて挨拶をしたが、俺の恰好を見て固まっている。そりゃあそうだ。部屋のど真ん中で、大股を開いて、上半身を床にペターっとしている子供を見たら固まるよな。
「な、何をしてらっしゃるのでしょうか。」
「あ、う、うん、ずっと寝っ放しだったから体が凝り固まらない様にストレ・・・柔軟体操を・・・。」
「は、はぁ?そういった遊びが子供達の間では流行っているのですか?」
「は、流行っているというか、ぼ、僕が考案したというか。こう体をグーって伸ばすと気持ちいいでしょ?色々な体の場所を伸ばすように考えた体操なんだ。」
「たしかに針仕事をした後などに、背伸びをすると気持ち良うございますね。左様でございましたか。流石は英雄様です。そのような体操を考案されるとは。」
「や、やめてください。英雄だなんて。成り行きですから。」
「いえ、アルル坊ちゃんお助けしてくれたのは紛れもない事実です。この家に関わる人間からすれば、貴方様は立派な英雄です。本当にありがとうございました。」
「・・・アルルは本当に皆さんに好かれているのですね。」
「はい、皆、我が子の様に可愛がっております。・・・はっ!わたくしとした事が、職務を忘れて・・・ゴ、ゴホン。リノ様、お召し物のご用意が出来ております。こちらにどうぞ。」
苦笑いをして、服を受け取る。受け取った服を広げてみると、ものの見事に黒シミが全体に広がっていた。
「申し訳ありません。何度も洗ったのですが、これ以上洗いますと生地を傷めてしまいそうで・・・。」
「いえ、ルノアさんは悪くないですよ。何も考えずに行動した僕の責任ですから。」
さて、では着替えるか。
・・・
「あ、あの。そこに居られると着替えられないのですが・・・。」
「え?お手伝いは必要ないですか?お一人で着替えられますか?」
「だ、大丈夫です!いつも一人で着替えてますので!」
「失礼しました。では、お着替えが終わりましたらお呼びください。旦那様たちの所へご案内します。」
そう言って、何故か名残惜しそうに部屋を出ていくルノアさん。
何か危険な香りがするので、素早く着替えて、身嗜みを整え、ルノアさんを呼んだ。
「では、こちらへどうぞ。」
ルノアさんに先導されて、廊下に出る。廊下も毛足の長い絨毯が敷きこまれて、壁際には一定間隔に花瓶が設置されて花が飾られている。品のある家だ。
「凄いですね。」
何と無しに呟く。
「旦那様に、お客様が安心して寛げる様、常に気を配るように申し使っております。自分がされて嬉しい事は率先してやりなさいと。」
おもてなしの精神が行き渡っているのか。
廊下の突き当りのドアでルノアがノックをした。
「失礼します。リノ様をお連れしました。」
『入って貰いなさい。』
中からレイモンドの返事が返ってくる。
「どうぞ。」
ルノアがドアを開けてくれ、中に入るよう促してくれた。
そこはレイモンドの執務室だろうか。豪華な執務机と応接セット、壁側には書類棚があり、一面に書類や書籍が入っている。
「ゆっくり休めたかな。」
「はい、お陰様で。お気遣いありがとうございました。」
「そうか、では、詳しい段取りを説明しよう。」
こうして、謁見に向けての話し合いが始まったのだった。
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