10.市場での買い物
ちょっとトラブルはあったが、とりあえず2人で門に向かう。
「ライト大丈夫かな?」
「トーマスさんは口は悪いですが、あんな小さな子供に、手を出すほど悪人でも無いですよ。たぶん大丈夫です?」
たぶん!疑問系!
俺がシンシアの顔を見返すと、シンシアはクスクスと笑いながら
「冗談です。本当に心配はありませんよ。それよりも今日は助手がいる事ですし、いつもより沢山買い物ができますね。」
「が、頑張ります。」
「クスクス、これも冗談です。怪我人に、お仕事なんてさせられませんよ。歩きながら私の話し相手になって下さい。」
そう言いながら、シンシアは孤児院の門を出て右手に曲がった。いつもであれば、街の外周側、外壁側の工事区画に向かうのだが、今日は、買い物なので商業区画に向かう。
少し路地を進むと大通りに出た。大通りは、馬車道と歩道がちゃんと区画されていて、馬車道の両サイドに歩道がある形だ。馬車道も、片側一車線通行になっていて、交通ルールがあるようだ。
歩道を歩く人々はちょっと小綺麗にしている。いつものツギハギだらけの服の俺達は、少し浮いて見える。俺が、自分やシンシアの服を見ているのに気付いたシンシアが、苦痛の顔を浮かべ
「ごめんなさい。私は、慣れっ子だったから気付いてあげられなかったわ。そんな格好じゃ恥ずかしいわよね。やっぱり帰る?」
「ううん。僕、別に気にしないよ。この服も、シンシアお姉ちゃんが、一生懸命縫ってくれた服だもん。全然恥ずかしくなんか無いよ。」
シンシアが、涙目になりながら、俺の頭をクシャクシャと撫でた。
「もう!子供が気なんて使うんじゃありません。」
「いたいよ。シンシアお姉ちゃん。」
2人で笑いながら手を繋いで歩く。
今日の晩御飯の材料を買う為に、大通りを暫く歩いた後、一本路地に入った先にある、市場に向かう。ここには、露店が所狭しと並んでいて、庶民の台所として賑わっているらしい。
シンシアが、行きつけのパン屋で黒パンを買い、今日の主菜となる、ボア肉のクズ肉を肉屋で買う。
ボア肉とは、街の南西にある森に棲む、野生の豚で、繁殖力が強く、農作物への獣害が酷い為、冒険者は、見かけたら積極的に狩る事が推奨されている野獣である。
そう、この世界には冒険者がいるのだ。街の外には、野獣や魔獣が生息しており、ドラゴンもいるし、ダンジョンもあるらしい。
全て孤児院にある絵本情報なので、信憑性は微妙だが、冒険者という職業があるのは本当だ。街の中の雑事から、街の外の脅威の排除まで、何でもやってくれる、何でも屋的ポジションのようだ。
さて、今日の目的の一つである、相場の確認であるが、クズ肉は大体100g銀貨1枚100ダリだった。黒パンは、1個300ダリで、割り高感がある。いや、人の手で1つずつ作っていると考えれば、妥当か。
クズ肉800gと、黒パン13個で4700ダリ、子供が7人、1日働いた賃金では1食分の食費も賄えない事は分かった。
因みに、シンシアは、どこも行きつけの店らしく、結構な頻度で声をかけられて、サービスで色々貰ったり、おまけして貰ったりしている。おっとりしている様で抜け目ない。
ボア肉を買った後、野菜(の切れ端と、オマケのジャガイモみたいな根野菜)を買ったところで
「あっ!鍋の底に穴が空いてたんだ。あれはもう流石に限界かな。新しいの買わないと。リノもう一軒、付き合ってくれる?」
と、シンシアから提案があった。今までの買い物と、サービス品で結構な大荷物だが、今日の俺は荷物持ちなので、文句があるわけがない。パンしか持っていないし。
「うん、僕は大丈夫だけどお姉ちゃん持てる?」
「そうね。待てそうになかったら、また後で取りに来ましょう。注文だけでもしておきましょうか。」
ということで、各種生活雑貨が売っている雑貨屋に行く事になった。
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