表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/38

6話

 「それで、君はどこの誰なんだ?」

冷たい視線のまま、リーフは尋ねてくる。

(中身が俺だってことも気づいてないし、この娘もパーティーの一員とかじゃないのに、何でそんな目で見てくるんだよ!)

オリバーは背中がゾクゾクとする。

「まあ、まずはこちらの自己紹介が先でしょう」

赤い髪の女性が話しかける。

「私は、カメリアですわ」

カメリアは赤い髪を、令嬢らしく縦ロールに巻いたスラリとした美女であった。

「私は、セレスト!よろしくね」

元気に答えるセレストは青い髪をポニーテールにしたはつらつとした可愛らしい美少女であった。

「カナリーっていうんだ」

他二人より頭ひとつ分低い背丈の小柄で、茶髪のショートカットの、同じように美少女である。

「…」

みんなリーフに視線を向けるが、何も言う様子がない。

「あなたも話しなさい」

カメリアが肘で小突く。

「リーフ」

それだけを言った。

「あなたのその他人に無関心な態度いい加減に直しなさい」

オリバーは内心激しくうなずく。

オリバー以外のパーティーメンバーが加わったときも、リーフが関わろうとしないので、オリバーが必死に取り持とうとしていたのだった。

(村にいたときは気づかなかったけど、けっこうな人見知りなんだよな。数年経った今もまだ直っていなかったとは)

そんなリーフと関わっている今の彼女たちパーティーメンバーに、根気よく親しくなってくれたと感心していた。

「僕らは名乗ったよ。それで君は?」

声色から突き放されている感じがする。

鈍感でもなければ、その声色に怯えを感じ、何も言えなくなりそうだ。

しかし、別の意味でオリバーは何も言えなかった。

「…分からない」

そうぼそりとつぶやく。

(結局この娘の知り合いは、誰もこの場にいないんだろ。それなら、この娘の名前や出生とか分かんねえよ。この娘の頭を読むことができる訳でもないし。そもそも、何で俺がこの娘に取り憑いているのかも謎なままだし)

口には出せない分、頭の中では饒舌に話している。

「分からない?名前が分からないってこと?」

カナリーの問いにオリバーはうなずく。

「記憶喪失ってことかしら」

「初めて見た。本当にあるんだね」

オリバーとしての記憶はあるが、この謎の金髪美女としての記憶はないので、記憶喪失という言葉に乗っかるしかなかった。

「え、面倒」

「ちょっと、リーフ」

リーフの正直な言葉に、カメリアがたしなめる。

「だって、目が覚めて、この娘の所在が分かったら、もうお役御免だと思ったから」

「彼女の前で言うことかしら?」

リーフがオリバー以外に、彼のことを思って、叱っているところを見て、感動を覚えた。

『オリーフロード』のメンバーは、嫌みを言ったりするだけで、大事に思ってくれるような人はいなかったから。

「ごめんね。うちのリーダーが嫌な態度とって」

「記憶が無くて、不安なのは君の方なのにね」

セレストとカナリーもリーフをにらみつける。

(しかし、何でこんな敵対心を向けてくるんだろうな。オリバー()なら、分かるけど)

「まあ、ギルドの職員に調べてもらっているし。ダンジョンにいたなら、冒険者の誰かだろ」

一筋の光が見えたような気がした。

確かに、ダンジョンは危険だから、冒険者以外は入れないようになっている。

冒険者は必ずギルドに所属しているから、顔や名前を把握しているはず。

「それじゃ、ギルドにでも預かってもらうか」

「まだ、あなたはそう見捨てようとするのかしら」

部屋を立ち去ろうとするリーフをカメリアは止める。

「あの日はたまたまギルドに空きがないから、僕たちの家で預かっただけだろ。今なら部屋も空いているし、問題ない」

「まだ、彼女は起きたばかりでまともに立てないのよ。そんな彼女を放り出す気?」

「でも、起きたら食事とかもしないといけないんだろ。そこまで世話する義理ないよね」

「さんざん稼いでいるのに、何を気にしているのよ。あなた、節約は上手いけど、そこまで守銭奴でもないでしょう」

自分のせいで言い争いが始まってしまい、申し訳なくて止めようとする。

「なあ…」

「気にしないでいいよ、あなたが悪い訳じゃないし」

「リーダーいろいろあって、ピリピリしているんだよね」

「はあ」

二人が静観しているのに合わせて、見守るしかできなかった。

「僕は何もしないよ。君たちで勝手にやればいい」

「そうさせていただきますわ」

結局、リーフたちのパーティーに預かってもらうことになった。

リーフの言う通り、ギルドに行った方がわだかまりがないと思ったが、オリバーは取り憑いてしまったこの身体を守る義務がある。

今評判の高いリーフたちの強いパーティーに守ってもらう方が安全だと思ったのだ。

「じゃあ、あなたのこと何て呼ぼうか」

セレストに問われる。

「ペットに付ける訳にはいかないから。責任重大だね」

女性陣3人はうんうん悩んでいる。

「…オリビア」

「え?」

「その目の色、あいつと同じオリーブ色。それで、女の子だから、オリビアでいいだろ」

内心、こいつマジかと思った。

(それ、俺が女装で仕事したときの名前じゃん)

かつて、あくどい娼館に誘拐された娘を探してほしいという依頼があった。

紅一点のジェイは潜入するのに猛反対。

同じく反対したアンバーと、どうやっても女に見えないボルドーを除いて、潜入したのはリーフとオリバーだった。

顔だけ見たら、化粧で化けられた。

しかし、着痩せはしていたが、筋肉がチラ見えしているのに、終盤まで隠し通せたのは、見事としか言いようがない。

ちなみに、リーフはリーファと名乗っていた。

「ちょっとリーダー、それ…」

「まあ、私たちも他に名前は浮かびませんし」

とがめるカナリーはカメリアは止める。

3人は沈んだ顔をしていた。

リーフは部屋を出ようとする。

「あの!」

その前に、ずっと聞きたかったことを聞くことにする。

「お、私のそばにいた男の人はどうなった、んですか?」

その言葉に、リーフは立ち止まる。

「オリバーは死んだよ。あの日に」

そう言って、部屋を去る。

「オリビア、オリバーさんのこと知ってたの?」

「あの日から意識なかったよね」

「…微かに誰かいたことは覚えていて」

それが自分だと言えないから、そうごまかす。

「そうか、死んだんだ」

その様子にただならぬものは感じていた。

「今日いろいろありましたものね。しばらく、ゆっくり休んでください」

3人も部屋を出た。

「そうか。やっぱり、俺死んじゃったんだな」

他人の体に取り憑いて、自分の体はどうなっていたのか、疑問だった。

一度、あの日は死ぬ覚悟はしていた。

でも、今こうやって意識は残っている。

「分かってはいたけど、つらいな」

涙が溢れて、止まらなくなる。

もう、オリバーはこの世にはいない。

「今の俺、悪霊じゃねえか」

死んだ自分の魂が、生きている女性の体に取り憑いた。

こんなの許される訳がない。

故郷にいる家族にももう会えない。

「あいつらがどうなったかも聞けばよかった」

逃がした『オリーフロード』のパーティーメンバーの無事を祈るしかできない。

「本当リーフに合わせる顔ねえな」

手で顔を覆う。

小顔でもあるが、小さくなって隠せなくなった手に、今の自分はかつてとは違う小さな存在になったと思い知らされる。

「俺がオリバーだってことは隠さないと」

リーフにひどいことを言って、パーティーを追い出した。

どれだけ恨んでいただろう。

どれだけ復讐を望んでいただろう。

でも、肝心のオリバーはもう死んでしまった。

その怒りの矛先がなくなって、今のリーフはあんなにいらついていたんだ。

「俺はどうなってもいい」

自分の体なら、リーフのどんな怒りも受け止めていた。

でも、今の体は借り物だ。

自分が抜け出す方法を見つけるまで、無傷でいなくてはいけない。

リーフも無関係の人物を傷つけたりしないとは思うが、オリビアの態度は今まで見たことがなく、傷ついたリーフがどんな行動をするか、オリバーは想像がつかない。

「今から私はオリビア」

これからは、オリビアとしてリーフを支えよう。

いつか、オリバーへの怒りを忘れて、また笑顔でいられるように。

自分がいなくなるその時まで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ