34話
「あれが悪魔?」
「っくそ。こっちでは、顕現できない!しかし、次代の勇者の魂があると分かったのは行幸だ」
次代の勇者という言葉に、オリビアに視線が集まる。
「オリビア、勇者だったの!?」
「なるほど。だから、リーフの身体から悪魔を追い出せたのね」
「私は勇者じゃないですって」
オリビアは首を横に振る。
(勇者は最初からリーフのままに決まっている)
「そうか。オリバーと同じくオリビアも女神だったんだ」
「リーフさん?」
リーフはオリビアに対して、恍惚の表情を浮かべている。
「そんな訳あるか!人間に取り憑いた悪魔を退けるなんて、勇者しかできん。っち、力を消耗してしまった。仕方ない、あいつにするか」
そして、もやはジェイの体内に入ってしまう。
「しまった!」
「セレスト、バリアは?」
「そんなのとっくに外れているよー」
ジェイは起き上がる。
「ああ。こいつ、本当に性根から悪いのね。魂が濁りきった人間に取り憑くと、悪魔は同調してしまうのよ」
そして、指をパチンと鳴らすと、大量のモンスターが現れる。
「あの女のテイマーの力も使えるんだ。厄介だな」
もうリーフは名前呼びをやめている。
「このダンジョン中全てのモンスターを呼び出したの」
どこから出したか分からない椅子にもたれ、足を組む。
「次代勇者以外皆殺しにしなさい」
手を前に出すと、その合図に従ってモンスターが襲ってくる。
「オリビアは下がっていて」
「オリビア武器持っていないときに襲われちゃったもんね」
オリビアはまだ自分の武器を持っていない。
報酬がたまったら、自分だけの剣を買おうと考えていたからだ。
リーフと顔を合わさない間も、リーフから剣を借りて、仕事をしていた。
オリビアを守る溜め、死角がないように、四方を取り囲む。
オリビアは、後ろから皆が戦っているのを見守るしかできない。
(何で、この場に俺の武器がないんだよ!)
下を向いて、自分の無力さを悔やしがる。
まだ、魔法は剣を使ってでしか、上手く扱えない。
自分の影が激しく波打つ。
影の中から手が飛び出す。
その黒い手がオリビアを捕らえた。
「オリビア!」
「モンスターはどこにでもいるのよね。本来のこの女の魔力じゃ、テイムできるモンスターにも限りがあるけど、悪魔の私が入って、限度が上がったわ」
その黒い手は、ジェイの体に入った悪魔のもとへと近づいていく。
「嫌だ…」
(生まれ変わった訳じゃないけど、レベルを上げるのに、また一からやり直すことになった。そんな弱くなった俺だけど、また誰かに守られて、足を引っ張るのは嫌だ!)
「俺に剣をよこせー!」
そう叫んだ途端、頭上に白い光が出る。
白い光が黒い手を浄化して、オリビアは地面に降り立つ。
「ちっ。また、勇者の力か!」
白い光は形づくっていき、オリビアのもとへとゆっくり落ちていく。
その光は、剣の形になった。
「それは、オリバーの剣…」
リーフはそうつぶやく。
「それでは、勇者の剣ということですわね」
「やっぱり、オリビアは勇者だったんだ!」
キラキラ輝く目を向けてくる。
でも、どんな言葉も視線もオリビアは気づかないで、剣に目は釘付けだった。
「おかえり」
その剣をオリビアは抱きしめる。




