31話
悪魔がかざした手から黒いものが溢れてくる。
しかし、ジェイの前ではじけた。
「な!」
「殺されるのを黙って見ていると思った?」
セレストが杖を向けている。
「とっくにバリアを張っているよ」
「お前らがいたんだな、忘れていたよ」
カメリアたちに向き直す。
「でもさあ、これお仲間の体だぜ?攻撃できるのかよ」
「できるよ。さすがに殺したりはしないけど」
「私たち怒っているんだ。リーフ、自分で自分を殺そうとした。少しは痛い目遭わさないと気が済まない」
「それに、私たちは仲間じゃありませんの。ただの共犯者ですわ」
三人がリーフの体に向けて、攻撃の姿勢をする。
「あんたら、本当にためらいなく、やりそうだな」
リーフの体が痛い目に遭うのはいい。
自分だって、オリビアを守るため、オリバーを生き返らせるために自己犠牲したことに怒っている。
でも、彼の体でカメリアたちを攻撃するのは駄目だ。
(共犯者ってのはよく分からないけど。でも、カメリアたちを大事に思っているのは、ずっと過ごしてきて、分かっているつもりだ)
オリビアはリーフの体へ駆け出した。
そして、黒い魔法を繰り出すところで、
リーフの体に抱きついた。
「な、何をやってますの、オリビア!」
「危ないから、離れて!」
(本当に俺、何やっているの!?)
止めないと、と思って、気づいたら、抱きついていた。
「おい、お前。離れろ!」
男女の筋力差ですぐに引き離されてしまうはずだ。
それでも、抱きつき続けている。
「俺にはリーフが必要だよ。召使いだなんて、思ったことなんてない。大事な仲間だ」
戻ってほしいと、願いをこめる。
少し前のことを思い出していた。
まだ、リーフが『オリーフロード』にいたときのことだ。
「これ、今回の報酬な」
銀貨銅貨の入った巾着をメンバーに渡していく。
「少ないー」
文句を言ったのは、ジェイだった。
「報酬少なすぎません?」
「それは必要経費がけっこうかかったからで」
「それって、こいつの剣が折れたからでしょう?」
ジェイがびっとリーフを指さす。
リーフは気まずそうに、目をそらす。
「そりゃ、剣は高くつくからな」
「そんなのこいつに払わせれば、いいじゃないですか。何で、リーフも同じ報酬もらっているのよ」
「俺らと同じ働きをしたからに決まっているだろ。それに、武器の故障はパーティー共有の財産から出すって、決めていただろ。ジェイのテイムしているモンスターのポーションも、アンバーの弓矢の矢もそこから出しているんだからな」
「ええ。回収できないこともあるので、助かってます」
「まあ、俺のハンマーは頑丈だから、壊れたことなんてねえけどな」
アンバーとボルドーも口を挟んでくる。
「しかし、今回リーフに買ったのは、高すぎではないですか?」
眼鏡をくいっと上げる。
「そうか?リーフが使っているの、村から出たときから使って、ボロボロになったから、新しい丈夫なのがいいと思ったんだが」
「だからって、最新モデルじゃなくても、いいじゃないですか」
「そうよ!中古でいいのよ。どうせ、役立たずなんだから」
「は?」
オリバーは凄む。
「剣の腕前なんて、オリバー様の足元にも及ばないじゃない!魔法も使えるみたいだけど、大したものじゃないし」
「…それはこれから覚えるつもり」
悔しそうに、歯を噛み締める。
「あのなあ…」
「いいよ、オリバー。今はどっちも中途半端なの分かっているし」
巾着を差し出す。
「確かに、自分の剣を買ってもらったのに、同じ報酬なのはどうかしてた」
リーフは立ち上がる。
「お前、どうしたんだよ」
「走ってくる」
「は?もう、夜も遅いぞ」
オリバーが止める間もなく、走り去ってしまう。
「報酬ゲットー」
「みんなで山分けですよ」
「あーあ、リーフがいなかったら、分け前いつも増えるのにな」
「ジェイ、お前…」
オリバーの失望した表情は、分けているメンバーには気づかなかった。
(最近、覚えた治癒魔法で、ポーションの買う量減ったことに気づいていないのか?)
それに、少しでもオリバーの体力が削れると、すぐに回復魔法を使うので、常時戦い続けられる。
比例して、リーフは疲労していくが。
(あいつ、過保護なんだよな。まだ、魔力の扱いに慣れていないうちは、そういうところを直していった方がいいのは確かだが)
でも、これがリーフを追放しようと考えるきっかけとなった。
リーフの実力が分からない、見下すメンバーがいる。
そんなところにいたら、リーフが潰れてしまう。
リーフが本当の勇者かもしれないと考えていたオリバーは、みんなにもリーフが認められなければいけないと思っていた。
そして、リーフの態度以外にも、メンバーの素行に問題があると、考えていたので、考えを改めなければ、解散も視野に入れていた。
オリバーの剣の腕前自体は、もともとリーフはオリバーの強さを信じていたため下がらなかったが、最近は疲労することに慣れていなかったため、体が動きづらく、それがクエストの成功率の低下につながっていた。
ただ、他のメンバーに対しては援護魔法を使っていたので、リーフがいなくなったことで、直にレベルが下がってしまう。
オリバーが亡くなったのは、反省しているかを見極め、解散するかしないかを決めている最中のことだった。