3話
「は?」
自分の見ているものが信じられなかった。
(何で、俺はあの娘の姿になっているんだ?)
頬をペタペタ触ると、感触がして、鏡に映る女性も同じように触れている。
頬をむにーっと引っ張ってみて、痛いと感じる。
(夢じゃない?)
今まで見ていなかった首から下を見てみる。
服は白く脱ぎ着がしやすいシンプルなものが巻かれていた。
そして、男の自分の体にはなかった、足が見えないほどの、二つの大きな山が目に入る。
恐る恐る触れてみると、ぷるんと感触がして、揺れた。
(他人のものとしてじゃなくて、自分のものとして感じる)
今の自分は女の体になっているのだと、実感する。
ふと、どんどん走る音がこちらの部屋に近づいてくる。
ばん、とドアが大きく鳴って、開いた。
「大丈夫!?」
水色の髪の女性が入ってきた。
いきなりのことで、オリバーはびくっと体を揺らす。
かなり急いできたのか、はあはあ息を切らしている。
「びっくりしたよー!クエストから帰ってきたら、大きな音がしたから」
ベッドから落ちたときの音だろうかと、頭に浮かんだ。
水色の女性の後ろから、二人の女性も入ってきた。
三人は、オリバーの姿を見ると、目を丸くした。
「目が覚めたんだー!」
よかったーと、水色の女性がぎゅっと抱きついてくる。
この女性の知り合いだったのかと、どうやって誤魔化そうかと考える。
しかし、起きたばかりなのと、何故この女性になっているかも分からないので、頭が回らない。
「セレスト」
赤い髪の女性がオリバーとセレストと呼ばれた女性を引き離す。
「いきなりで驚いたでしょう。ごめんなさいね、騒がしくて」
「い、いや…」
関係性がまだ分からないので、何と言えば分からなかった。
「声ガサガサだね」
「まあ、長い間眠っていたものね」
「じゃあ、ポーション飲む?私が今日使っていない分あるから。こういうときに効くかは分からないけど」
茶髪の小柄な女性が鞄から取り出したポーションを手渡してくる。
オリバーも分からなかったが、かすれた声のままだと話しづらいので、可能性があるならと、ごくごく飲み干す。
「ありがとう」
自分から出てきた声に驚いて、咳き込んでしまった。
「声、すっごくかわいいね」
本来の声かは分からないが、出てきた声はまるで鈴の鳴るようなといえばいいのか、小鳥が歌うようなといえばいいのか。
女の子らしい高く、かわいい声だった。
自分ではない他人の体だとは分かっているが、自分の喉の動きに合わせて出る声だと思うと、違和感しか感じない。
「今はまだ、ベッドにいなさい。あなた、一ヶ月も眠っていたのだから」
赤い髪の女性に連れられ、ベッドに腰かける。
一ヶ月間眠っていたのなら、声のかすれたのも、体の動きが悪いのも理解できた。
改めて、三人の女性を見る。
一度落ち着いて顔を見ると、彼女らがどういった存在であるかを、だんだんと思い出してきた。
(この娘たちって、あいつがいるパーティーの…)
「おい、セレスト。帰ってきたのに、ただいまも言わず、どうしたんだ?」
男の声が聞こえてくる。
オリバーにすごく聞き馴染みのある声だ。
顔が引き攣り、冷や汗がたれてくる。
「この部屋から物音が聞こえて、驚いちゃって」
「あなた、今日は一日この家に来たのに、来るの遅いわよ」
「悪い、気づかなくて」
黒髪の男性が入ってきた。
オリバーの知っている男性だった。
(リーフ!)
オリバーの幼なじみで、かつて『オリーフロード』にいた男であった。