29話
「でも、ジェイの目的はそんなことじゃない」
笑いを止めて、ジェイは話す。
「オリバー様を蘇らせること。それがジェイの目的」
(え、俺?)
まさか、この場で自分の名前が出るとは思わなかった。
「ジェイはオリバー様のことがずっとずっと好きだったの」
(いや、初耳なんだけど!全く気づかなかった)
自分に関することでこんな問題が起きているのかと、動揺していた。
「よく言うよ。ジェイが好きだったのは、勇者という肩書でしょ」
「そうよ!ジェイは勇者の妻になって、崇められて、リッチな生活を送るはずだったの!だから、オリバー様にアプローチしていたのに、リーフがべったりくっついて、邪魔するから!」
悔しそうに、地団駄を踏む。
(ジェイがリーフを疎ましく思っていたのって、そんな理由だったのか)
「やっと一人でアプローチできると思ったら、パーティーのレベルが下がっていって、それどころじゃなくなって。…オリバー様も死んじゃった」
ぐすんと涙ぐむ。
「あんたのせいよ!」
リーフを指さす。
「あんたが強い癖に、パーティーからいなくなるから、クエストが全くできなくなったのよ!」
「さんざん僕を追放しようと言ってきたのは、お前だろ。それに、オリバーを残して、逃げていったのは、ジェイたちじゃないか。お前だけには言われたくない」
オリビアやカメリアそっちのけで、言い争っている。
(これ、俺がオリバーですって、言えばいいのか?でも、今の俺は勇者じゃないから、求められていることとは違う気がする)
うーんと、悩む。
「まあ、いいわ。リーフはいなくなるんだし」
「…どういうことですか?」
不穏な言葉に、声が低くなる。
「リーフを依り代にするってことよ。オリバー様の綺麗な顔を見れないのは残念だけど、まあリーフも悪くはないしね。それに、あなたの能力なら勇者にもなれるし」
「駄目だ、そんなの!」
「あんたは動くんじゃないわよ!」
立ち上がろうとすると、モンスターに押さえつけられる。
「彼女を傷つけるな!」
リーフが声を荒げる。
(俺はリーフも、他の誰だって犠牲にしてまで、生きることを望んでない!)
「僕がオリバーになれば、彼女は解放するんだな」
「リーダー、何言っているの?」
「現状、これしか方法がないんだよ。ジェイはこのダンジョン全てのモンスターを使役していると考えていい。それら全てを倒して、彼女を助けるのは不可能だ」
「でも、この4人で力を合わせれば…」
「ごめん」
カメリアたちを光の輪が捕らえる。
「数分すれば解放される。君たちも傷つけることは望んでないんだ」
「リーフ、まさかあなたもこんなふざけたことに賛成している訳じゃないよね」
「…オリバーは勇者だ。僕の犠牲だけで済むなら、喜んでこの命を捧げる」
「バカなこと言ってんじゃねえよ!」
「あんたは黙りなさい」
ジェイの使役しているモンスターの魔法で口を閉ざされる。
「懸命な判断ね。そこの魔方陣の上に立って。それであなたは生まれ変われる」
リーフが歩いて向かう。
でも、誰も止めることができない。
(行かないでくれよ。俺は勇者なんかじゃないのに)
この村に勇者がいると言われたとき、真っ先に貴族の俺が選ばれた。
でも、リーフだって、同年代の少年だった。
あの時はたまたま勝ったけど、勝率は三割。
リーフの方が強い。
勇者の剣は俺一人で抜いた訳じゃない。
リーフに手伝ってもらった。
(分かってるよ。勇者は俺じゃない。リーフだって)
でも、認めることができなくて、ここまで来てしまった。
リーフが魔方陣の上に立つ。
ジェイは、聞き覚えのない言語を唱えている。
黒いオーラが風のように、リーフを巻き込んでいく。
「やめろーーー!!!」
そう叫ぶのと同時に、黒いオーラが全身を包んだ。




