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27話

sideリーフ

 (僕は一体何をやっているんだ)

リーフはギルドでうなだれていた。

「何、今日はクエスト行かないの?」

「緊急事態で調査中のため、立ち入り禁止の張り紙があった」

「あら、そんなの聞いてないけど。他にも上級者向けダンジョンのクエスト向かっている子もいるのに」

「馬鹿でもなければ、戻ってくるでしょ」

机でうつぶせになったまま、話している。

「まあ、オリビアちゃんのこととか何も分からないままだものね。調査範囲広げてもおかしくはないか」

オリビアの話をした途端、ぴくりと体が動く。

「リーフくんがそうなっているの、オリビアちゃんが原因でしょ」

「…彼女は何も悪くないよ。でも、心が追いつかないんだ。オリバーがいなくなったあの日から」

「ギルドに来たときからずっと一緒にいたものね。村も一緒の幼なじみなんでしょ」

「…オリバーは僕の全てだ」

リーフにも、幼い頃のとある時期より前の記憶がない。

ただ、ボロボロの服や泥だらけの顔や、体にある火傷の跡。

そして、親もおらず、一人でいたこと。

オリバーの住む村とは別の村がモンスターの大群に襲われて壊滅状態にあったという話はあったので、その村の生き残りの孤児だと分かった。

誰もがリーフを避けるなか、手を伸ばしてくれたのは、オリバーだけだった。

まるで、光さす神様みたいだと思った。

「俗っぽいけど、そのとき一目惚れしたんだと思う」

オリバーはガキ大将のタイプで、いろんなところにリーフを連れて行った。

立ち入り禁止のところに入って、一緒に怒られたこともある。

でも、一緒にいられるなら、それだけでよかった。

ただただ、オリバーといられることが楽しかったから。

「そうじゃなきゃ、一緒に王都まで行きませんよ」

オリバーは周りから慕われた。

村の子供たちの中心で、ギルドでもパーティー以外の人たちともすぐに打ち解けた。

「嫉妬心がなかったと言えば嘘になる。でも、周りの人たちを明るくさせるのがオリバーで、そんなオリバーが僕は好きだったから」

だから、追放されたときは、地獄に堕ちたような心地がした。

神様に見捨てられてしまったから。

命を絶つことも考えていた。

「まあ、その頃、パーティーメンバーを探していたセレストたちに、『すごい冒険者になって、戻ってきてほしいと言われるように見返してやれ』と言われて、持ち直せたんですけどね。彼女たちとも、それまでの間、仮にパーティー組んでくれたので、感謝しかないです」

セレストたちと過ごすパーティーも楽しかった。

でも、リーフの居場所はオリバーの隣でしかなかった。

本人はざまあする気はなかったが、リーフが抜けた途端、『オリーフロード』の名声が落ちていき、戻されるのも時間の問題だと、わくわくしていた。

その前に、オリバーが亡くなった。

目標を見失ってしまった。

その頃はリーフは儚く、いつ自分から命を絶とうとしても、おかしくなかった。

共犯者となってくれたセレストたちに、恩返しする義務感のみで動いていた。

後は、オリバーを殺し、痛めつけたモンスターへの怒り。

助けたことがきっかけで亡くなったので、そのきっかけの少女への憎しみ。

さすがに、少女を害することはしなかったので、言葉の端々にいらつきを隠せてはいなかったが。

「オリバーが優しいことは知ってる。でも、彼女が強いことを知ると、どうして、あの時発揮できなかったんだって、責めてしまうから」

「だから、避け続けているのね」

リーフはうなずく。

「そのこと話してもいいんじゃないかしら」

「でも、彼女にオリバーの死を気負わせてしまうんじゃ」

「それでもいいの。彼女は強い。ちゃんと受け入れてくれるわ」

今日の夕飯にでも話しなさい、とギルドを出された。

自分が最近まともに食べてなかったこともあるので、久しぶりに料理しようかと考える。

カメリアたちはクエストで、オリビアはオフだが、今日は買い物していると聞かされた。

その間に作って、びっくりさせるかと思ったが。

「もうできてる」

冷蔵庫にもう調理済みのものや、焼けば終わる状態のものが並んでいた。

「あの娘が準備していたのかな」

お腹が鳴った。

まだ、昼食を取っていないことを思い出した。

「ちょっと味見だけ」

お皿から少しつまむことにした。

「後で僕も何か作って、足します」

一口、口に入れる。

その味に衝撃が走る。

体が崩れ落ちる。

まずかった訳ではない。

「何で彼女がこの味を…」

リーフとオリバーの故郷の名物、それをオリバーが適当に調味料をミックスさせ、味付けしたものと同じだった。

「オリバーと彼女は違うのに!」

でも、今日の料理、訓練に取り組む姿、モンスターを倒すとき。

本気で手合わせしたときのぎらぎらしたあの笑顔。

その全てにオリバーの残像が重なった。

リーフの目から涙がこぼれて、止まらなくなった。

時間が経ち、日がもう少しで暮れていく。

「オリビア、いる!?」

玄関から声が聞こえる。

走ってくる足音も聞こえてきた。

「リーフ、こんなところで何しているの?」

カナリーに怪訝な目で見下ろされる。

「気にしないで」

「そんな赤い目していたら、気になって仕方ないけど。それより、オリビア戻ってきてない?」

「まだみたい。一度料理を作った後に出かけたみたいだけど」

「そっか」

「…何かあったの?」

ただならぬ様子を感じ取った。

「考えすぎならいいんだけど、帰り道にこれを見つけて」

マグカップが入った紙袋を見せる。

椿、青空、カナリア、真っ二つになった葉のついたオリーブ。

「私たちの名前に関するものだから、気になって」

「だから、さっきからセレストがいろんな部屋のドアを開けて、暴れてたんだ」

ドアをバンバン開ける音が響いていた。

「ダメ!どこにもいない!」

「そっか。カメリアは?」

「念のため、ギルドで話聞いてから来るって」

「皆さん!」

今度はカメリアの声がした。

「共有スペースに集まっていましたのね」

「カメリア、おかえり。情報あった?」

「ギルドでは何も。ただ、ポストにこんなものが」

カメリアが差し出した手紙。

『オリビアは預かった。

日没後すぐ、全員で上級者向けダンジョンに来い』

「オリビア、誘拐されちゃったってこと?」

「日没後って、もうすぐじゃん!」

慌てふためくなか、上級者向けダンジョンがリーフは気にかかっていた。

「今朝行ったとき、立ち入り禁止の張り紙があったんだ。もしかしたら、関係あるのかもしれない」

「立ち入り禁止なのをいいことにしのびこんだか。立ち入り禁止にして、罠をしかけたか」

「早く警察とかに話しに行こう!間に合わないよ」

「いや、本当に間に合わない。僕たちくらいだろ、走って1時間で行けるのは」

「罠かもしれないところに私たちだけで向かうしかないんですね」

「オリビアがいないってことと、話が通らないうちに立ち入り禁止になっていることはギルドも知ってはいるから、もしかしたら調査に来てくれるかもしれない。でも、希望的観測だから、僕らで行くしかない。皆、早く準備して。僕たちのパーティーメンバーを助けに行くよ」

「「「はい/うん/分かった」」」

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