25話
「オリビアはこのあとどうしますか?」
フロアボスが守っていた宝箱から、該当の魔法石を回収する。
これさえあれば、今回のクエストはクリアである。
「そうですね。まだ、私はマジックセイバーというものに慣れていませんし、モンスターはますます強くなるので、1回ここで終わりにしようと思います」
「そうだね。これから進むのは、もう少し強くなってからでいいと思うよ」
「じゃ、帰ろうか。今日はオリビアのクエスト達成祝いだ!」
支度を終わらせて、もと来た道を戻ろうとする。
「待って」
リーフの声がして、後ろを振り返る。
「僕と手合わせしてよ」
「リーフ、いきなり何を言ってますの?」
呆れて、ため息をついたり、頭を抱えている。
「オリビアも疲れているだろうし、別の日でもいいんじゃないかな?」
「それに、リーフとオリビア、レベルの差が違いすぎるんだし、怪我するの心配なんだけど」
「でも、せっかくこんな広いところ使えるんだから、勿体なくなあ?」
リーフは両手を広げる。
巨大なモンスターが暴れてもいい、土でできた丈夫なドーム状の空間。
オリビアが高く跳べたように、高さもある。
「それに、木剣だと、彼女の魔法で燃えちゃうかもしれないし」
「まさか真剣でやり合う気ですの?」
カメリアが怒りで声をわなわな震わせる。
「もちろん。でも、僕は魔法は使わない。あくまで彼女のマジックセイバーとしての実力を見たい」
「そんなの危険に決まって…」
「いいですよ」
するっと答えた。
「私もどれだけできるか知りたいので」
カメリアたちは止めたいが、とうのオリビア本人が乗り気なので、黙って見守るしかできない。
(当たり前だけど、追放してから手合わせできてなかったからな。久しぶりに戦えて、気分が高揚してきている)
「どちらかが降参するまでやるからね。だから、危険だと思ったら、すぐ言ってほしいな。君を大怪我させたい訳じゃないから」
「あっさりと言うと思いますか?」
強気にニヤッと笑う。
その表情を見て、リーフは息を呑む。
「こう言ってますが、あまりに危険ならレフェリーストップかけますからね」
審判役はカメリアが務める。
攻撃の余波が来ないように、セレストがバリアを張っていた。
二人が剣を構えている。
「では、初め!」
先制したのは、オリビアだった。
先ほどのように、力を込めて、リーフに斬りかかる。
カキンと、広い空間に、音が高く鳴り響く。
リーフが攻撃を受けた。
「魔法は使わないの?」
「そんな簡単に使えたなら、さっきはあんなに動揺しませんよ」
「じゃあ、早く感覚覚えてよ」
二人は距離を取る。
「魔法を使わないとはいえ、剣術で僕に敵う訳ないでしょ」
「言いますねえ」
今はオリビアの師匠的立ち位置にいるので、力の差は愕然だ。
でも、オリバーの負けず嫌いが顔を出している。
「だって、僕に勝てるのはあいつだけだから」
「あいつ?」
確かに、この街ではリーフは強い部類だ。
でも、世界にはまだまだ強い奴がいる。
そのことを分かってはいるが、他人とは比べたりはしていなかった。
そんなリーフが明確にライバル視する人とは誰だろう。
「本気でいくしかないですね」
(あいつが魔法使わないのにずるい気もするけど。今の体力や筋力で、リーフに届かないのは事実だし)
深呼吸をして、力を込める。
(リーフに負けたくない。あいつに今の俺でもやれるって、認められたい!)
ぼわっと炎が出る。
「やればできるじゃん」
「火傷しないように気をつけてくださいね!」
オリビアは斬りかかる。
リーフは受け流すが、腕に切り傷と炎がともる。
距離をとった後、炎を振り払う。
次にリーフから攻撃をしかける。
オリビアが攻撃を受けるが、男女の筋力の差で押し負けてしまう。
オリビアも腕を怪我し、血が流れてくる。
「早く降参って、言っていいんだよ」
「冗談」
打ち合いは続いていく。
オリビアも魔法を込めた攻撃の頻度は多くなるが、リーフの方が攻撃が強い。
(でも、彼女も戦闘センスあるな)
攻撃しながら、考える。
(記憶がなくて、このレベルなら、僕が知らない。例えば、他国では有名なマジックセイバーだったのかもしれない)
汗をかきながら、必死で打ってくる。
(それならば、何故あのとき倒れていたんだ!)
リーフの怒りとともに、攻撃も強くなっていく。
(あの娘が倒れて、オリバーがかばってなかったら。それよりも、オリバーと一緒に戦っていたら)
オリビアも、怒りに気がついていた。
(オリバーは死なずに済んだのに!)
(リーフ、泣いている?)
何故怒っているかは分からない。
でも、怒りよりも悲しみを感じていた。
(僕だって、八つ当たりだってわかってる。でも、オリバーがいない日常をこれからどう過ごせばいいんだよ!)
「そこまで!」
カメリアのレフェリーストップが入った。
「リーフ、やりすぎです。オリビア、顔に傷つけて」
「気づきませんでした」
手合わせが終わると、血の温かさと痛みを感じる。
「ごめん」
リーフから緑の優しい光が出る。
顔も腕の傷も治っていく。
「リーフの治癒魔法は、何でも治せますからね。あなたも自分にかけなさいな」
「僕はまだいい。…ちょっと頭冷やしてくる」
リーフは一人去っていく。
「女性残していくなんて、どういうつもりですの?」
「でもさ、拳じゃないけど、二人戦い合ったし。仲良くなれるよね」
「どうかな。むしろぎすぎすしそうな気がする」
「何で何で?戦った二人は理解を深めるんじゃないの?」
でも、オリビアにもリーフのことは分からないままだった。




