23話
ダンジョンの中は等間隔に灯りがつけられているが、やはり薄暗い。
「他の初心者を邪魔したら悪いから、魔法石は10層だけ。君は討伐するのに専念して」
「リーフ、いい加減オリビアを君呼びするのはやめなさいな」
「別にいいだろ。区別はできているんだから」
「あなたが名前付けたのに、いつまでも他人感覚じゃないですか!」
「別に彼女と仲良くする気はないし」
カメリアがリーフを窘めている。
「リーダーはああ言っているけど、オリビアと話すようになってきたよね」
「そうですね。言葉に刺々しさは感じてはいますが」
「リーフは初めての人にはいつもあんな感じだから」
それは、オリバー以外のパーティーとの初対面時に見てきたから、知ってはいる。
「私たちはまあ、敵意とかなかったし。話しかけたとき、追放されて弱っていたから、マイルドになっていたかな」
心がズキッと痛む。
(リーフ、そんなにショック受けていたんだな。追放してからは会わないようにしていたし、すぐに活躍するようになったから、気づかなかった)
「今の態度も、色々あってイライラしているだけだから、落ち着いたらオリビアに対しても普通に話すと思うよ」
(俺が中にいるときならともかく、この体の女性が戻ってきたらあの態度は可哀想だからな。少しでも緩和させていかないと)
そのとき、ピリッと気配がした。
「来るよ…」
そう言い終わる前に、オリビアは走り出す。
そして、目の前にやってきたものに向かって、振り切る。
その速さに皆、目を見張っていた。
一体の頭と胴が真っ二つにされたゴブリンがいた。
この状況でもまだ死んだことが分かっていないのか、ピクピクと動いている。
(この体だと振り切るのに重さ感じるなあ。でも、一撃で倒せたし、俺の技術からするとやっぱりオーバーキル?)
別に持たされた短剣で両耳を切り落とすと、ゴブリンの死体や血液は消滅していく。
ひと仕事終えたと、手で汗をぬぐう。
振り返って、黙って見ている皆にびっくりする。
「ど、どうしました?」
何かしてしまったのかと顔を引き攣らせる。
「オリビア、すごーい!」
興奮して、セレストが抱きついてくる。
「初めてで、あんな一瞬で倒せるなんて見事だね」
「はい、私も驚きました」
特訓していたとはいえ、自分でもあんなに早く動けるとは思わなかった。
「それに、素材の回収も手慣れてましたわね。リーフが教えたんですの?」
「いや、僕は何も」
「何だか体が自然に動いていて。前にやったことあるのかもしれません」
慌てて取り繕う。
自分の言葉の通り、討伐したらすぐに素材を回収する動きが染み付いていた。
「やはり、記憶を失う前から冒険者だったのかもしれませんわね。ダンジョンに来たことは正解だったかもしれませんわ」
「前にやっていたことを繰り返したら、記憶戻るかもしれないね」
その期待には応えられないので、苦笑いするしかなかった。
彼女らは次の層へと向かっていく。
リーフを後ろに残して。
(あの振り切り方、オリバーと同じだった)




