17話
「私より皆さんはどうなんですか?」
オリビアの言葉に、一回注目が集まる。
そして、顔を見合わせた。
くすっと笑い声が漏れる。
「私たちとリーフはそんなんじゃないよー」
「え、そうなんですか」
(最初はてっきりハーレムかなんかで、俺はおじゃま虫かなと思ってたんだけど。リーフが前の俺たち以外とこう和気あいあいと話すの珍しいし)
「私、故郷に婚約者がいるの」
カナリーはそう話す。
「あ、そうだったんですね」
「だから、パーティーの仲間ってだけで、それ以上はないよ、ね?」
「うん、そうだね」
そう話すリーフの顔はどこか悲しげに見えた。
「勘違いしないように言っておくけど、僕にはずっと好きな人がいる」
「え…」
リーフとずっと過ごしてきて、恋愛の話なんて初めてだった。
「でも、そのことを言う気はないよ。…もう、言えないしね」
そんな沈んだ表情をさせるほど、リーフが恋いこがれる人をオリビアは知らなかった。
(やっぱり、その相手はカナリーなのか。俺は彼女たちのことはリーフがパーティー組んでから知った。でも、実はリーフは前から知っていたのか?)
オリビアは一人で頭をぐるぐるさせて、考える。
(リーフが幸せになるためなら、その恋を応援したい。でも、恋人というか婚約者がいる相手は不毛だろ。リーフに略奪してほしい訳じゃないし。俺のことを面倒みてくれるカナリーたちにも不幸にはなってほしくないんだ。俺はどうすればいいんだ!)
頭を抱えるオリビアに、四人は何やっているんだろうという、怪訝な目を向けてくる。
「これで話は終わりな」
「せっかくコイバナできると思ったのに」
「セレスト、蒸し返さない」
口を尖らせてむくれるセレストを、カメリアはたしなめる。
「先ほど軽く話したんですが、私たちもそろそろクエスト再開しようかと思いましたの」
「それはいい。僕もソロでやれること少ないなと思ってたんだ」
「まあ、最低一人でも、オリビアのところに残すけど」
「お留守番くらいできますよ?」
自分のせいで、クエスト進行に支障が出るのは申し訳ない。
「たくさん走ったからか、足の動きも滑らかになりましたし、もう転ぶこともないと思うんですが」
「そのことも心配ですが、目的はトレーニングですわね」
「話したでしょ。オリビア、魔法使えるかもしれないって。剣も銃も体術もすぐにマスターするのは難しいけど、まずは自衛手段を多めに用意してほしいんだ!」
「私のために、ありがとうございます」
オリビアは頭を下げる。
「オリビアのことは何も分からないままだけど、もしかしたら人身売買とかに関わっているかもしれないからね」
「そういった組織に襲われる可能性があるかもしれないと頭に入れておいてください」
それまで、何も話してなかったリーフが口を開く。
「待って。剣って、どういうこと?教えるのカメリアたちだけじゃないの?」
「特訓付き合うって、言ってたじゃん!」
「それは基礎的な体力とかって意味で。話の通りなら、僕も日中彼女に付き合わないといけないってこと?今日みたいにクエスト前とか、帰った後にしようと思ってたんだけど」
「リーダーが付きっきりで教えるときは、私たち三人がクエスト行くから」
「休もうとしても、リーフは休まないでしょう。あなたが体動かさないと、嫌なことばかり考えてしまうのは仕方ないと分かっていますので、せめてクエストからは離れなさいな」
(つくづく思うが、今のリーフ本当社畜だな)
リーフは三人に詰め寄られてしまう。
オリビアはリーフの服の裾をつかむ。
「君、どうした…」
「私は剣を教わるなら、あなたがいいです」
(リーフは俺の剣を好きだと言ってくれた。でも、俺だって、確実に敵を倒す、リーフのしっかりした剣が好きなんだ)
オリビアの覚悟を持った目を向ける。
(いつまで、この体でいられるかは分からない。でも、まだこの世にいられる間は、少しでもリーフに追いつきたい)
リーフは、その強い目を向けられ、顔を引き攣らせる。
「昨日も言ったけど、剣のことなら甘くする気はないよ」
「分かってます!」
「覚悟があるなら、教えてあげる」
目をそらしながら、そう言った。