16話
家に着いたときには、すっかり朝日は昇っていた。
「気持ち悪っ」
「庭で吐かないでよ」
人の走りとは思えないスピードで、揺れも激しかったので、気分が悪くなって、酔っていた。
家に入ると、いい匂いがしてきたので、朝食はもうできているようだった。
「あら、おかえりなさい。支度終わっていますわ。もちろん、リーフのもあるから、ちゃんと食べてくださいね」
「分かったよ」
オリビアは気分が悪いものの、この体の全速力で行きは走ってきたので、お腹は空いていた。
とりあえず一度出して、喉をさっぱりさせてから、食べることにした。
テーブルでは、リーフも合わせて、四人がもう座っていたので、オリビアも合流する。
「カナリーから朝日昇る前から出て行ったと聞いたけど、どこに行ってたの?」
「上級ダンジョン」
「随分遠いところ行ったねえ」
セレストがのほほんと言った一方、カメリアとカナリーは、呆れでため息が出る。
「リーフ、オリビアがまだ一週間前に目覚めたばかりで、歩くリハビリの最中だって分かってないんですの?」
「しかも、出てから戻るまで三時間も経ってないから、リーフのスピードに合わせたんでしょ」
「行きはそうだけど、帰りは疲れたって言うから、背負って帰ってきたよ」
「「「へえー」」」
三人は声をそろえて、ニヤニヤする。
「何、その顔?」
リーフはそれを見て、怪訝な表情をする。
「いやあ、ずいぶん仲良くなったなあと思って」
(もしかして、オリビアとリーフが恋愛関係にあるとか考えているのか)
しかし、オリビアの中身は男であるオリバーである。
ずっと過ごしてきた幼なじみに今さらそんな感情を持つなんてないし、同性同士の恋愛を否定はしないが、それは自分には当てはまらないと思っていた。
20年生きていた間はまともに恋愛感情を抱いたことはないが。
(でも、リーフはどうだろ)
チラッと顔を覗く。
リーフも女性どころかパーティーメンバー以外の他人と関わることもあまりなかった。
パーティーメンバーとだって、オリバーが間に入らないと、まともに話さないこともあったが。
(タイプとか聞いたことなかったもんな。まあ、オリビアは側は美少女だし、俺も清楚な女性演じているから、惚れてもおかしくはないよな)
うんうん、自分でうなずいている。
(まあ、今の俺には恋愛する資格なんてないけど)
今のオリバーは何の罪のない女性の身体を乗っ取っている悪霊だと思っている。
それ以前に、有能なリーフを追放し、勇者パーティー『オリーフロード』を壊滅に追い込んだ戦犯だ。
(次の勇者が見つかるまで、魔王が復活するとかないんだといいけど)