15話
「はあはあ」
オリビアは激しく息を切らしている。
地面に四つん這いになって、座り込んでいた。
「体力なさすぎない?僕、いつもここまで一時間でこれるのに、君に合わせて結局一時間半かかったし」
リーフはタオルで汗をぬぐって、オリビアを見下ろしている。
「リーフ、さんが、早すぎる、だけです」
最初はオリビアに合わせてくれたが、中盤ぐらいに加速していった。
男女の歩幅の差もあり、どんどん差が開いていく。
(リーフってこんなに速くて、持久力あったのか。同じパーティーの頃は、馬車ちゃんと使っていたし、分からなかったぜ。オリバーでも追いつける気がしねえ)
「せっかくだし、ダンジョンでモンスター倒して行こうかな」
「今、剣持ってないですよ。」
「肩慣らしくらいなら、魔法使えれば、十分だし」
「でも、ここで私を置いていかないでください!」
ダンジョンの入り口はどこも同じ造りだが、モンスターの強さでオーラの違いを感じ取れることも少なくない。
おどろおどろしい黒と紫が混ざり合ったオーラがたちのぼっていた。
ダンジョンからモンスターが出てくることは滅多にないが、近くにある森から襲ってくることもある。
オリビアにはまだ自衛手段がない。
「早くここのモンスター駆逐したかったのに」
「ダンジョンのモンスター全て駆逐なんてできる訳ないでしょう」
「でも、どれがオリバーを襲ったモンスターかは分からないから」
オリビアは口を閉ざす。
オリビアがここに一人残されたくなかったのは、このダンジョンが自分の死んだ場所だから、居心地が悪いというのもあった。
(自分が入ってしまったこの娘のこと調べたかったから、いずれは来ないととは思っていたんだよな)
しかし、今の自分一人では何もできない。
リーフたちのパーティーと一緒に入っても、お荷物になるだけだ。
ここに入るのは、実力を積んでからだと思っていた。
(それに、ここやけに寒気がすんだよな)
鳥肌が立ち、腕をさする。
(自分が死んだ場所だから、まあいい気はしないとは思っていたけど。思ったより、トラウマだったのか)
「オリバーの命を直接奪ったやつは、灰すらも残さなかったけど。パーティーメンバーの話を聞くと、いろんなモンスターから攻撃受けたらしいから、該当のモンスターは根絶やしにしたいんだよね」
(後は、殺気をかなり出しているリーフのそばにいるからかもしれねえ。憎んでいる俺がいないからって、八つ当たりにモンスター倒してえんだな)
リーフの憎しみがこもったその表情に、ドン引いて、苦笑いしか浮かべられない。
「今日のクエストのとき、殺ればいいか。じゃ、一回帰るよ。ギルドで今日必要な素材確認したいし」
「またあの距離を帰るんですか?」
オリビアにもう走る気力どころか歩く気力も残っていない。
しかし、こんな朝早くに馬車が走っている様子はない。
「じゃあ、また負ぶって行こうか」
「いいんですか?」
しばらくしたら、体力も戻ってくるだろう。
言葉に甘えて、リーフの背中に負ぶさった。
「君に合わせないなら、僕の走りやすいスピードで行けるしね」
そして、これから長距離を走るとは思えない速さでスピードダッシュを決めた。