14話
玄関先で軽くストレッチする。
辺りはまだ暗く、日の光はまだ出ていない。
「ランニングするんですよね?どこまで行くんですか?」
「ダンジョンまで」
「この近くだと初心者向けか。確かにちょうどいいですね」
この家からギルドまでが徒歩10分程。
そして、ギルドから初心者向けダンジョンが徒歩20分かかる。
ダンジョンまで往復して、一時間かかる。
「いや、上級者向けのところだけど」
「え、それって、馬車で二時間かかるところじゃないですか」
『オリーフロード』は高ランクのパーティーだったので、上級者向けのダンジョンにも行けた。
ただ、行き帰りに時間がかかるので、頻繁に行けるところではない。
「まあ、馬はゆったり走っているから、人が歩いているのとそう変わらないでしょ。僕たちは走って行くんだから。いつも二時間あれば、戻ってこれるし」
「どれだけ全速力で向かうつもりなんですか」
「ほら、さっさと行くよ」
タッタとリーフが走りだし、その後をオリビアが追いかける。
街灯がついていない時間なので町中は暗かった。
数日したら新月なので、三日月にならないほど月の光は細いが、星々が輝いている。
「僕、どうかしていた」
「え?」
不意にリーフがつぶやく。
「オリバーの靴は僕も履かないで大事に取って置こうと思っていたんだ」
「まず、サイズ違うんでしょ?」
「1cmくらい誤差だよ。同じパーティーにいたときは間違えたこともあったし」
まだお金に余裕がなくて、リーフとオリバーが同室だった頃のことだった。
起き上がって履いてみると、いつもより小さいなと気づいた。
無理矢理押し込んで、パーティーの集まりに行くと、リーフが間違えて履いているのを見つけた。
(少しでも隙間があって、歩きづらくないかと思ってたんだよな)
「それでも、オリバーさんのが1cm大きいんでしょ」
「そう頑なに主張してくるところ、オリバーと一緒だなあ」
同一視されたとオリビアはびくっとした。
「だから、何でだろうな。君にオリバーの靴を履いてもらいたくなった」
「…そんなこと言われても、私にはぶかぶかすぎますよ」
「だから、もう履いてもらうことはないよ」
そして、リーフははさらに走るスピードを増していき、オリビアもその後を追いかけた。