13話
翌日の朝。
ドアがバーンと音を立て、開かれる。
「朝だよ、起きな」
目をこすりながら、オリビアは起き上がる。
「早すぎない?ですか」
カーテンからはまだ朝日の光は差し込まない。
「僕、今日もクエストあるから。君に付き合っている時間なんて、あまりないよ」
そう言って、急かすので、髪を整えるなど簡単な身支度をする。
扉の外から、早く早くと急かす声が聞こえてくる。
部屋を出ると、玄関でリーフは待っていた。
「遅い」
「女の子は支度がかかるのカメリアさんたちと暮らしているから、知ってますよね。メイクする時間もなかったし」
最初のうちは、メイクに不慣れなオリビアだったが、記憶喪失と説明していたので、カメリアたちにしてもらったり、教えられたので、ナチュラルメイクなら、一人でできるようになった。
もう少し歩けるようになったら、外向けのメイクを教わることになっている。
「この時間に見る人もいないよ。それに、汗で崩れるだろうし」
「まだ、涼しいこの時間帯にそこまで汗かくことはないでしょう?」
「…」
「え?」
リーフが向けてくる視線に、何をやる気なんだと、少し怯えを感じる。
「それよりその靴で行くの?」
リーフが目線を下に向けると、おしゃれなヒールのある靴だった。
「これしか持ってなくて」
ヒールのある靴も最初は慣れなかったが、歩くリハビリの最中、普段使うであろう靴で慣れた方がいいと、カメリアたちから靴を譲り受けた。
「運動靴の方がいいでしょ。持ってくる」
リーフが部屋へと戻っていくのを、オリビアが後からついていく。
開けられた部屋をのぞき込むと、シューズボックスで探していた。
「玄関で待っていればいいのに。まあ、早く履かせたいから、ベッドにでも座っていて」
促された通り、ベッドに腰かける。
「でも、今履いているの以外ボロボロだな。今度買い換えないと」
リーフの言う通り、もう少しで穴が空きそうなものや、もう既に穴が空いているものもある。
「あ…」
その中に、新品同然のきれいな靴が数足あった。
「これはオリバーの。他のパーティーの奴らサイズ合わないから、もらってくれってさ。僕だって、オリバーよりサイズ小さいのに」
一足取り出して、オリビアに履かせる。
「ふふっ。やっぱり、ぶかぶか」
(本当にぶかぶかだな。自分のものとは思えない)
オリビアは足を揺らし、隙間のある靴をかぽかぽ動かしている。
「確かにその靴もぶかぶかだけど、リーダーの靴もぶかぶかだと思うよ」
扉のところでカナリーが靴を持っていた。
「こんな朝早くから、うるさいよ」
「それは悪かったね。カメリアとセレストは?」
「二人はまだ寝ているよ。まあ、私が起きたタイミングで二人がいちゃついていただけだし」
「いちゃ…」
オリビアは思わず、顔を赤くする。
「カナリー。彼女とはそういうんじゃない」
一方、リーフは冷たい声で否定する。
そのあまりの温度差に、オリビアはリーフに怯えた目を向けてしまう。
「いい加減、名前で呼んであげなよ。リーダーが付けた名前なんだしさ」
カナリーは、強く肘でつついた。
「ごめんね。運動靴を用意してなかった。私の貸してあげる」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、私は二度寝するか」
カナリーは、部屋を出ていく。
「さっさと行くよ」
先程までの朗らかな時間から一変した。
オリビアは靴を履き替え、玄関を出て行く。