12話
オリビアはリーフに負ぶられたまま、リーフたちが暮らす家に着いた。
「ただいま」
リーフとオリビアを迎えたカメリアたちは、リーフがオリビアをおんぶする光景に驚いて、目を丸くして、まじまじと眺めている。
「もう体力いくらか回復したでしょ。さっさと降りて」
「は、はい」
リーフはそのまま、まっすぐ自分の部屋に向かう。
「ごめんねー。オリビアのこと迎えに行けなくて」
セレストはしょぼんと落ち込む。
「い、いえ。リーフさんが連れて来てくれましたし」
気にするなとばかなりに手を振る。
「そうですわ!どういうことですの?リーフがオリビアのことおんぶして、帰ってくるなんて」
「買い物帰りに訓練場寄りたいって言ってから、一時間も経ってないよね?私たちは荷物置いて、少し料理の準備をしてから、迎えに行こうと思ってたけど」
「その、倒れかけたところを助けていただいて」
「え、リーダーが?」
全員心底驚いているので、オリビアが助けられたことを疑問に思ったのも、不思議なことではなかった。
「まあ、あの人も少しずつ和解する気はあるんでしょうね」
「和解って、やっぱり私リーフさんに何かしたんですか?謝った方がいいのかな」
自分がオリバーであることは言えないので、その関係のことは何も言えないが、オリビアが無事に暮らすために謝罪が必要なら、するつもりはあった。
「オリビア、何も悪くないよ!」
「理由は一応知っているけど、オリビアから言ったら、余計怒るだけだからね」
「リーフがこじらせているだけなので、気にすることありませんわ」
カメリアたちはかたくなに理由を話そうとはしない。
「でも、今日のお礼はした方がいいですよね。今からリーフさんの部屋に行ってきます」
「うーん。まだ、一対一で話すのはやめた方がいいかな」
「ちょうどいいし、みんなで夜ご飯食べるときにでも、話そうよ。いい加減、まともなご飯、リーダーに食べてもらいたかったんだよね」
「私たちが呼んでくるので、オリビアは座って待っていてくださいな」
カメリアたちに徹底的に過保護に扱われるので、オリビアはむずがゆく感じる。
オリビアの体を守りたいとは思ってはいるが、オリバーとうの本人は、リーフを追放して、そんな扱いを受ける資格はないと考えていたので。
呼びに行ったのは、カメリアとセレストで、残ったカナリーとお皿を準備していく。
セレストに背中を押され、カメリアに小言を言われながら、リーフがやってくる。
「携帯食、部屋に置いてあるからいいのに」
「まともな食事取らないといつか倒れますわよ」
「こいつにいいなよ、今日倒れかけたばかりだし」
オリビアに指さして言う。
「もちろん、最初は胃の調子に合わせて、控えめにしていましたが。そろそろしっかり食べてもらおうと思っていたところですわ」
四人がけの机だったが、リーフを誕生日席に座らせ、五人で並ぶ。
「いただきます」
食事を始めていく。
オリビアに話させようと、三人は黙っていたが、オリビアはタイミングがつかめなかった。
「どうしたの、みんな。いつも楽しくしゃべっているのに」
きょとんと首をかしげている。
オリビアとカメリアたちとの態度の違いを思い知らされた。
「あの、私が今日のことお礼が言いたくて。頭ぶつけるの庇ってくださり、ありがとうございました」
「あっそ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
また、沈黙が流れる。
「何で木剣持っていたの?」
リーフが不意に話しかけた。
「実は剣で戦っていたことを思い出したとか?」
「い、いえ。なんだかいいなって」
「何それ、あやふやだな。まあ、確かに鞘とか身につけてなかったし」
初めて、リーフが軽く笑いかけた。
(よかった。笑えなくなったとか、そういう訳ではないんだ)
「そういや、オリバーの剣なくなってたな」
急にオリバーの話が出て、ドキッとする。
「鞘はあったのに、どこ行ったんだろ」
「それなら、あのときの蜘蛛が食べてしまったみたいで」
「へえ」
笑みに黒いものが浮かんでくる。
「あの蜘蛛、もっと痛めつけてから、殺せばよかった」
(何で、そんな恨みがましい目を向けるんだ!そうだ!あの剣はリーフも抜くの手伝ってくれた。オリバーが亡くなったなら、リーフのものになってもおかしくなかったのに、それが奪われたから、こんなに怒っているのか)
オリビアは一人で納得する。
「でも、何で君はそのこと知ってるの?あのときから眠っていたはずなのに」
「微かに起きていたみたいで、そのときの記憶があるんです」
「ふーん」
興味なさげに、食材をつまんでいく。
「じゃ、見たんだ。オリバーで剣で戦っていたところ」
「え?」
「何の記憶もないのに、剣を選んだのはそういうことでしょ?」
「そ、そうですね」
もともと剣を使っていたという本当の理由を言えないので、そう誤魔化す。
「僕、オリバーの剣好き」
リーフがそうつぶやく。
「え?」
「小さい頃から、僕はオリバーの剣しか見えていない。あの剣を見たら、誰だって惹かれるよ」
昔のことを懐かしむ表情をする。
(何でリーフは俺のことを恨んでいるはずなのに、そんなに目を輝かせているんだよ)
想定外の表情にオリビアは動揺する。
「特訓するなら、協力するけど」
「え?」
「その代わりに今までのリハビリなんて、生ぬるいものじゃないから。厳しくやるよ」
ニヤリと笑いかける。
「よ、よろしくお願いします」
「じゃ、明日の朝からね」
食べ終わったリーフは食器を片づけ、部屋に戻っていく。
「よかったですわね。少しずつ距離が近づいていきますわ」
「リーダーが笑っているの久しぶりに見たよ!」
「やっぱり、オリバーさんが大切なんだね」
そんなことはないと言いたいが、赤の他人なので、オリビアは口を挟めない。
(この娘たち、オリバーに対して、悪い感情を持ってないのか。リーフから追放されたこと聞かされているはずなのに)
リーフやカメリアたちのオリバーに対する好印象に、疑問視していた。