10話
「オリビアは何か興味ある?」
セレストが問いかけてくる。
「私は…」
オリビアは言っていいのかと、言い淀む。
それでも、決意を込めて、言い放つ。
「私は、剣がやりたいです」
数日前まで昏睡状態で、筋肉が落ちたこの身体でまともに剣を持てるか分からない。
そもそもこの少女の体に剣士としての素質がないかもしれない。
それでも、頭に思い浮かぶのは、リーフと何度も剣を打ち合って、切磋琢磨したことだった。
「私が冒険者だったとき、どう戦っていたのか。そもそも、冒険者かどうかすら分かりません。でも、どうしても剣に惹かれるんです」
駄目か、と周りの顔色をうかがう。
「いいんじゃないかしら」
最初に口を開いたのはレイチェルだった。
「あまりにも適正からかけ離れているようだったら、命にも関わるから止めるけど。でも、何ごとも経験よ」
「ありがとうございます」
肯定してくれたことがうれしくて、頭をばっと下げる。
「でも、オリビアはやっと歩けるようになったばかりだもの。しばらくは、基礎体力をつけてからね」
「それはもちろんです」
「でも、剣なら素振りくらいならできると思うよ。リーダーもやっているし」
「リーフが?」
確かに同じパーティーにいた頃は、肩を並べて、よく一緒に振っていた。
「うん。家の近所だと苦情くるから、ギルドの練習場借りているみたいだけど」
評判が上がった現在でも、オリバーとの習慣だったことを続けてくれることに、少し嬉しく感じている。
むしろ、リハビリに手こずっていたとはいえ、今まで素振りをやってこなかった自分が恥ずかしい。
「じゃあ、私も練習場でしか素振りはできないですね」
「そうだね。オリビアは大丈夫だと思うけど、リーダー勢い余って、木を切り倒しちゃって。そこから、緊急時以外庭で武器持ったりするの禁止になっちゃったから」
「それは大変でしたね」
リーフの現在のあまりの規格外さに顔を引き攣らせる。
「もしかして、リーダーに嫌われているかもってこと、気にしているの?」
「はい。やはり、私と顔を合わせるの嫌なんじゃないかと」
オリビアは顔をうつむかせる。
(さすがに中身が俺とは気づいてはいないだろうけど、何か感じ取って、嫌悪感を持っているんじゃないかとは心配にはなる)
三人にも、オリビアに心配させないように隠してはいたが、リーフがオリビアを避けているのは薄々と気づいていたので、頭を悩ませている。
「私、何かしてしまったんでしょうか?」
「い、いえ。あなたのせいではありませんことよ」
カメリアたちは、泣かせまいと必死で取り繕う。
「どうする?あのこと言っちゃう?気になっているみたいだし」
「でも、そのこと知ったら、気に病んじゃうと思うよ」
「先ほども言いましたが、オリビアに責任はありませんわ」
オリビアに聞かせないようにこそこそ三人で話し合う。
「そうだ!」
セレストが声を上げる。
「リーフとオリビアが戦えばいいんだよ。夕日を背に!」
「は?」
「え?」
カメリアとカナリーは、セレストの言っていることが分からなかった。
「拳を通して、心を通わせた二人は仲良くなれるよ!」
「この娘、魔法使いなのに、どうしてこうも脳筋思考」
「カメリアとセレストと、こう性格とジョブが正反対なの本当面白いよね」
カメリアは頭を抱えるしかなかった。
「まあ、時薬と言いますし。練習場で顔を合わせる機会も増えたら、仲も少しは深まるんじゃないかしら」
「そうだといいですね」
問題を引き伸ばすしかない返答に、苦笑いするしかなかった。




