表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/38

1話

 ダンジョンの中を一人の青年が歩いている。

男性平均より頭ひとつ飛び出たくらいの身長に、スマートながらに鍛えた筋肉質な身体。

肌の色は白く、ほりの深い顔で鼻も高く、周りの女性がほっとくことができない美青年。

さらっとした金髪に、瞳の色はオリーブ色。

その青年は、オリバー・ナイジェル。

勇者パーティー『オリーフロード』のリーダーで、予言によって選ばれた勇者である。

とある村の裕福な家で育てられ、剣の腕を磨いてきた。

国の占い師が、その村にいる少年が勇者であると予言し、模擬戦で勝利したところを見初められ、勇者となった。

それから数年間修行を続け、14歳のときには村から出て、王都にあるギルドに所属する冒険者となり、パーティーを結成した。

もうすぐ20歳になる現在は、ダンジョンに潜ったり、クエストをこなしたりと、いつか復活するかもしれない魔王に備えて、レベルを上げている。

そんなオリバーだが、今は満身創痍である。

射抜かれた左足を引きずり、左腕からは血を流している。

セットした髪はボサボサで、整った顔も泥だらけであった。

そんな悲惨な状況にも関わらず、周りには他のパーティーメンバーはいない。

ただひたすらに歩き続けている。

「あいつら、もうダンジョンの外に出たか?」

こうなった原因は、クエストの失敗にある。

ダンジョンにしかいないモンスターの素材集めであった。

初めて行くところではあるが、普段の『オリーフロード』なら、余裕で最下層まで行けるレベルのダンジョンであった。

しかし、少しの油断で、強くなったと感じるモンスターに襲われ、パーティーメンバー皆怪我を負い、逃げるために方々に散らばった。

殿を務めていたオリバーだけが残されてしまったのだった。

「俺も、無事に地上に戻れるかね」

見上げて、地上に思いを馳せる。

廊下をしばらく歩き続けている。

今のところ、モンスターは出てきていない。

しかし、目の前に広間が開けて見えてきた。

今日はそこまで深い層には降りていないが、低レベルであるはずのモンスターにやられてしまったため、油断はできない。

背中に背負っていた剣を構える。

広間に入っていく。

「何もいない?」

広間には必ずいるはずのモンスターの姿が見えない。

「そんなはずは…」

どこかに隠れているのではないかと、辺りを見回す。

そして、オリバーの視界に、横たわっている人が入る。

「大丈夫か!?」

こんなモンスターだらけのダンジョンでぐっすり寝られる訳がない。

それならば、モンスターにやられて動けなくなっているか、最悪もう死んでいるか。

ボロボロで痛む体で無理矢理走って向かっていく。

倒れていたのは、女性であった。

真っ白な肌に、透き通るような腰まで届く長い金髪。

目は閉じられていても、顔の造形が整った美女であることが分かる。

オリバーとは違い、泥や血で汚れておらず、怪我も負っていない。

まるで寝ているだけのように見える。

「何でこんなところで…」

口に手を掲げてみると、呼吸はしているようだ。

「よかった…」

安堵して、ほっと一息をつく。

しかし、安心したオリバーは、背後から何者かが近寄るのに気づかなかった。

その隙に黒く鋭利なものがオリバーの腰を突き刺した。

「ぐはっ」

オリバーは吐血し、倒れこむ。

「な、何だ…」

後ろを振り返ると、オリバーの2倍をゆうに超えるほどの大きさの巨大クモがいた。

「何で浅い層にこんな高いレベルのモンスターが…」

必ずモンスターが出る広間とはいえ、浅い層には人が対峙できるほどの大きさのモンスターしか出てこないはずであった。

このような巨大クモなど、最下層にいてもおかしくないレベルである。

「何にしろこいつをどうにかしないと、ここからは出られないようだな」

女性の近くに置いていた剣を拾って、巨大クモに向ける。

後ろにいる女性に目を向ける。

彼女を無傷で早く地上に連れ帰らないといけない。

そう気をクモから逸らした一瞬で、クモは口から糸を吐き出す。

その糸はオリバーの剣を奪い取った。

「な…」

瞬く間に、剣はクモの口に入り、バキゴキと噛み砕く音が周りにこだまし、響いている。

その音が、次は自分がこうなる番だと、恐怖を掻き立てる。

顔を恐怖で引き攣らせる。

今すぐに逃げ出したい。

でも、彼女を置いていく訳にはいかない。

巨大クモの長く黒い脚が素早く動き、オリバーの体を突き刺していく。

先ほどのスピードで糸を出せば、怪我を負ったオリバーは逃げ出すこともできないのに。

たくさんある赤い目はぎらりと光り、人のように動く口角はないのに、三日月のようにニヤリと上がったように見える。

なぶり殺すのが目的で、それなりの頭脳は持ち合わせているようだった。

体の至る所から出血し、生命力もだんだんと弱っていく。

もう立つことすらできずに、地面を這うことしかできない。

それでも、彼女をなんとか守ろうと覆いかぶさる。

そのとき、彼女の下から黄金に輝く魔方陣が浮かび上がる。

その光にクモはすくんで、動きが止まる。

でも、オリバーは意識が薄れていき、動くことができない。

「向こう光っているよ!」

人の足音と声が聞こえる。

ダンジョンから出たパーティーメンバーが助けを呼んでくれたのか。

これでこの女性だけは助かる。

そう安心して、最期にオリバーは笑みを浮かべる。

「オリバー!」

神様は親切なのか、意地悪なのか分からない。

「しっかりしろ、オリバー!」

死の間際にこんな幻聴を聞かせるのだから。

「誰かポーションくれ!」

だって、あいつが俺をこんなに心配してくれるわけないだろ。

「早く蘇生魔法使わないと」

でも、最期に一目会いたかった。

「リーフ…」

「生きてくれ、オリバー!」

オリバーが最期に見上げた先にいたのは、涙を浮かべた一人の青年だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ