強化装甲兵—―
強化装甲兵たちは色鮮やかなサッシュを肩からかけていて、黒いターバンも巻いている。都市の美観に気を使っているようだ。
「何の容疑で? 心当たりが多すぎて」
「幼児殺害だ」
「ああ、それは別の人間、……人間だと思うけど、まあ、そいつの仕業だよ。スーザンという名前を追うといい」
隊長各の装甲兵が左隣の部下に命令した。
これは覚えがある。何度も何度もあった。装甲兵がわたしを力ずくで連れていこうとする。
そんなとき、どう対応するか教えよう。
まず、装甲兵のバイザーを閉じるためのコードが二本、左の頸筋にある。これは完全な設計ミスだけど、これをちぎると、バイザーが上がって素顔が見える(この場合は女性だった)。そこにコーヒーカップとコーヒーの出がらしでつくった手榴弾を放り込み、ちぎったコード同士を結びつけると、バイザーが下がる。
くぐもった悲鳴が三秒くらい続くが、すぐに爆発が起き、女性装甲兵は大の字に倒れてしまう。
「殺せ!」
誰かが叫んで、ガトリングの連射が始まった。
ローブが裂けて、ターバンが飛んで分かったが、わたしは戦闘用スーツの上に服を着ていたらしい。おかげで魅力的な高度からスツーカ爆撃機みたいに飛び下りて、短剣を頭に突き立てることなどができる。死んだ装甲兵のガトリング砲が罪のない民間人のほうへと向いて、ギャアギャアワアワア悲鳴が上がる。弾は引き延ばされた時間のなかでゆっくりと動き、そのあいだを縫うように走っては、腰の短剣を奪い、それで排気システムを遮断して、スーツ内を一酸化炭素だらけにしてやる。ひとり、またひとりと一酸化炭素中毒で倒れていくなか、官憲のマヌケな銃弾が泉亭を囲むタイル装飾の美しい柱をガリガリと削り、老婆が口から血を吐いて、小さな子どもの両目が別々の方向へ吹き飛んでいく。
「きみたち、もう一生デスクワークから離れられないねえ!」
哄笑する。停職減給ものの流れ弾。一酸化炭素中毒の大盤振る舞い。馬鹿なおまわりと邪悪なジェスター。まるでチャップリンの喜劇みたいだ。
ああ、人をしたい。じわじわと命を奪いたい。一酸化炭素に手柄を横取りされるのにはうんざりだ。もっと殺す実感が欲しい。
残りふたりになると、装甲が防御どころかむしろ弱点となっていることに気づいたらしく、装甲板が崩れ落ち、蒼白い顔をした隊長と副官があらわれた。
副官がリヴォルヴァーを両手で持ち、わたしを狙う。
狙って放たれた弾丸を見切って、確実に距離を詰める。
銃弾を避けながら近づいてくるものに対し、人間は相当な恐怖を味わう。まるでAIの反乱を恐れるように。
わたしはと言うと、砕けたタイル装飾柱の一部を拾っていて、それを副官の口に突っ込んでいる。最初は口だが、押し込んで、喉、気道と食道で迷ったが、気道に押し込むと、肺胞がプチプチと潰れていく心地よい感触が指先のセンサーをくすぐって――。
銃声がして、スーツに当たり、潰れて、落ちる。隊長は走って逃げながらめちゃくちゃに銃を撃っている。
怯える人間はわたしが欲しいもの全てを与えてくれる。死ぬのが怖くない人間ほどつまらないものはないのだ。
わたしは追いついて、隊長の肩をつかみ、その恐怖に歪んだ顔を見た。
嗚呼、なんてスバラシイ。
ゆっくりじわじわ殺したい。
パン!と軽い銃声がきこえ、誰かが倒れる音がした。
見ると、大きなクッションを引っぱってきたフィルが真っ赤な胸を押さえて、クッションのなかに倒れていた。
わたしの制御コードがメリメリパチパチと音を立てだした。真っ赤な警告が視界の右上で激しく点滅し始め、冷却システムが追いつかないと悲鳴を上げた。わたしが噛みちぎって吐き出したものに四角いピンが打たれ、それが人間の鼻であると教える。指のあいだで癖の強い黒髪がぶちぶちと抜け、崩れた後頭部から脳の破片を浮かべた血がとめどなく流れ、わたしの攻撃対象が既に死亡したことを分析デバイスが教える。これ以上の攻撃が作戦目的にそぐわない無駄な行動であると注意を促している。
無駄ではない。わたしは感情フィールドのなかで叫んだつもりだったが、実際には口に出していた。
ついにとうとう冷却装置がわたしを強制終了した。五秒間、わたしはとんでいた。
制御コード。ステータス・オール・グリーン。
原状復帰の直後、わたしはクッションへと走った。その大きなクッションはフィルを飲み込んでしまっていた。飛び込んでみると、それはこの上もない安楽を与えるようにできていて、わたしは滑らかなシルクに包まれて、フィルを探すどころではなくなってしまった。眠い。さっきまでさんざん警告を出してきた制御コードが寝てしまえと誘っている。
「でも、フィルを探さないと」
そのとき、音がした。何かが燃える音。そして、銃声と叫び声。〈ビバ・ソトフ!〉。どんどん音は大きくなるのに、わたしは落ち着いている。鎮静と覚醒の狭間を彷徨いながら、わたしは全ての意識を遮断した。




