スカウトの行方は?
年度末が迫りつつあるある日、
津雲はある人物の家を訪ねに行った
その家の前にたたずむ津雲…
ふぅっと息を吐く
津雲【さて、行きますかね】
チャイムを押す…ピンポーン
山井【……はい】
津雲【山井裕典さんのお宅で
よろしいでしょうか】
山井【そうですが】と少し怯えた声で
津雲【東葉日報の津雲京介と
申します、すいません少し
お時間よろしいでしょうか
お願いがありまして】
山井【私の事は放っておいて
くれませんかね、
自業自得の面をありますが
今は生きる事で精一杯なので】
津雲【山井さん…あなたの事を
伺いに来たわけではありません、
あなたにお願いがあって
伺いました!
ここを開けていただけたら
ありがたいのですが】
少しして玄関のドアが開く…ガチャ…そこにはスラットした中年男性が
立っていた!つい先日まで煌びやかな
世界で活躍されていた人物とは
似ても似つかぬとはこの事を言うのだろうと津雲は心の中で思った
山井【どうぞ…こちらに】
津雲【すみませんね、時間割いて
いただきありがとうございます!
失礼します】と靴を脱いで
お邪魔する
居間ではなく和室の小さな部屋に
案内された、ここが執務室みたいなのだろうと感じていた
優美【いま、お茶を】
津雲【気にしないで下さい、
忘れてましたが
こちら宜しかったら】と
いくつかの紙袋を渡す
優美【こんなにたくさんは
いただけませんわ】
津雲【こちらが私からで
もう一つはある人からの依頼
でしてね、受け取ってもらわ
ないと私が怒られてしまいます
ので…】と頭を掻きながら
苦笑いしている
優美【分かりました!
ありがとうございます!
失礼します】と
部屋を後にする
山井【それで私に話というのは】
津雲【山井さん、単刀直入に言います!
ウチの会社に入って
もらえないだろうか】
山井…しばらく思考が止まっている
山井【気持ちはありがたいですが、
正気ですか?私の事を知ってて
お話されてますか?
逆の立場なら同じ業界に
誘うなんて事を】
津雲【だからこそですよ!
それに社会部ではなく
遊軍部へのお話なんです、
少なくとも山井さん
あなたは高校は卒業して
らっしゃいますよね】
山井【はい!そこは間違いないです!
大学に関しては】
津雲【そこまでに!それ以上聞くのは、
野暮というものですよ
そうは問屋が卸さないものです!
少なくとも高卒ならば
ウチの会社に入る事は
可能ですね】
山井【私は入るとは一言も】
津雲【山井さん!実を言いますとね、
私も高卒で東葉日報に入社した
んですよ!まぁそれまでそこで
アルバイトしていたせいも
あるのかも知れませんけどね】
山井【珍しい経歴ですね~
普通新聞社って大卒の方が
基本ですから】
津雲【大手新聞社ならそれが
原則なのかも知れませんが
ウチは小さな一地方新聞社
ですから】
山井【しかし、津雲さんの噂なら
私の耳にも届いてましたよ!
よく同業仲間が余計な事
しやがってとね】
津雲【それは褒め言葉として
受け取っておきます】
山井【しかし、取材する資格は
私にはありませんよ】
津雲【先程もお話しましたが
私の所属しているのは
遊軍部でして別名窓際と
呼ばれていましてね
好き勝手やらせてもらっている
わけでしてね】
山井【大手でしたらとっくに
閑職でしょうね】
津雲【今も窓際ですけどね
窓際20年以上ですよ】
山井【20年以上!一体
何をしでかしたんですか】
津雲【少し前に芸能事務所の社長の
性加害問題がようやく日の目を
みた事件がありましたね】
山井【えぇ~私はまだ駆け出しの頃
でしたので詳しい事は
不明でしたが】
津雲【その時追求すべきと
動こうとしたのですが、
どこからかの圧力に屈して
たらい回しにされて
今に至るというわけでしてね】
山井【それで…津雲さんを
飛ばした人達は今は…】
津雲【幹部に登りつめた人もいれば
大左遷された人もいます
様々ですね、まぁ憎まれても
恨まれても命を落とす事に
なってもやりきってしまう
暴走を止めたかったのかも
しれませんね】
津雲【ただ、最初は嘱託職員として
となりまして…大した給料が
出せないのですが、
しかも資料の管理も私と一緒に
というお話なのですがね】
少し考えこむ山井…
山井【少し時間をいただけますか?
私がお世話になれば
外野が色々とお騒がせに
なるかも知れませんし】
津雲【そこは大丈夫ですよ!
津雲も直接の部下と言えば
ほとんどのメディア媒体は
黙り込みますよ!
人脈は大事ですよね】
山井【恐ろしいほどの人脈
ありそうですね】
津雲【深い人脈とでも話しておきま
す、すいません長時間
お邪魔しましてそろそろ
おいとまします】と
立ち上がり玄関に向かう
山井【すみません私なんかのために】
津雲【いえいえ、あなたの着眼点は
鋭いものと感心してましたの
で、それに私も体力的にも
限界がありますから】
山井【お話の件、じっくり検討させて
いただきます】
津雲【ありがとうございます、
是非宜しくお願いいたします!
失礼致します】と玄関のドアを
開けて一礼をして山井家を
後にした
津雲【確率は消費税よりはあるかな…
慣れない事はするもの
じゃないな】