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第二王子 ロンメル・サンテペスのその一


ヴァレットという人間が、どういう奴かと聞かれれば「顔が綺麗なだけの嫌な奴」であると答えよう。


それ以上でも、それ以下でもない。


ーーーー


この国は文武両道であることが、尊ばれる。

しかし、文と武のどちらがより尊いかといえば、それは明確に武である。

なにせ魔物が跋扈し、定期的に魔王という特異存在が発生する世界だ。

世界的に見ても武の比重が重くなるのは仕方のないことだろう。


だから当然、王太子は兄上である。


兄上のは武の才がある。

多分知力ではいくらか僕の方が上だ。

しかし、兄上は知の方も別に悪くはなく、十分優秀な部類であると知っている。

その上で明確な武の才がある。

骨格だってがっしりとしていてたくましい。そして僕は細身だ。


また、兄は正室の子で、僕は側室の子。


もう、誰が見ても明確に分かる程に、兄が王太子である。


そして、僕は予備。

一段劣る、予備。


別に、不満という程の、不満はない。


だが。


この、人生には甲斐がない。

少しだけ、ほんの少しだけ、そう思ってしまうのだ。


ーーーー


「…………あ、おーい、メルっち」


「メ、メルっち、まさか僕のことですか?」


突然、背後から声を掛けられたかと思えば、そこにはヴァレットとか言う名前の不敬な奴がいた。


「よお、ロンメル」


「兄上、どうかされましたか?」


そして兄上もいる。


兄上はここ一年で、なんだか分厚くなっていた。体つきもそうだが、なんというか存在感が厚くなっているのだ。

そう、父上に、似てきている。


ちなみに、このヴァレットとか言う奴は、ここ1年ほど前から兄上の周りをうろちょろしている、変な奴だ。まさか敬語すら使えない奴だとは思いもしなかった。


「……………ねぇ、僕らと一緒に、鍛錬しよーぜ」


その、変な奴ヴァレットが、脈絡なくそんなことを言う。

よりによって鍛錬だと?それも兄上とも一緒に?


冗談じゃない。


「…ああ、僕は、やめておきますよ」


兄上と一緒に鍛錬だなんて正直御免だ。どうやったって比べられてしまう。

別に鍛錬が嫌な訳ではないが、劣等感を抱きながら鍛錬をするなんてのは、ぞっとしない。


なので、ここは断らせてもらおう。


「…………お、なんだおめー、さては僕にびびってんな」


「……は?」


そう思っていた、その時である。

断ろうとする僕に、ヴァレットとか言う奴が大層むかつく顔でそんなことを言う。


「な、何を言ってるんですか?貴方みたいな華奢な方に恐れるだなんて…」


「…………えー、とか言って、本当はびびってん、でしょ」


こ、こいつ。

無駄に顔が綺麗であるだけに、その煽る表情が殊更にむかつく。


「…あ?誰がびびってるって?」


そのせいで、つい地の声が出てしまった。


駄目だ、落ち着け。

ペースを乱すな。

こんな馬鹿は相手にするだけ無駄だ。


それに、何故かコイツは王や兄上のお気に入りであるようなので、変に関わりたくない。

ここは、もういっそ無視して立ち去ろう。


「…………やーい、弱虫」


「…っ!」


ぐ、ぐぅッ。

駄目だ。無視だ、こんな馬鹿は相手にするだけ無駄なのだっ!


「…………ぷぷぷ、なに、やっぱ怖いの?あらやだ、こいつチキン、ですわー」


「っははははははははは、面白い人だ!これは少しわからせてやる必要があるようですね」


こいつ絶対許さん。

兄上はともかく、絶対、貴様には、遅れはとらんからなっ!


「さぁ!兄上も行きますよ!」


「っくくく、わかったわかった、行こうか」


「…………やって、やんよー」


こうして僕ら三人は、鍛錬場へと向かうのだった。


ーーーー


それから僕らは鍛錬場で模擬戦をいっぱいやった。

兄上には結局勝てなかったけど、思っていたよりもずっといい勝負ができていた。


そして対ヴァレットでは…


「ふはははははははははっ、どうだ参ったかクソ雑魚!」


「…………ぐぎぎ、悔しいのぅ、悔しいのぅ」


ヴァレットはのっけから卑怯な手ばっかり使ってきた。

実力では圧倒的に僕の方が強いのに、卑怯な手を躊躇なく使ってくるので、結局毎回接戦になってしまった。


「この僕に、お前如きが、かなうと思ったかっ!身の程を知れゴミ虫がぁ!!」


だがそのせいで僕の、対外的王子フェイスが全て剥がされてしまった。

でも王子相手に、初手毒霧目潰しからの模擬剣滅多打ちしてくるような輩に、使うような敬語は持ち合わせてないので、後悔は無い。


「…………ふぁっく」


「ちょっ、お前それ王子相手に許されないぞっ、なんだお前その中指はお前ふざけんなよマジでっ!」


ホントなんなんだこいつ!?マジでボッコボコにしてやるかんなマジで!!


「くははっ、ロンメルそのくらいにしてやれ」


「……ぐ、兄上」


「…………あー君、メルっちが僕のこといじめるよー」


「あっ、ヴァレット、貴様っ!」


そう言って兄上に抱きつくヴァレット。業腹の極みである。

マジでいつか泣かす。


「しかしロンメル、見ない間に強くなったな」


そうしてヴァレットを睨みつけていると、不意に兄上が僕の頭を撫でてきた。


「あ、兄上!?」


なんというか最近の兄上は、というかここ1年の兄上は、なんだか父上のような雰囲気を出してきていて、なんだか「これぞ王太子」的な威厳が出てきている。


そんな人に褒められてしまうと、とてもそわそわしてて落ち着かない。


「お前は、頭もいいし、ホント大した奴だよ」


「あ、ぅ」


対外的王子フェイスを剥がされてしまっているからだろうか。

なんだか、無性に照れてしまう。

なんというか、この立派な、王太子である、兄上に……

認め、られて、いると、思うと……


「……はっ!?」


その時ふと横目にヴァレットの顔が目に入る。

その顔は美しく、それでいてイヤらしく、ニヨニヨとしている。


そして、ゆっくりと口パクをして…


『…………よかったね、ざぁこ』


と、その口は、確かにそう言っていた。


「ぐぎぃ…」


そして、その時僕は気づいた。

こいつは多分、僕の心のやるせなさを察していて、それを、それとなく良い方向にむけるために、模擬戦をしたのだと。


つまり。

模擬戦に誘導したのも、執拗に卑怯な手を使い僕の外面を剥いだのも、全て。

そう、全てこいつの手のひらの上だったのだ。


「…く、くそ、許さん」


試合には勝った。

だが勝負には大敗している。


何て嫌なヤツっ!!


「お、おいお前!もう一戦しろ!!」


これが…


「…………え、やだよ、めんどくさい」


「なあっ!?」


僕の永遠のライバル、ヴァレットとの出会いであった。


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[一言] 4人目、口パクの内容(笑)
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