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魔術局局長子息 レイシス・フリューゲルのその二


ヴァレットは、実に一月もの間、私の家にいた。

時折、自宅へと戻ることはあったが、それ以外はほぼ私の側でダラダラしていた。

今も、ソファに座る私の膝に頭を乗せて本を読んでいる。


「…………明日からは、元の生活に、戻るね」


「……」


それは前もって聞いていた。

ここでダラダラ出来るのはひと月だけだと。


「…………寂しい?」


「……」


寂しいというのを、正直、よく解っていない。

以前ヴァレットは、私から離れるのが寂しいと言っていた。

だが、私の中にそれと同じものがあるかは解らない。


「…………僕はもちろん、寂しい、名残惜しい」


「……」


ただ、ヴァレットは私から離れるのが寂しいと言う。

それは悪くない気分だ。


「…………月に二回くらい、これからも、泊まりにくる、よ」


「……」


そうか。

また来るのか。

まあ、なら大丈夫だ。


ーーーー


ヴァレットが出て行ってから、一日がたった。


私は全く寂しくなっていない。




心のど真ん中に、巨大な空洞が空き。


そこから、凍てつく風が轟々と流れる。


地獄の釜すらも底冷えするような冷気が、私の体を芯から凍らせていく。


寒い。心が寒い。心から寒い。


ヴァレットは言っていた。

寂しいと。笑って言っていた。


私は寂しくない。


こんな感情、笑って口に出来るはずがない。

だから、きっと。


コレは寂しいという感情などではない。


「会いにいこう」


ヴァレットに会いに行こう。

今わかった。

ヴァレットの側は、きっと暖かいのだ。


よし。


そうと決まれば、この勝手に出てくる「威圧」をなんとかしなくてはならない。

このまま外へ出たら惨事が起きる。ヴァレットに必要以上の迷惑を掛ける気はない。


さて、これを抑えるには力づくしかない。

よろしい、ならば暴力だ。


ーーーー


私の屋敷が消し飛んだ。

だが、そのかいあって、私は暴力を覚えた。

暴力で、己が威圧を黙らせた。


なにやら、離れた所で家族と使用人が怯えて見ているが、まぁ、今はいいだろう。

離れの屋敷を破壊した件は、後で父に謝ろう。


さあ、ヴァレットはどこだ。


「……」


魔力を広げ走らせる。

ヴァレットの魔力の波長は覚えている。


さて。


あった、残滓をみつけた。

というか、私はこんなことが出来たのだな。


「……」


霜の巨人を顕現させる。

氷の全身鎧を纏った巨人だ。

周りの人間が悲鳴をあげているが捨て置こう。一応、冷気が広がりすぎないように配慮だけはしてやろう。


「……」


巨人の手のひらに乗る。

方角はあっちだ。

体の周囲に防御障壁を纏う。


私を投げろ、巨人。


ーーーー


ヴァレットの上空で、進行方向に圧縮した凍気を炸裂させる。

逆噴射の要領で急停止。周囲に一瞬にして雪が舞う。


そのまま落下し、ヴァレットの20メートル手前地点の地面に向かって放出系氷結魔法を発射、巨大な氷の花を咲かせる。

落下速度を相殺し、無事着地。


前方のヴァレットを見やると、いつもの綺麗な笑顔がこちらを見ている。

舞う雪の中で、美しく微笑むヴァレットは殊更に綺麗だ。


「……」


実はさっきまで、奴を氷漬けにして持ち帰ろうか、などと少しだけ考えていたが奴の笑顔を見た途端、どうでも良くなった。


「…………ごめん、急用入っちゃった、打ち合わせ、またね」


ヴァレットはどうやら商談か何かの途中であったらしい。

そう言って、商談相手を帰らせた。

彼はすでにいくつかの商売をしていて、この休暇が終わったら暫くは忙しいと言っていた。


「……」


「…………大丈夫、気にしないで、今日のは、急ぎじゃない」


ヴァレットはそう言って微笑む。


ああ、やはりこいつを見ていると落ち着くのだな。


「…………ねぇ」


「……」


「…………僕に会いにきて、くれた?」


「……」


「…………凄いね、もう威圧、抑えられたん、だ」


「……」


「…………へへ、コレからは、いろんな、とこ、遊びいけるね」


「……」


「…………うん、会いに来てくれて、嬉しいよ、ありがと」


結局。


寂しいは、良くわからなかった。


だが、嬉しい、という気持ちは…


「…………とりあえず、寒いから、ラーメン、たべ行こ?」


多分、解った。


ーーーー


あれから数年、今の私には生きる意義がある。


それは人生を楽しむことだ。


「…………なに、転移魔法、創ったの?ロストマジック、の?」


「……」


「…………ああ、この氷の蝶々が、転移のポイント、なの?」


コレで暇な時はいつでも遊びにいける。

毎度巨人で飛んでくるのは、派手すぎるからな。


「…………蝶々、くれる、の?」


ヴァレットと遊ぶのは、楽しい。


「…………ありがと、綺麗だね、この子」


そして、ヴァレットが喜んでくれたら…


「…………レイレイを、呼べばくるの?」


私は嬉しい。


「…………じゃあ、これからは、いつでも、遊べるね」

最強セコム、搭載!

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― 新着の感想 ―
[一言] この盤面に本来のヒロインちゃん投入するの可哀想すぎないか……?w
[一言] 3人目君も大胆な行動に出ますね。
[一言] アルソックの方かもしれない
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