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魔術局局長子息 レイシス・フリューゲルのその一


ヴァレットという人間は「顔が綺麗な変な奴」である。


それが「綺麗な笑顔の私の親友」に変わったのは、果たしていつだったか。


覚えては居ないが、いつのまにかそうなっていた。


ーーーー


「…………僕は、ヴァレット、よろ」


「……?」


ある日、突如私の私室に顔の綺麗な人間が入ってきた。

ヴァレットと名乗るそいつは、私の書斎に入るなり、部屋のソファにごろりと寝転がって読書を始める。


「…………あ、おかまいなく」


「……」


なんだこいつ。

変な奴だ。


私はしばらく睨みつけていたが、そいつはマイペースに本を読み続けた。


暫く観察したものの、次第に興味が失せていき、最後は無視する事にした。

見たところ、害意があるという感じではない、放っておこう。


まぁ、いざとなれば魔法で殺せるしな。


ーーーー


「…………うま、これシャケおにぎりっていうんだ、よ」


「……」


その後、それは帰ることなく居続けた。

そして何故か一緒に夕餉を共にしている。

突如奴が作りだしたそれは、「和食」なるものらしい。

こいつの好物のようだが、正直どうでも良い。

腹に入れば同じだ。


「…………おいしいのう、おいしいのう」


「……」


こいつは饒舌ではなく、表情は乏しい。

だが雰囲気の煩い奴だ。


「…………ね、お新香うまくね?」


「……」


味は分かる。だが、それが美味いのか不味いのかは分からない。

分からないし、どうでも良い。毒がないのは検知済みなので、別にいい。


「…………ふふ、これで、同釜(おなかま)の仲、だね」


「……」


何を言ってるんだろう、こいつは。

そして何故、そんな笑顔を私に向けているのだろう。


そういえば…


誰かと食事を共にしたのは、久しぶりだな。


ーーーー


私の名はレイシス・フォン・フリューゲル。

フリューゲル侯爵家の嫡男だ。


私は生まれながらにして、魔力量が極めて高い。

そしてフリューゲル侯爵家の固有魔法である「霜の巨人」が生後まもなく発現している。


固有魔法が出生後すぐに覚醒した件は、過去に例がない。

幸いな事に、私の固有魔法は非常に安定していて、暴走などの心配はなかった。

私はこの魔法との相性が、尋常でなく良いのだ。


しかし、相性が良すぎて、私からは常に「霜の巨人」の威圧が放たれている。

私なりにこの力を分析したところ、恐らくまだこの威圧を抑えることは出来ない。

力を制御するということは、つまり力で抑えつけるということ。

抑えつけるだけの腕力が、私にはまだない。

ここまでの自己の成長を見る限り、年齢が12に届く頃には制御出来ると思われる。


さて。


この我が身から発せられる威圧により、私の家族は私に寄り付かない。

どうやら、私が恐ろしくて仕方がないようだ。


父はその影響がないようだが、父は基本的に私に似た人間である上、国定叡勇師の魔術局長。

つまり、私と接する機会が少ない。


私は基本的に、一人で過ごしている。


だが、別に、この境遇を不満に思っているわけではない。

衣食住は確保されていて、将来の仕事も決まっている。

その将来に向かって研鑽をするだけで良い。とてもわかりやすい。


制御する魔具をつけて、強制的に威圧を抑えることも出来るのだが、幼少期にこういった物を使うと、魔力の成長が阻害される可能性がある。ので、自らの意思で遠慮した。

幼い弟や、未熟な姉、怯える母などを見る限り、成長阻害のリスクを取ってまでする事でもないと思える。


だから私は普段、離れの屋敷に一人でいるが、不満は無い。

身の回りのことは自分で出来る。

煩わしく無くて、良い。


今日も静かだ。


ーーーー


ヤツことヴァレットが始めて訪れてから、五日が経過した。


「…………レイレイ、しょーゆ取って」


「……」


「…………あんがと」


「……」


「…………うんうん、さんま、美味しいよね、大根おろし、さいこー、だよね」


ヴァレットはあれからずっとここに居座り続けている。


一度も帰らず、ずっとだ。


まず。

初日から大分図々しかった。

いつのまにか風呂を使い。

いつのまにか二人分の晩飯を作り。

私の寝室に敷布団を敷いて、先に寝ていた。


二日目には風呂に入ってきて、私の背中を流してきたし。


三日目には、庭でバーベキューを振舞ってきたし。


四日目には、私のベッドにいつのまにか潜り込んでいた。


本当に、こいつは一体なんなのだろう。

理解に苦しむ。


「…………あ、今日は一回家に、帰るね」


「……」


少し、驚いた。


「…………なに、さみしー、の?」


「……」


「…………ふーん、そう」


すると、ヴァレットが不意に近づいてくる。

私より背の低いヤツが、私を覗き込む。


「…………僕は、ちょっと、さみしい」


「……」


そう言って、小さく微笑む。

なんなのだ、こいつは。


「…………君のそばは、意外と、居心地がいい」


「……」


本当に。

本当におかしいヤツだ。

なぜ、私を…


私が…


「………………………………………………………………………次は、いつ来る」


私が、こんな…


「…………ふふ、今日の夜には帰って、くるよ」


綺麗な笑顔。


本当に。


なんなのだ、こいつは。


口数は多くないのに、雰囲気が、煩い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女神様「キャラ崩壊させたから」って言ってるけど、 実際は「本編開始前に逆ハーエンドクリアするなよ本編中のドタバタも期待してるからな」って事ですよね?(真顔)
[一言] チョロい そして女になったときこいつが一番おもしろい反応しそう
[一言] 3人目、貴重な男時代の友とのお風呂シーン。
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