騎士団長子息 カインス・アルデバランのその一
昨日の夜、寝落ちしてて投稿忘れてましたw
初めてあったのは確か、八歳頃だったと思う。
「…………よっす、よっす」
「え、なんだお前っ!?」
突如現れたヴァレットという奴の印象は「綺麗な顔の変なやつ」であった。
「…………な、な、君の夢、教えて、ね?」
「え、ほんと何こいつ!?」
いきなり抱きついてきて、めちゃくちゃに俺の夢を聞き出そうとする、超変人。
「…………ふへぇ、いい夢じゃん、推せる」
「……本当に、なんなんだ」
いくら「笑顔が凄く綺麗」だとしても、それを差し引いても、やっぱりヴァレットは変なやつであった。
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「…………そんじゃ、べんきょ、しよ?」
「は、嫌だけど?」
俺の夢が「騎士団長になること」であると教えたら、ヴァレットがそんな事を言ってきた。
「…………なん、で?」
「え?勉強なんかしてる暇があるなら、剣振ってた方がいいだろ?」
だって、騎士団長になるには強くなくちゃいけない。現に父ちゃんはめちゃくちゃ強い。
勉強なんてしていても強くはなれないんだから、そんなものをする必要はない。
強くなるには、何より鍛錬が必要だ。うん、間違いない。
「…ってわけで、勉強より素振りだろっ!」
俺は自信満々にそう言った。
そしたら……
「…………愚かなり、あまりにも」
すっごい目で見られたのだった。
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その後、俺は「…………職場見学、しよ?」というヴァレットに無理矢理連行された。いや、振り切ろうと思えば出来たけど、凄く必死だったから付いて行くことにしたのだ。
「…………こんちわ、さしいれ、でーす」
「おお、君がジェイクの子だね?待ってたよ」
そう言ってヴァレットが向かったのは、父ちゃんがいる第一騎士団だった。
ヴァレットは父ちゃんの仕事部屋に突撃し、父ちゃんと会話する。
「…………おせんべです、おいしい、よ」
「わざわざ丁寧にありがとう。それで、今日はカインスも一緒にどうしたんだい?」
どうやら、ヴァレットは父ちゃんと会う約束をしていたらしい。
何も考えないで突撃しているように見えたけど、そうじゃなかったんだな。
「…………色々、質問、騎士団に、聞きたいこと、ある」
「質問かい?いいよ、私で良ければ何でも聞いてくれ」
「…………ありがとです。カッちゃんも、ちゃんと聞いててね?」
「え?何?カッちゃんって俺のこと?」
こんな感じで、突如、職場見学が始まった。
そしてそれが、俺のその後を大きく変えることになる。
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「…………ねぇ、カッちゃん、どう思った?」
「お、おれ、騎士に、なれないかも」
ヴァレットと一緒に行った騎士団。そこで聞いた事は、衝撃だらけだった。
俺達は、父ちゃんが、普段どんな仕事をしているのかを聞いた。
そして聞いてみれば、騎士団は訓練や警備だけでなく、紙に書く仕事も結構多いらしい。
騎士は、ただ強ければ良いわけじゃないらしい。
騎士は騎士団のお金の管理も、道具の管理も、日々の報告書も、戦いの時の作戦も……
全部自分たちで考えるし、それを紙に書いて残すようだ。
そう。
頭を沢山使うらしいのだ。
何でそんなに考えなきゃいけないのか聞いたけど、難しくてよくわからなかった。
でも、やっぱり書く仕事は沢山あるのらしいのだ。
「そんな、俺、勉強も文を書くのも苦手なのに」
正直、もうダメだと思った。
だって俺は勉強が苦手だ。机に向かってじっとしているなんて、退屈すぎてやってられない。
文字をちまちま書くも大っ嫌いだ。そんな事をするのなら剣を振っていたい。
ああ。
俺は。
騎士にはなれない、のか?
「…………武力だけでできる仕事、あるよ」
「え?」
「…………武官、って仕事、見に行こ」
「ちょ、え?」
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その後、俺はヴァレットに連れられて、武官の詰所ってとこに行った。
「…………おっちゃん達、おっす、おっす、はじめまして」
「なんだなんだ?どこのガキ共だ?」
「…………お仕事、おつかれす、差し入れ、おせんべです」
「おおっ、あんたが予約の奴か、なんだ、わざわざありがとなぁ!」
武官と呼ばれる人達は、気のいいおっさんみたいな感じの人ばかりだった。なんだか凄く親しみを感じる。
でも、その筋肉や身に纏う雰囲気から、確実に強いとわかった。
そして、見学が終わった後……
「…………武官、武力が一定以上あれば、働ける」
「うん、でも」
「…………そう、騎士じゃない」
親父達とは、全てが違った。
さっき第一騎士団に行った時、全員が全員、カッコいい感じだった。
そして、強そうだった。
頭良さそうで、ちゃんとしてて、強そうだった。
別に武官の人達が嫌なわけじゃない。凄く気が合いそうで、この人達の仲間にならきっと俺もなれる。
そう思える。
でも……
ああ……
「俺がなりたいのは、やっぱり、騎士だ」
俺は、父ちゃんみたいに、カッコいい騎士に、なりたいんだ。
なりたいんだ。
「…………あんだよ、ちゃんと、言えるじゃん?」
「ぅえ!?」
突然、ヴァレットが俺の頭を撫でる。
そして、きれいな笑顔を俺に向けている。
「…………勉強も、礼儀作法も、カッコよくなるためのもの」
「う、うん」
「…………あと、騎士は筆記試験も、ある」
「…うん」
「…………だから手伝う、一緒にべんきょ、頑張ろ」
「えっ?」
その言葉に、俺は驚いた。
「え、なんで?」
「…………なんで?なにが?」
当たり前のように手伝ってくれると言うヴァレット。
今だって、俺の疑問に、心底不思議そうにしてる。
「いや、なんでそんな、俺を手伝おうとしてるんだ?」
なぜ、今日あったばかりの俺に、そんなに良くしてくれるんだ。
お、俺のこと、好きなのだろうか?
「…………そんなん、カッくんが、僕の、マブダチだから、だぜ」
そしたら、にししと笑うヴァレットに返された。
「え、俺、お前のマブダチだったの?」
「…………そうだけど?」
いやいや。
何故俺は「知らなかったの?」みたいな顔をされているのだ?
「えっと、つまり、俺とヴァレットは、マブダチなんだな?」
「…………そうだが?」
間髪入れずに肯定するヴァレット。
なんかもう、ちょっと、訳がわからない。
「…えっと、まぁ、いいか!」
「…………う、ん」
とにかく。
こうして俺とヴァレットはマブダチになり、騎士を目指して勉強を始めるのだった。