第一話 転生したら乙女ゲームの商人息子
【春のトランスセクシャル】ありがとうございました!
選考の結果、この作品になりました!
六月三日より連載開始致します!
どうぞよろしくお願いたします!
「…………もしかして」
実は僕には前世の記憶がある。
そしてその記憶が判定を下した。
「…………この世界、わたプリ?」
ここが乙女ゲームの世界だと。
「…………まじ、か」
前世の僕は、密かに乙女ゲームを愛好していた。
小さい頃から姉の影響で少女漫画を嗜んでおり、それが高じて乙女ゲー好きになったというわけだ。
ヒロイン視点の物語を少女漫画フィルターを通して見れば、これはもう最早「自分でプレイする少女漫画」と言った趣で、僕はそれを大変に興じていた。
そんな僕の前世君は三十路手前で、運転中に後尾のトラックに追突されてお亡くなりになられた。
そして…
「…………僕はヴァレット、ってことは」
転生したらなんと、前世でプレイした乙女ゲー攻略対象のショタ枠大商会息子であったのだ。
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「私のプリンス」こと通称わたプリ。
正直、なんのひねりもなくて正気かと言いたくなるようなゲームタイトルで、この捻りのなさがなんとタイトルだけでなく中身にも及んでいるという、至極残念で有象無象で無味無臭な、可哀想なゲームである。
別にそんなに売れたわけじゃないので、実は「わたプリ」という略称も、僕が呼んでるだけだ。
まぁ、確かに全体的に捻りがないストーリーだったが、その捻りのなさは逆に王道とも言えなくなくもなく、僕はこのゲームが結構、いやかなり好きだった。
この作品はゲームレビューのどこを見ても星2という、逆にそこは酷評される方が目立つのにという評価で、感想すら書かれない「可もなく不可もなさすぎて否」みたいな作品であった。
なんか、誰にも見向きされないこの作品が、僕はなんだか逆にちょっと愛おしくなってしまい、そんな感じで、無駄にやり込んだ上に不足分の設定等を脳内補完で埋めたりしていた。
「…………いいじゃん、好きなんだよ、僕は」
多分、そんな縁でここにいるのだと思っている。
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攻略対象は商人息子である僕を含めて四人、そして隠しキャラ一人である。
ざっくりと説明すると……
一人目は王太子アーヴァイン。
俺様、傲慢、不器用な優しさ、素のスペックは高いが、浅慮で短気なところが目立つ。
ここぞという時の必死さと、いざという時の熱烈さが売り。
黒髪黄金目で、線は細くなく、ムキムキマンにならない程度にがっしりした、正統派イケメン。
二人目は騎士団長息子カインス。
脳筋、直情、ストレートな好意、運動能力は凄いがそれだけ、有り体にいってバカ。
いつだって主人公を大切にしてくれる誠実さは良いがバカ。
考えるより先に動くのは長所ではあるが、むしろ短所。
赤髪赤銅眼、ムキムキマンな、ワイルド系イケメン。
三人目は魔術局局長息子レイシス。
冷静、冷徹、そっけない態度、天才的な魔法技術、人間味が無い。
心を開くというよりは、ロボに感情を教えるという感じのストーリー。
最終的には分かりにくい愛情を示してくれる、率直に言って面倒くさい奴。
銀髪白金目、細身の美人系イケメン。
そして四人目が僕、大商会息子ヴァレット。
天真爛漫、自由奔放、社交的なムードメイカー。
子供っぽいけど、ふとした時に大人っぽい。実は一番現実が見えてる。
狂言回し的なポジションが多く、おちゃらけているようで、意外と真面目で情が深い。
正直な話、贔屓目無しに彼のシナリオはそこそこ良かった。
金髪青銀目、ショタ味が強く、可愛らしい見た目。
最後が隠しキャラ、第二王子ロンメル。
キラキラ王子、だけど腹黒、オールラウンダー。
いつだって本性を見せない、綺麗な笑顔を貼り付けてる。
その本性は独占欲の強い貴公子ドS。
青髪藍銅目、線の細いプリンス系イケメン。
と、こんな感じだ。
ちなみに僕は、前世から表情が乏しく口下手な乙女ゲー好きの陰キャである。
それがまるで呪いのように、今世にも引き継がれてしまった。
「…………なんだか、もうしわけねぇ」
速攻でキャラを一人、崩壊させてしまった。
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そんなわけでショタな大商会息子ことヴァレットな僕。
転生してわかったことだが、僕の実家であるところの大商会、これがめちゃくちゃに太い。
「…………軽く引くほどの、財力」
前世のゲームでは、せいぜい国一番の大店くらいに思っていたヴァレットの実家ことシルファリオ商会。なんとこれが数カ国を股にかける、国際的超大規模商会であることが判明。
はっきり言って、桁違いのお金持ちで、下手すりゃちょっとした国なら買えるくらいに金持ってる。
そりゃ、さりげなく王太子の側近的ポジションになってるはずだわ。
ありゃ、商会側がねじ込んだんじゃなく、王国側が頼み込んで王子と親くさせてるんだなぁと思いました。
まぁ、シルファリオ商会側も、各国との中継地として最適な大国である、ここ「サンテペス王国」とのつながりを強くするのは望むところなのだが。
一応、本社もこの国にあるしね。
「…………さ、て」
そんな訳で、幼少期から攻略対象の全員と接する機会を得たのだが、さて、どうしようか。
このままここで何もせずのんきに育っても良いし、はたまた攻略対象達とは遠く離れて全く違う人生を歩んでもいい。
「…………だけ、ど」
そのどちらでも良いが、僕はあえてこいつらにガッツリ介入していこうと思う。
何を隠そう、僕はこいつらの愛好家だ。この攻略対象達には執着に近い愛着を持っている。正直、こいつらには幸せになってほしい。
たとえゲームにあったキャラ性を失ったとしても、こいつらには立派な人間に、そして幸せな人生になってほしいのだ。
「…………なに、より」
本音を言えば、ゲームでのこいつらみたいな、どうにも社会性を欠いてる奴らにこの国を任せたくないというのがある。
いや、だって、今となってはゲームじゃなくてリアルだし。はっきり言って遊びじゃないんだよね、こちとら。だってこの国、ウチの実家の要所だもん。無くてもお商売が立ち行かなくなるほどじゃないが…
「…………当然、栄えてたほうが、良い」
なので僕は、攻略対象に積極的コミュニケーションをとっていくことにする。
僕も含めて、全員もっとハッピーになるのだ。
ーーーー
数年後。
僕の「国の要人となる攻略対象供を立派な人間にしようぜ」作戦は、びっくりするくらいの効果を見せていた。
はっきり言って現時点で既に彼らは、「わたプリ」本編開始時の彼らのスペックと人間性を上回っている。
本編開始の王立サンテペス学園入学にはまだあと三年ほどあるのにだ。
間違いなく、過言でなく、今の彼らの方が上だ。
「…………さす僕、すげぇ」
思わず、自分の手腕に酔いしれそうになる……
が。
ぶっちゃけ、僕自身は何か特別なことをした訳じゃない。
一人一人よく話して、そいつらに必要だと思ったことをアドバイスしたりしただけだ。
幸い実家のデカさと、僕側の精神年齢と知力が高かったのもあって、攻略対象達は言うこと聞いてくれた。
なので、実際に凄いのは、実家と努力した彼らだ。
「…………ほんと、みんな、すげぇ」
そう、彼らは凄いのだ。
まず、アーヴァインは天性のカリスマ性が凄い。
王太子アーヴァインには親である王の仕事ぶりをよく見せ、変装して市井の暮らしを見せ、いろんな仕事を一緒に体験したり沢山遊んだりした。
要するに実際の王を良く観察させて明確な将来のヴィジョンを持たせ、それと合わせていろんな経験をさせたのだ。それだけで彼の俺様っぷりはほとんど消え、数年後には年齢にそぐわぬ威厳や迫力が発露していた。
雰囲気が伴い出したアーヴァインは、王として最も必要なカリスマを発揮し、今では抜群のリーダーシップで公務をこなしたりしている。
「…………うんうん、立派になった」
次に、カインスも凄い。彼は根性が本当に凄い。
騎士団長息子のカインスにはとにかく勉強させた。騎士団のいろんな仕事を見せ、いかに知性が必要か説いた後に、めちゃくちゃ献身的に勉強を教えた。ちゃんと相手が理解できるまで、怒らず丁寧に教えてあげた。もちろん一緒に沢山遊びもした。
そしたら数年後には、なにやら礼節を備えた武士みたいな子になっていた。
礼節を伴う作法や、机に向かう勉強などは、本来彼がもっとも苦手とするものだろう。小さい頃のガサツな彼を見てれば解る。
でも、彼はやった。必要だとちゃんと理解したら、苦手でも上手くいかなくても、腐らずやった。偉い。
「…………みあげた、根性」
そして、レイシスは全部凄い。多分、本当に天才なのはこいつ。
魔術局局長息子のレイシスとは、とにかく沢山遊んだ。一も二も無く、とにかく沢山遊んだ。
僕と沢山遊び、他の奴らも巻き込んで遊び、遠出もし、時に共に飯を食い、共に寝て、共に勉強した。要するに会うたびにめちゃくちゃ構い倒したのだ。
そしたら数年後には、ただ無口で無表情なだけのノリの良い奴になっていた。
こいつとは徹頭徹尾、ただいっしょに遊んでただけなのに、何故か原作のこいつより魔力も魔法技術も勝っている気がする。本当に謎だ。
「…………てんさいって、わっかんない」
あと、ロンメルも凄い。なにが凄いかと言えば社交性だ。彼は、五秒で仲良し人間なのだ。
第二王子のロンメルは、ほぼアーヴァインとおんなじことをさせた。
というか、アーヴァインに構う時は絶対にロンメルを巻き込んだ。最初の方は迷惑そうにしていたが、だんだん取り繕わなくなってきて、どんどんこっちに遠慮がなくなってきた。まぁ、先に遠慮がなかったのは僕の方だが。
そんな感じでやってたら、数年後にはアーヴァインとしっかり兄弟してて、何故か軽いノリのニヒルキャラになっていた。
原作のこいつより、すごく親しみの持てるやつになってて、友達とか知り合いがアホほどいる。
口下手な僕では絶対に無理なことを、奴は平気でやってのける。
「…………しびれる、あこがれる」
とまあそんな感じだ。
故に、間違いなく作戦は順調であると言って良い。
うん。
「…………みんな、すげぇ、がんばってる」
結構、それが誇らしかったり、する。
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そして、更に数年後。
ゲーム本編開始の国立学園入学が近くなってきた頃。
ここで大事件勃発。
「…………ほ、あー」
なんと、ある日、僕は女になった。
もうてんやわんやのてんやわんやで、父とか兄とか弟とかがめちゃくちゃにアホほど動揺していた。
「…………みんな、おちつけ」
で、そのタイミングで、何故か神官様が家にきたのだ。
曰く、神託を受けたらしい。
で、その神託の内容というのが……
『女体化は全攻略対象をキャラ崩壊させた罰』
とのことらしい。マジかよ。
「…………は、わー」
で、その後、その神官様が詳しい説明をしてくれた。
・罰は女として婚約すること。(神様が暇つぶしにそういうのが観たいらしい)
・王立学園在学中に婚約し、ゆくゆくは結婚して子を産むこと。
・罰を達成できない場合のペナルティは失明と四肢欠損。
・罰ではあるが、種別的には祝福なので神職者および全ての人類はかの者を神罰対象と見ないこと。
・全攻略対象をキャラ崩壊させたという文言について、かの者に一切言及しないこと。
と、以上が神託の内容らしい。
いや、失明と四肢欠損とかペナルティ重ぉ…
「…………こんなん、やるしかないやん」
こうして僕は、以降の人生を「ヴァレッタ」として過ごすことになったのだった。
短編版を加筆したものです!
ヴァレッタのキャラが少し垣間見えますねw
六月三日よりどうぞよろしくお願いします!