第94話『さぁ世界の汚れを吹っ飛ばす現象でした!』
いらっしゃいませ。
☆――☆
翌日 午前九時五十分。
『さあ二回戦だこのやろ――――!』
熱い。熱いよ実況のお姉さん。
『右をご覧下さい!』
会場に集まったギャラリーの殆どの人間が右を向く。そこには綺羅星本社が薄らと見えている。
午前十時。
その本社から虹色の光が風のように舞い上がり国――いや世界に広がっていく。月に一度の二永久機関エネルギー全開放。
現在社会で使われるエネルギーは化石燃料ではない。綺羅星の作り出した『星粒子』発生永久機関“天球炉”とエレクトロンの光合成エネルギー『タキオン』発生永久装置“チャーム”。この二つのエネルギーを量子テレポートを用いて端末に転送する。電池型、オイルタンク型、エンジン型、端末は様々な形を用意されていて汎用性超抜群。
有害物質を撒き散らす化石燃料の代わりとして同時期に登場し、共に重宝されている。勿論サイバーコンタクトと【紬―つむぎ―】にも使用されている。
この二つが月に一度全解放され、『星粒子』と『タキオン』は同化し汚れた大気と海と大地を浄化するのだ。
『さぁ世界の汚れを吹っ飛ばす現象でした! 皆さま負けずに輝きましょう!
さて! あれを見る為に十分ずらしてスタートされる二回戦! まずは「北陸」v.s.「四国」! ウォーリアの皆さまは――揃っていますね!』
アエリアエを除く九人がフィールドの端に立っている。一人抜けた分四国チームは不利だろうか? でも顔を見るに沈痛なものは感じられない。談笑している二人と眉を鋭く上げる二人。人数など関係なさそうだ。
『フィールドを選定します! ルーレット回転!』
針がくるくると回って――止まる。
『昭和の田舎風景に決定! ナノマシン散布開始!』
集まっていくナノマシン。山ができて、田んぼができて、民家ができて、駄菓子屋ができて、草の茂った川ができた。
『ではウォーリアの皆さま! フィールドへお上がりください!
カウントダウンを開始します!
10
9
3
2
1
0 GO!』
開始と同時に地面に潜り込む金魚女子。これでもう彼女がどこから出てくるか本人以外わからない。
恐らく彼ら全員『ベル』を使っているだろう。こうなると移動速度すら不明だ。
「俺もやるぞ」
薬男子が土に手を付いた。すると土が紫に変色してどんどん範囲を広げていく。
「毒でフィールドを覆い尽くす。皆は事前にやった薬を飲んだな?」
頷く仲間。それを見て薬男子も首を縦に振った。
「良し、んじゃ――」
「行ってくる!」
駆け出す三人。内一人はアイテムの巨大な足と歩幅で圧倒的なリードを取る。顔パペットが上空に出現し、
『後光!』
光を放った。
「それはもう見たし!」
蛍男子の光がフィールド全域に広がる。ナノマシンによるナノマシンへの干渉。後光は無力化され顔パペットが悔しそうに表情を歪めた。
その間にウォーリアたちは民家や農具倉庫に身を隠し、進み、また身を隠しながらゆっくりとフィールドを進んでいく。
「毒の方も何とかできる?」
「当たり前」
目に見える位置まで毒の侵食が進み、それを認めた蛍男子が地面に手をついて――金魚が土中から飛び出てきた。
「――⁉」
蛍男子の放つ光に喰いつく金魚の群れ。
「こ、こんな奴ら!」
蛍男子は足から毒に干渉しつつ金魚への干渉を始めるも、数が多くて対応しきれない。一匹倒すうちに別の金魚に喰いつかれている。
「貰ったよ!」
「――!」
金魚と同じく土中から出てきた腕に胸ぐらを掴まれる。そのまま足を払われて天地が逆転した。一本背負いだ。まさかパペットバトルで力技に出る子がいるとは思わなかった。蛍男子も意外な攻撃だったらしく見事に決められ――なかった。
「ふん!」
鼻息一つ。体をブリッジさせて叩きつけられるのを防ぎ、更に足を蹴り上げて金魚のマスターユーザー鬣女子の首に足を絡ませた。
「な⁉ ちょ――」
「せーの!」
絡ませた足を振り下ろし鬣女子を地面に叩きつける。
「――はっ……」
鬣女子は見事に受身を取り衝撃を分散。しかしある程度の息は吐き出されてしまったようで少し眉間にシワを寄せた。
「その子任せた!」
「おう行け!」
鬣女子を蛍男子に任せ、他のウォーリアは農道を駆け出した。いや、一人遅れている。全身炎のケンタウロスのマスターユーザーだ。ちょっとばかり小太りで背が低く、ぽよんぽよんと腹を波立たせて必死に走ってはいるが。
「良し、『スキタイ』!」
ケンタウロスの顕現。馬男子はケンタウロスの背に乗って凛々しく手綱を引いた。
「あんたがイケメンだったらかっこ良かったのに」
鶏女子のポツリと囁かれた言葉に馬男子はほろりと涙を流す。人を見かけで判断してはいけません。
「自分だって体重気にしてるくせに」
「ぬぁ⁉」
表情を思いっきり歪ませる。女の子の顔が台なしである。
「夜ひっそりランニングしてるの見たし」
「どこでよあんたと私の家遠いでしょ⁉ ストーカー! 変態! 豚!」
移動する足を止めないまま喧嘩を始めてしまった。
「全く」
ため息をこぼす聖女女子。普段から仲が悪かったんだろうか? チーム戦じゃ致命的だ。と思ったのだが。
「協力も何もあったもんじゃないようね!」
上空から巨大な足が降ってくる。どうやらどこかで顔女子が飛び跳ねたらしい。
「せめて仲良く潰れなさい!」
「「嫌だね!」」
「――⁉」
鶏顔の賢者が風を呼び起こし、ケンタウロスの炎が一際大きくなる。空を駆け、足にまともにぶち当たって炎に包む。
「あっつー!」
「本番で喧嘩するほどバカじゃないって!」
どうやら演技だったらしい。
「熱い熱い!」
「ご、ごめん」
炎に包まれた顔女子に馬男子は申しわけない表情を浮かべて燃え盛る炎を消した。
「なにやってんのあんた⁉」
「え? だって可哀想で……」
「「演技に決まってるでしょう!」」
ハモる顔女子と鶏女子。「ええええええええ」と顔面蒼白になる馬男子。横から超速で振り払われた巨手に虫の如く吹き飛ばされてしまい。
「このバカー!」
「――!」
叫ぶ鶏女子の隣で聖女女子が気づいた。遠くにある小さな林からこちらを覗き込む目に。フィルムでできたパペットだ。フィルムマンは指で四角を作っていて、瞼を閉じる。咄嗟に聖女女子は近くの民家の影に身を隠す。
「貴女も隠れて!」
「ふぇ⁉」
時すでに遅し。鶏賢者が写真に撮られた。パサりと写真が落ちて鶏賢者が横たわる。
「ちょ、ちょっと」
「『レジナ・チェリ』」
顕現する聖女。宙に浮くランプの一つが消えて、フィルムマンが胸に穴を開けた。次いで聖女女子の目が顔女子に向く。ランプが消えると同時に顔女子が使っていた巨腕巨脚が消し飛んだ。
「あ、相変わらず反則的な攻撃ね」
「そう? 貴女のアイテムも相当だと思うけれど」
「そう? ふふ~ん」
パペットを起こしながら得意顔の鶏女子。フィルムマンが倒されて鶏賢者も気を取り直し、頭を振りながら体を起こした。
「荒河さん」
「うん?」
「アイテムを。どうやらユウトが倒されたよう」
「――!」
中和されていたはずの毒が再び迫っているから。
「んじゃ」
毒が迫る中、聖女女子の前に出る荒河。アイテムを顕現する。真っ黒で大きな巻物と鋏だ。鶏女子は鋏を持って巻物に押し付けた。
「洗浄洗浄っと」
鋏を押し付けられた部位を中心に黒い巻物が切り刻まれていく。それは一つの切り絵になって土の中に消えていった。すると毒に巻物の力が染み込んで水に溶けるように洗浄されていくではないか。
「な?」
上空で攻撃のチャンスを伺っていた顔女子はその光景を目の当たりにして思わず毒を放った男子に振り向き叫んだ。
「毒を切り離して逃げて!」
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