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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第93話『自分の考えは自分で語れ』

いらっしゃいませ。

☆――☆


「これはこれは」


 京都とのゲームバトルから小一時間。会場近くの和菓子喫茶で祝勝会&反省会中に大会運営から送られてきたメールと添付ファイルを見て卵姫(タマゴヒメ)さんが珍しく頬を緩めた。


【四国・西京・南州(ナンシュウ)チームには勝利景品としてこちらをプレゼントいたします!

 パペットウォーリアバトル中の限定商品です! 必要な時に使ってくださいね!

 捨てちゃいやよ!】


 と言うメール本文。添付ファイルはと言うと。


「アイテム『ベル』。パペットのパワーを倍加するアイテム――たぁ話わかるじゃねぇか」


 少しだけテンションが上がっている(カスミ)


「まあ敵となるチームも受け取っているわけですが」


 少しだけ頬を蒸気させている村子(ムラコ)さん。


「今度は役に立ちます! 今回ダメだめだったので!」


 いつも通りに興奮気味のコリス。


「使うタイミングによっては一撃で終わらせられるかも」


 唇に指を当てて思案顔の卵姫さん。


「赤くなって三倍強くなる方が良かった……」


 贅沢な文句を並べるオレ。いや、だって、ねぇ?


「今回は危険な状態でした。仏の攻撃は精神に作用しましたからね。けれど、仮想災厄ヴァーチャル・カラミティと戦う未来を考えれば良い前哨戦になったかも知れません。

『人類侵入プログラム』アエリアエ・ポテスタテス――彼だけが人間に直接ダメージを負わせられるとは思えません。他の個体も似た事ができると考えた方が良いでしょう」

「それなんだけどよ」


 頭を掻きながら、霞。困った表情をして視線を皆に回す。


「【紬―つむぎ―】ってのじゃないと対抗できないんだろ? 俺はどうすりゃ良いんだ?」


 最もな疑問だ。アエリアエの攻撃は脳にダメージを与えるものだった。打てる手がないのに戦場に立つなんて考えたくもないのだけど……。


「【紬―つむぎ―】を製造している綺羅星(キラボシ)はまだ試用期間として【紬―つむぎ―】を預けているだけです。量産には時間がかかる模様ですね」


 言って一口コーヒーを口にする卵姫さん。カップから出る湯気は少なくなっているけどまだ味を落とすほどではない。満足そうな顔をしている。

 オレも一口ストローからソーダを啜る。……オレが子供味覚なわけではない。卵姫さんが大人味覚なのだ。


涙月(ルツキ)の方はどうしています?」


 ちょうどオレの向かいに座っている村子さんがこちらを見てくる。涙月は今、外で綺羅星本社に問合せの電話をしている最中だ。と言うか、なぜ涙月ではなくオレを見るのだろう?


「え~だって、二人なら逐一情報交換しているかと」


 どこか面白そうに言ってくる。……実は先方の了承を得た上でオレにも通話が聞こえるようになっているのだが、なぜバレた。

 オレは照れて朱くなる頬を隠す為に顔を下に向けて和菓子を口に運んだ。鮮やかな白からピンクへのグラデーション。うん、餡子もほど良く甘い。やはり和菓子は世界有数の見て良し食べて良しのお菓子だと実感した。

 あ、通話終わった。


「お待たせー」


 言いながら涙月はオレの隣に座って、メニューを開いた。通話内容を教えるより食い気が先に来たっぽい。


「――で、綺羅星はなんと?」

「アエリアエの件があってエレクトロンとモメてるみたい。次世代機に仮想災厄ヴァーチャル・カラミティ用のアンチシステムを組み込むって話だったけどそれじゃアマリリスにシステムをコピーされる恐れがあるとか。

 エレクトロンはどうしてもアマリリスを削除したいっぽいね」

「いえ、神巫(カンナギ)の予想だとそれはカモフラージュ、フェイクです」

「え?」


 カップを置いて一つ暖かな吐息をこぼす卵姫さん。


神巫(カンナギ)は、エレクトロンはアマリリスを成長させ軍用AIとして利用するつもりだと」

「「「――!」」」


 軍用AI――それは今もウィルスとして使用され、或いは無人機に搭載され、また或いは軍師として利用されているAIの総称だ。『敵と味方を識別できるAI』はとても重宝されている。今はもうそれに攻撃と占領を任せ兵士は自国で悠々と警護をする。それが一般的になっている。

 そこにAIの親玉と言って良いアマリリスを投入する――ぞっとする。


「えらいこっちゃ」


 事態の重さをわかっているのかいないのか、コリスはびっくり顔でそうおちゃらけた。


「っつかよぉ、そんな事態になってるならなんで綺羅星は子供に【紬―つむぎ―】を預けたままなんだ? 大人が使った方が良くね?」

「可能性ですよ」


 コーヒーを啜る卵姫さん。湯気はもう上がらなくなっている。


「可能性?」

「恐らく大人が介入すればアマリリスの削除はできるのでしょう。しかしこの日本では危険だから排除する、そんなのは行われません。実害があってそこで初めて対応されます。綺羅星はそれを良しとはしていません。害ある前にアマリリスを確保し無害に育てる――それには友が必要だと考えているのです」

「だから子供に託す――ってか」

「そうです」


 子供の友は子供、か。


「重くね?」

「それは【紬―つむぎ―】を持っているお二人に聞いてみては?」

「「え?」」


 急に話を振られてオレと涙月は顔を見合わせた。少し固まって、顔を離す。


「……アマリリスを削除するのは避けたいです」

「どうして?」

「アマリリスのパペット、冷たかった。パペットってマスターユーザーの体温を持っていますよね? それならアマリリスはどれだけ冷たい体をしているんだろうと。人は運動した時、照れている時、気分が高揚している時体温が上がるけど、きっとアマリリスにはそういった経験がないんだと思う。

 それっていつも寂しんじゃないかって」


 独りぼっちの女の子を想像してみる。ぽつんと座り込んでいて、その周りに何かある風景が想像できない。寒くてでも広く。きっと悲しい。ひょっとするとオレの想像力が貧相なだけかもだけれど。

 でも――


「友達になりたいけど、できればアマリリスに言って欲しいんですよね」

「何を?」

「どうしたいかを。オレの親は前にこう言っています。

『自分の考えは自分で語れ。何も言わずにわかってくれるのは家族と恋人以外にいないのだから』

 ――って。

 だから、アマリリスに直接どうしたいかを聞きたい」

「成程」


 飲み干したコーヒーカップを置いて、縁を指でなぞる。そんな卵姫さんは口元に微笑をたたえていた。


「涙月は?」

「私? 私はよー君を助けるだけだよ」

「そうですか」


 どこか、ただでさえ熱い陽光が更に熱を帯びた気がした。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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