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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第91話「貴方が女の子に乱暴を働けるなら魔法処女会として処罰していました」

いらっしゃいませ。

 勢いのついた挙動を卵姫(タマゴヒメ)さんに制され、たたらを踏む。もう少しで氷に滑ってしまいそうになった。

 コリスは卵姫さんの方に振り返り、そこでようやく後ろから仏の手が迫っているのに気づいた。先ほど消したはずの手だ。医療女子はまだ氷の中。つまり自身の力で再生したと。


『お嬢さま!』

(トォオーノ)!」


 巨大な雷が仏に落ちる。けど電流は仏の表面をなぞっただけで効果はなかった。が雷が仏の目を覆った一瞬にアエルが肉薄していてその首に噛み付いた。勢いに押されて倒れる仏。喉を噛みちぎったアエルが離れて、そこに。


「爆殺!」


 更に喉への(カスミ)の一撃。更に更に。


『―― 一閃』


 ウェルキエルの斬撃が仏の首を落とした。

 なのに。


「――⁉」


 切り落とされた仏の頭部が光になって首へと戻っていった。それに集中していると霞の左右から仏の手が当てられて。


「六欲天『四大王衆天(シダイオウシュテン)』」


 再びのジョーカー。村子さんと同じく動かなくなった霞が海に没した。オレは急いでアエルを海中に潜らせ霞を咥えて都市に置く。

 仏――オレは上空モニターを見る。仏のレベルは――100だった。


豹蒼(ヒョウソウ)!」

「――!」


 仏の影から蒼色の何かが飛び出してきた。それはひょいひょいと仏の体を駆け上がり、落下の力を利用してコリスに体当り。


「痛いですぅ!」


 潤った声でコリス。落下に巻き込まれたコリスと蒼色の影は海中に沈んだ。と思ったらすぐに出てきて、また沈んで、また出てきて沈んで、それを何度も繰り返していた。

 一瞬見ただけだったがコリスの顔色が蒼白していた。きっとただ沈められるよりも辛いのだろう。助けに行きたいが仏が立ち塞がってこちらも二進も三進も行かない状況だ。


「はっ……う……」


 飛び出してきた蒼色の何かが都市に着地してコリスを横たえた。良く見てみると人が蒼色の豹の皮を被っていて、肩にある豹の頭がコリスの左肩に噛み付いている。


「さぁさぁこれで二対二だね! いーよいーよ!」


 蒼色の豹を纏った少女が強気な表情で振り返り、大声で叫ぶ。


一二三(ヒフミ)! あんたは隠れてな! そうそこ! 展望台! 良しOK!」


 言っちゃってるよこの子。もしかするととぼけた喋り方をするコリスよりダメかもしんない。


(ヨイ)

「はい?」


 オレが呆れていると天使の手に乗った卵姫さんが近くに来ていた。額が当たるほど顔を近づけられてちょっとドギマギする。香りと体温が……伝わって来るのですが……。


「あちらさん、全員女の子のようですけど、攻撃できますか?」

「……無理です」


 いくらバトルとは言え女の子にアエルを噛み付かせたりオレ自身が斬りに行ったり殴ったりはちょっとしたくない。


「そうですか」


 クスッと微笑む卵姫さん。吐き出された息がオレの鼻にかかった。


「良いですよ。貴方が女の子に乱暴を働けるなら魔法処女会(ハリストス・ハイマ)として処罰していました」

「それは……怖いですね」


 冗談抜きで。


「ではわたしはユーザーを叩きます。貴方はパペットをよろしくお願いします」

「――はい」


 その言葉を聞いて卵姫さんはウェルキエルと共に都市の上空へと向かっていった。それを追うべく仏の手が動いたのを見て、オレはすかさずアエルを仏の正面に移動させた。瞬間ちょっと仏の目が鋭くなった。パペットにも感情があるのだから不思議ではないが、なんだか人間に見られている気持ちになった。

 仏の手が動く。アエルの首を包もうとする。捕まれば終わりだ。


「『獣王』!」


 すかさず『獣王』は橙色の光を放ち多面体のガラスで仏の動きを封じる。時間の凍結――をしたはずだった。それなのに仏の手がガラスの中で動いていた。

 動く⁉

 いや、不思議はないのか? 時間凍結と言ってもあくまでパペットの力だ。同格のパペットなら動けるのかも。何しろ向こうは天に座する仏なのだから。


「『電王』!」


『電王』の口に黄色い光が集まっていく。それを動きを封じている仏に放つ。光は途中で無数に分離してガラス状の光を仏に降らせた。時間の分離。仏は無数に分離して消え去る――はずだった。

 仏の手に光が灯り、ガラスを打ち消さなければ。

 仏はこちらを一瞥すると一瞬で手をオレの右にまで持ってきた。

 疾い。

 だがこちらのアエルも負けてはいなかった。すぐにその手に噛み付き、オレを叩くコースから外させる。

 しかし逆の手がオレに迫り、またアエルの他の首がそれを噛み、両手を塞がれた仏に向かって他の首が迫る。アエルに噛み付かれていた手が光り、オレの心が揺らいだ。“ここにいてはいけない”と心が叫ぶ。それはアエルも同じだったようで牙を離した。体に力が入らず、アエルの頭に崩折れる。

 六欲天『四大王衆天』――六欲天の第1天。四天王持国天・増長天・広目天・多聞天が住む場所、その世界を脳に打ち込まれたのだ。そしてオレとアエルは高貴な意識に当てられて麻痺を起こした。

 第1天でこれなら、もっと上の階層ではどうなるのか……。

 卵姫さんはどうなっただろう? 麻痺する顔を動かしてみると、豹女子が左腕を斬られるところだった。仮想の血が出て、腕にノイズが走って消えた。


「ぐ――この! 一二三! 逃げな!」


 勝てないと判断して仏のマスターユーザーを逃がすのを即決した。

 それに素早く反応したのは――仏だった。だけど仏の目がそれた瞬間をオレだって見逃さない。気力を振り絞って立ち上がりそれに呼応してアエルも動く。『覇王』が時間消滅の赤い光を放つ。光が仏を包み、一瞬遅れてウェルキエルの斬閃が届いた。揺らぐ仏の巨躯。

 揺らぐだけ――なのか。


「『信長』!」

「一二三! 逃げろって! あんた親に優勝を誓ったんだろ!」


 信長――と言うのが仏の名前だろう。展望台のガラス壁に姿を見せた一二三にウェルキエルを追う豹女子が叫ぶ。

 親との約束……。でも!


「行くよアエル!」


 こっちだって負けられない。今までバカにされ続けて、家族や涙月(ルツキ)たちに支えて貰ってたどり着いたLv100。それは簡単に負けて良いものではないはずだ。

 仏の目が細められた。アエルを狙ってくる。仏の両の掌がアエルを中央に大きく開かれ、そこに天から光が降り注いだ。


『六欲天「忉利天(トウリテン)」』


 ばつん。

 何かがキレる音。糸? 金属? いやこれは……意識。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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