第90話「お邪魔ですよ!」
いらっしゃいませ。
「っちっ!」
舌打ちする霞。オレはなんとか避けたものの、霞は右肩を打ち抜かれてしまった。
「ダイアは太陽光を凝縮して打ち出せるから! よろしく!」
よろしくしたくない。
そんなのを思っているとクリスタルの全てが光った。
「ファイア!」
ほろろの一言で一斉に閃光が放たれた。前面のものは勿論こちらからは死角に当たる後面のものからも。決してあさっての方向に打ったのではない。閃光が曲がってなんの問題もなくこちらに迫ってくるではないか。
「爆散!」
「ダメです避けなさい!」
「あ? ああ⁉」
右腕を振り上げていた霞が卵姫さんの鋭い声でバランスを崩した。しかしそれが幸いして閃光は彼の頭の上を通り過ぎ、曲がった。
「おおおおお⁉」
自分を追ってくる閃光をかわしてかわしてかわすもそれでも閃光は追ってくる。それは当然霞だけではなく。
「これ――当たるまで追ってくるんじゃ⁉」
オレや、
「うっひゃあああ!」
コリスたちも同じだ。
それならここは黄金パターンで。オレは触手の上を走りイトの頭部を目指す。
「私にぶつけりゃ良いって⁉」
「でしょ⁉」
「ダイアの数がこれで限界だったら違ったかもね!」
クリスタルがほろろの前面に幾つも顕現した。
オレは構わず突っ込むも、まずイトの外皮を斬れずに弾かれた。それにほろろも毒っけを抜かれてぽかんと口を開けた。
「あ、あら? てっきり斬ってくるもんだと思ってたけど」
「そのつもりでした……」
予想より切れ味が悪かった……。ひょっとしたらイトの防御力が高いだけかも知れないが。
そこに閃光が飛来して、オレはそれならと屈んでかわし、イトに閃光をぶつけ――ようと思ったら、
「宵!」
村子さんの声が耳に届いた。
顔を向けてみると別の方向からも閃光が迫っていた。
「この!」
いや、避ける必要はなかった。閃光はオレを通り過ぎ、イトに当てる予定だった閃光を打ち消した。庇った――となるとこの閃光ならイトの外皮を破れると言う事にほかならない。
「十六夜」
『はい、姫さま』
十六夜の着物に柄がついた。白に近い薄い水色の波模様。
『誘う誘う、裂帛の白』
風が乱れ、豪風となって周囲を飛び交う閃光を曲げた。その行先はイトの頭部だ。
「甘い!」
クリスタルが顕現し閃光を受け止めて、砕けた。閃光ならクリスタルを破れるのか。
『――斬』
ウェルキエルが剣を振り、アエルを縛っていた触手を切ってくれた。
「ありがとう。
アエル!」
『オオ!』
八つの首全てが口を開け、イトを噛み砕くべく牙を見せる。
「させないって!」
クリスタルが幾つも連なりアエルの口を開いたままで固定する。だが。それを噛み砕いた。
「嘘でしょ⁉」
驚愕に目を剥くほろろ。その間にもアエルはイトに噛み付いて、破れなかった。弾力がありすぎる。
「宵! 捻りなさい!」
「はい!」
卵姫さんに言われた通りにアエルに首を回転させるよう脳波を送る。アエルはそれを忠実にこなし、とうとうイトの外皮が破れた。
「ツィオーネ!」
『はいお嬢さま!』
ツィオーネの両手に小さな精霊が生まれて、その水色の子が『水』と呟いた途端、水が現れてイトの傷口から内部へと雪崩込む。
「ちょ――」
「マジ?」
水がどんどんイトの頭の中を埋め尽くしていき、少女二人はイト内部にあった城へと隠れて全ての入口を閉じた。
「コリス! 水を凍らせて!」
「はいな村子!」
ツィオーネの両手に小さな精霊が生まれて、白いその子が『氷』と呟いた。水が凍り、僅かに膨張してイトの頭部を破く。
『―― 一閃』
すかさず天使の斬撃。イトを内部の城ごと真っ二つに切り裂いた。
「マジ⁉」
ハスキーな声が届いてくる。イトのマスターユーザーである少女のものだ。まさか自分のパペットが真っ二つにされるなんて思ってもいなかったのだろう。切られた城の中からひょっこりと顔を出していた。
「はいここであっしの登場です!」
うん? 一瞬コリスかと思う陽気な声。思わず振り向いてみたがコリスも目をぱちくりさせていた。
「『医心方』!」
声はイトの方角から。改めて顔を向けるとハスキー女子の後ろからミニスカの女子が飛び跳ね姿を現してハスキー女子の肩に両腕を回していた。
少女の周囲には三十冊の本が浮いていて。
「瞬間医療!」
少女が何冊かの本を指でなぞると指に光が点ってその光をイトの傷口に飛ばして塗った。するとどうだろう。両断されたイトの体が近づいてくっついてしまった。
『誘う誘う、不忍の銀』
十六夜の掲げた手の上に冷気が生まれて、一息にイトの周囲を包み凍らせた。勿論少女三人ごとだ。
「後で出してあげますよ」
と言って軽くウィンクする村子さん。しかしその油断をついて白く巨大な手が村子さんを握り締める。
な⁉
いつの間に現れたのか、巨大な絡繰じかけの仏がイトの後ろにそびえ立っていた。そして腕を振り上げ、村子さんを海上都市に向けて投げ飛ばす。
「――うっ……く!」
村子さんの体を十六夜が受け止め、クッション替わりになったままビルの一つにぶつかってしまう。
「村子さん!」
「大丈夫……です」
【紬―つむぎ―】から聞こえてくる弱々しい声。十六夜が間に挟まってくれたとはいえ重い衝撃が体を伝ったのだろう。
「十六夜、貴女は?」
『……暫く横になりたい』
「ええ、そうしてなさいな」
言いつつ、横になる十六夜の傍に腰を下ろす村子さん。彼女も辛そうだ。そんな彼女の前に仏が現れて、両手で村子さんを包み込んだ。
「ジョーカー、六欲天『四大王衆天』」
短い言葉。仏の手の中が光ってゆっくり開かれる。中ではぐったりと体を横にする村子さん。
「村子!」
コリスが慌てて都市まで氷の道を作り駆け出すも、道を仏の手が砕く。
「お邪魔ですよ!」
布――いやマントだろうか? 表が黒、裏がピンクのアイテムをコリスが出した。そのマントで仏の手を覆って、外した時には仏の手が途中からなくなっていた。
「次は顔を消しますからお気を付けをです!」
「待ちなさいコリス!」
「ふぇ⁉」
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