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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第09話「ここまでなら今のよー君でOKだぜい」

いらっしゃいませ。

「お帰りよー君」

「ただいま。今から再起動させるよ」

「うん」


 オレが席に着くと他の生徒まで寄ってきた。

 ちょっとした恥ずかしさからちょっと手が固まったが、言ってる場合じゃない。オレはなるべく周りを見ないでキーボードに触れ、作業を進めた。

 調べてみると、ざっと百種類はあるんじゃないかと思われる停止機器が見えた。

 まずは医療用ナノマシンを――

 オレは血管を流れている医療用ナノマシンにアクセスすると、それを再起動させる。

 エラーがないか調べてみたがどうやら破壊はされていないようだ。

 続けて他の医療機器も見て、できる限り再起動させる。

 途中で起動のマークがついている機器が増えているのに気づいた。

 どうやらオレたち以外の【紬―つむぎ―】所有者が動いてくれているらしく。


「よし、終わった」


 オオ~とクラスメイトたちがささやかな拍手をくれた。多分ほとんどが話についていけてないだろうけど。

 その時、バスに影がかかった。

 ? 雲にしては暗いような……。


「うおうなんだいありゃ?」


 窓の外を見る高良(タカラ)から声が上がり、オレも見てみた。


「――⁉」


 巨大、とても巨大な人型――赤ん坊?――の化物が空に横になっていた。


クスクス


 そいつは黒い穴のような目で下を見て、不気味に笑う。

 パペット――なのか?

 どう言う趣味を持てばこんなお化けのようなパペットを生み出せるのだろう?

 それにコンタクトが停止している人にも見えている。通常とは違う……のか?

 そいつはバスに向かって手を伸ばし、その指で、オレを触った。


「――っ」


 背筋が冷えた。パペットは本来マスターユーザーと同じ熱を持つ(そう感じさせる)。しかしこのパペットは熱を持たず、冷えてさえいた。

 こんなパペットはいないはずだ……。

 オレたちが無言になっていると、前のバスから悲鳴が上がった。

 見ると、そっちにもう一本の腕が伸び、幽化(ユウカ)さんを触っているようだった。


クスクス


 冷たいパペットから流れてくる笑い声。幼い女の子の声で、楽しそうに笑っている。


クスクス

クスクス


 そのパペットは次第に薄れていき、霞となって消えていった。


「あ、コンタクト動いた」


 巨大なパペットが消えて数秒後、高良は視界に映る再起動のマークを見つけた。


「『自己保存した場所から再起動しますか?』、勿論でっす」


 他の生徒、大人たちも同じように手を動かし始めた。

 エナジートンネルも起動し、光の壁ができ上がる。

 バスもエンジンがかかったが念の為にスキャンすると言うのでオレたちは一度外に出た。

 進行方向を見ると、もうターミナルがわずかに見えていた。オレたちはそこから大陸間超速新幹線、通称『アーミースワロー』に乗り換える。


『皆さま、スキャンが終わり正常起動を確認しました。中へどうぞ』


 バスガイドさんのそんな声で乗客であるオレたちはバスへ乗り始める。


「よー君ちょいとちょいと」

「え?」


 高良に呼ばれて、オレは列を外れた。


「こっちこっち」


 手を引かれながらバスの影へと入っていく。


「どうしたの高良?」

「エロエロ――じゃなかった、色々――」


 どう言う間違いだ。


「色々ありがとう!」


 言葉と同時に頭を下げる高良。


「い、良いよ! オレ一人じゃどうにもならなかったし」

「そんな事ないさ。ありがとう。弟、助かったって」


 なかなか頭を上げない高良。

 慌てたオレは、


「わかった礼は受け取るよだから頭上げて」


と早口で言った。


「ん」


 高良は頭を上げて、じっと真剣な目でオレを見る。

 初めてだ、こんな高良……。


「にへ」


 あ、崩れた。


「難しいね真剣になるのって」


 なははと笑う高良。

 うん、やっぱりいつものが一番だ。


「そろそろ中に入ろう高良」

「うん、あちょっと待った。肩に多脚の虫が!」

「ひぃ⁉ とってとって!」

「うはは、あひょいと」


 高良は虫を掴むと「さあお行き」と道路に離す。


「よく平気だね」

「そんな小刻みに震えられると――可愛いぜ」


 グッと親指をおったてる。それにオレは苦笑を返し。


「そろそろ可愛いから格好良いに移行しませんか?」

「それはまだまだだねぇ」

「さいですか」

「あ、でも――」


 何かを思いついたかのような仕草。顎に指をあてるポーズがわざとらしいのを考えると多分演技だ。


「でも?」

「ここまでなら今のよー君でOKだぜい」

「え?」


 高良の顔が近寄ってきて、太陽を背にしたその影がオレにかかった。

 小さく薄いピンク色の唇が近くに――


「――つ」

「――よっしファースト頂いた!」

「な……なん……」


 あまりの、あまりに、あまりにも突然の出来事。オレの頭はもうショート寸前である。


「予め言っとくと私にとってもファーストだぜい」

「そ……え」

「さ、戻るぜい」


 高良はオレの腕を掴むと、意気揚々とバスの中へと戻っていく。

 それからしばらくオレの頭がまともに働いたかどうかはオレにもわかりません。






「おー何度見てもかっこ良いね『アーミースワロー』! まるで鷹のようだ!」

「いやそこは燕にしとこうよ高良」


 その名の如く燕をイメージして作られた新幹線はあたかも高速飛行機を彷彿とさせるフォルムを持っている。

 バスは燕のお尻側に乗り込むと、エンジンを切った。

 オレたちは我先にとスワロー内を駆け、『バラエティホール』を目指す。


「とーちゃーく!」


 いつもより早く息をするオレを尻目に、高良はちっとも息を切らせずホールに一番乗り。

 途端アニメの主人公登場シーンに流れるような陽気なBGMが聴こえてきた。

 音楽は近くのお土産ショップに入るまで続き、今度はショップのBGMが聴こえてきた。音楽を指定範囲にいる人間だけに聴かせる技術だ。

 高良はオレを連れてホールの中心まで進む。


「あったあったウォーリアフィールド」


 あ、ゲームやってる。

 ここやドームができるのはパペット同士のバトルだけではない。

 ユーザー自身を『キャラクター』と見立てたアクションやシューティングゲームも可能なのだ。

 そこでは多人数参加のカートバトルが始まっていて、観客エリアに入ると同時に爆音が響いてきた。


「外人さん発見!

 よー君『中学生パペットウォーリア!』に出てきそうなのはいるかい⁉」

「一瞬で見極めろと」

「来い」


 不意に腕がグイッと引っ張られる。高良ではない。


「うえええ?」

「おーびっくりしたっぺ」


 オレは突然現れた幽化さんに引っ張られ、約一時間後行われるバトルにエントリーさせられた。

 え? 誰と戦うの?


「オレとだ」


 なんで?


「お前あの冷血パペットに――そのマスターユーザーに目をつけられた事を軽く見ているだろう。

 あれは洒落にならないぞ。今のうちにお前を鍛えておく」

「洒落にならないって言うのは事件の規模から考えてもわかるけど……オレを襲って何か得が?」

「損得など考えているものか。あれは奴の『遊び(ゲーム)』だ」

「幽化さん、あいつについて何かわかったんですか?」


 知っているようなご様子だけど?


「想像はつく。

 だからお前を鍛える。あれの周囲にはそれなりの騒動があるだろう、戦力が必要だ。適当に電子エリアを開いても良かったが広さがあるなら使わない手はない。

 やるぞ」

「は、はい」


 やるぞ、と言ったは良いが、他にも先にエントリーしていた人がいて一時間後のバトルステージ開幕後も三十分近く待たされたのだった。


「――っちっ」


 怖いです幽化さん。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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