第89話「皆さま、霞と同じ箇所を攻撃しなさい。一点突破です」
いらっしゃいませ。
☆――☆
『さぁサイバー警察による捜査も終わり午後一時五十分を過ぎました!
色々ありましたが詳しくはニュースを観てね!
ではでは本日のラストバトル「西京」v.s.「京都」です!』
「さ、行きましょう」
「「「はい!」」」
「行ってらっはーい」
呑気に手を振って見送るのは、涙月だ。
「涙月、昼食たらふく食べてたのにまだアイスなんて入るんだ? 後、口に入ってる状態で喋らない」
オレの忠告を受けて涙月はまず食べ終える事に専念し(中断するんじゃないんだ)、アイスのコーンもバリボリと食べて(急いで食べているのに食べかすが一つも落ちない)、改めて口を開いた。
「皆さまよー君をよろしく」
「いつからオレの保護者に?」
フィールド外周にたどり着いて、ようやくわかったのだが無人警備ロボットが配備されている。それも企業用のゴム弾装備ロボットではなく実弾を備えた軍用機。誰が用意させたのかは知らないけれど相当運営も気を配っているみたいだ。
でも。
「事情は聞いたけどよ、あれ乗っ取られたりしねぇのか?」
霞の心配も当然だ。仮想災厄はプログラムに干渉する能力を持っている。人体のCPUである脳にすら侵入できる彼らがロボットに侵入できないなんてとてもではないが思えない。
何事もなければ良いのだけど……。
『両チーム揃いましたね!
それではバトルフィールドを選定します! ルーレット出現!』
フィールド中央上空に表示されるルーレット。
針がくるくると回って――止まる。
『海上都市に決定! ナノマシン散布スタート!』
ナノマシンが散布・収束・収斂し、まず海が再現された。傍から見ているとガラスがあるかのように海水が途中で途切れていて、指を突っ込んでみるが普通に水の感触がした。なめてみると――うん、しょっぱい。アイも変わらず凄まじいほどの再現だ。
海の真ん中には円形のお椀が造られ、ビルと思われる建造物が配置された。
「お魚がいるです!」
「え?」
海水に顔を近づけてコリスが嬉しそうに言う。オレも同じく顔を近づけると、成程、確かに魚――って言うかサメもいるんですけど?
『食べられないようお気をつけください!』
まず泳がないと都市にたどり着けないのでは?
『バトルスタートまで一分です!
ん~~~~~~~~~~~~カウントダウン!
10
9
3
2
1
0! バトルスタート!』
「アエル!」
オレは早速アエルを顕現する。アエルは空を這えるからフィールドを行けるが問題は――
「ツィオーネは小さいので掴まれません~」
「十六夜は……なんとか」
「俺は沈むな」
それは困った。となると選択肢は一つだ。
「では宵、皆乗って良いでしょうか?」
「そうなりますよね。良いですよ」
「よーさんアッシー化!」
「人聞きの悪い」
決してアッシーではない。決して。
それでもオレはアエルの首を下げさせて皆を一人ずつ五つの頭に乗せた。バラバラに乗せたのは攻撃を受けた際に一箇所に固まっていたら一度でアウトになると思ったからだ。
オレたちはアエルに乗って戦場になるだろうと思われる海上都市を目指して動き始めた。
下ではサメの背びれが見える。今か今かと獲物を待っているのだろう。……本当に食べられる可能性がありそうだな、あれ……。
「ウェルキエル」
「え?」
『電王』の頭の上に座り込んでいた卵姫さんが自身のパペットを顕現した。黄金の鎧のパペット。背には巨大な白い翼が生えていて、存在感は圧倒的に神々しい。見目奪われる。
でもなんでこのタイミングで?
『―― 一閃』
轟! ウェルキエルが海に向かって黄金の剣を振るった。まるでどこかの聖人伝説のように海が真っ二つに割れる。
『――ギィ!』
「――⁉」
海の中から――鳴き声⁉
オレたちは一斉に身構える。海の生物の中には鳴くものもいるだろうけれどこの場では違う存在がどうしても頭に思い浮かぶ。
海の中から巨大なそれが飛び出してきた。
鯨よりも巨大な、巨大なクラゲだ。触手の長さは一キロメートルくらいで、外皮の中に――城があった。
間違いなくパペットだ。良く見ると触手の何本かが途中でなくなっている。ウェルキエルによって斬られて痛みで飛び出してきたのだろう。
「卵姫、良く気づきましたね」
「海を眺めていると不自然な波がありましてね。念の為、ですよ」
念の為にの一撃があの威力なのか……。少し血の気が引いた。
「良き一撃だわ」
ん?
ハスキーな声が頭上から。少年――いや、どうやら少女のものらしい。目を凝らすとクラゲの頭の中にある城から一人の少女がこちらを見ている。少女だと思ったのは【seal―シール―】が変わったデザインのスカートになっていたからだ。【seal―シール―】は個人個人で微妙に形が変わっているのが普通だが、それにしても……なんと言うか、傘を広げたみたいな裾の広がり方をしていて、この角度からだと“見えそう”で直視できない。
「『イト』、蛇と天使を捕えて」
『――ギィ』
触手が伸びてくる。でもオレたちを頭に乗せた状態でアエルは素早く動けずに捕まってしまう。ウェルキエルの方は縦横無尽に飛んで斬って触手を避け続けている。
「先行くぞ!」
と言ってこちらの返事を待たずに霞が触手を伝ってイトの頭に向かって駆けた。遅れてオレたちも往く。
「『鰐鮫』!」
機械の鎧が装着され、右の拳がイトの頭に叩き込まれる。同時に爆発。彼の右の拳は触れるもの全てを爆殺する。
「そしてぇ!」
今度は左腕を振りかぶり、爆発した部分に一撃。赤い光の鏃がイトの体内にめり込んで消えた。
「っち! こんなもんか!」
爆発の煙が晴れない中もう一度右腕を振り上げる。
「皆さま、霞と同じ箇所を攻撃しなさい。一点突破です」
「「「はい!」」」
オレたちが連続して攻撃に移ろうとした時、
「ほろろ」
「お任せ!」
城の中から別の少女の声がした。
ほろろと呼ばれた彼女は城の外に出てくるとパペットの名を呼び、
「『ダイア』!」
顕現した。
イトの頭部に茜色の菱形クリスタルが幾つも現れ、繋がり、頭部を囲んだ。王冠にも見えるそれは攻撃型には思えない。となると。
「爆殺!」
「は!」
霞の右の一撃と、オレの剣撃がイトの傷跡を打つ。だがそこにもクリスタルが現れていて攻撃を防いでいた。やはり防御を得意とするパペット。
「いいえ! 防御だけじゃないって!」
「――!」
クリスタルが光って、閃光が放たれた。
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