第83話「裸になられてお入りください」
いらっしゃいませ。
「え?」
「裸になられてお入りください」
卵姫さんに先導され【seal―シール―】を受け取りに行ったのだが、裸になってボックスに入れと言われてしまった。
「じゃ、宵から」
「え?」
都合の良い時だけ先頭から外れる卵姫さん。貴女リーダーですけど?
「ささ」
「どうぞどうぞ」
村子さんにコリスまで。
オレは若干むくれながらも脱衣用ボックスに入り、服を脱ぎ、
「あ、下着もですよ」
「……はい」
スタッフの人の声に、オレは恥ずかしさを感じながらも頷いた。壁一枚隔てて人が大勢いると思うと、ちょっと……。
気恥ずかしさを感じながらボクサーパンツも脱いで、脱衣ボックスにイン。着衣スタートのボタンを見つけて、押した。
「お」
ナノマシンが起動中の光を放ちながらボックスに溢れた。体全身にゆっくりと集まってきてちょっとくすぐったい。
「――っ」
服を形成する間に別のナノマシンが体に付着していく。表示される説明文によると体を衝撃から守る為の防護ナノマシンが全身満遍なく包んでくれるらしい。
服と、見えない全身コーティング。それらを完成させて、入って来たのとは逆方向にある扉のロックが外れた。そこから外に出て、自分の姿を用意されていた鏡に映す。うん、なんか近未来の戦士っぽい。
「……………………かっこ良い」
「聞いたぜ聞いたぜよー君」
「うわ⁉」
いつの間にやってきたのか、ニヤニヤ面の涙月が鏡の後ろからひょっこりと姿を見せた。
「お気に入りのようですな」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいけどね」
でも嬉しい。妙な気分だ。
「ふふふ」
「あー涙月さ~ん!」
オレに続いてボックスから出てきたコリスが涙月を見つけて飛びついた。
「お久しぶりです良い匂いです香水ですか石鹸ですか元々の匂いですか⁉」
元気の良い子である。
「ふっふっふ、何もつけておりません」
あ、そうなんだ。オレは涙月から放たれるミントのような匂いを石鹸のものだと思っていたのだが、違ったらしい。
「うん? よーさんもしかして独占したいと思ってます?」
「思――」
って――しまったのは秘密である。
「さて、全員揃いましたね」
声に顔を向けると気づけば皆出てきていた。
「軽いミーティングをバトル三十分前に行いましょう。場所はメールします。それまでは自由行動で」
「はい」
「せーの! あ!」
「え?」
「ドーン!」
「痛い! あいや割と平気?」
【seal―シール―】の効力を試そうと涙月にランスで突いてもらった。正直に真っ直ぐに右肩の辺りを突いて欲しいと言ったんだけど、せーの! の後に涙月があさってを向いて「あ!」なんて言ってきたものだからそちらに顔を向け気を許してしまい、筋肉が緩んだところに刺突を喰らってしまった。
卑怯な……。
オレはバランスを崩し無様に倒れてしまったが痛いと思ったのは勘違いのようで【seal―シール―】がきちんと役割を果たしてくれた。
「痛くなかった?」
「うん。でもフェイントはひどいや」
「敵は何してくるかわかんないでしょ」
「そうなんだけど……」
ジト目で涙月を見るもそれを向けられている本人はどこ吹く風。やれやれである。
『第一回戦 ファーストバトル 「北陸」v.s.「東京」 開戦まで十分です』
「あ、涙月、オレ見たい」
「え? 私の裸を?」
何言い出すのこの子。
「いや……オレ今アナウンスに反応したよね?」
「ですな」
この子は放っておいたらすぐボケるんだから。
「じゃ行こっか。良い席取らなきゃねん」
「うん」
『さあ時間まで三分です! 両チームウォーリア! 既にゲームフィールドに姿を見せておりますね!
皆さま盛大に歓声を!』
実況に感化されて湧き上がるギャラリー。フィールドに降り立っている計十名の戦士はさぞ緊張しているだろう。オレたちは前から四番目とちょっと縁起の悪い数字の席に着き、それを観ている。
『残り一分! ゲームフィールドを選定します! ルーレットスタート!』
フィールド中央に巨大なルーレットが表示され、針がくるくると回る。
回る、回って、止まった。
『歪曲迷宮に決定! 展開します!』
ナノマシンが散布され、収斂していく。地上空中問わずグネグネと敷かれた道。そのフィールドに幾種もの鏡が配置されていて非常に道がわかり辛い。
両チームウォーリアもヒソヒソと何かを話し始めている。
『開戦二十秒前! フィールドにお登りください!
開戦カウントダウンを始めます!』
十名のウォーリアが足をフィールドに置き、腰を落とす、直立、屈伸するなど思い思いの準備を始めた。
『10
9
8
3
2
1
0 バトルスタート!』
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