第82話『ぞくぞくするって気持ち良い!』
いらっしゃいませ。
☆――☆
「小人を放ったな?」
「ええ」
オレ――幽化と、オレの家のリビングに座るのは――エルエルと言う女だ。
「【紬―つむぎ―】を持つ方々に協力していただきたいのですよ」
「治安を守るのは大人の仕事だ。ガキを巻き込む必要はなかった」
「あらあらお優し~痛い痛いっ」
頭部をげんこつでグリグリする。
「電脳に子供が関係しているのなら子供たちとだって手を取り合うべきですよ」
「それは大人がどうにかできなかった時の話だ」
「子供は二番手で良い、それが大人のやり方だ」とオレは言葉を続ける。しかし。
「そうでしょうか? わたくし子供たちの方がパペットウォーリアでは活躍できると思いますよ~? 子供たちは遊びの天才ですから」
オレは暫く黙って、テレビをつけた。
「あ、【紬―つむぎ―】でモニター独り占め! パスをわたくしに!」
「自分で観れるだろうAIなら」
「む~」
唇を尖らせるエルエル。その姿を一瞥し、オレはため息を吐いた。オレの見つめるモニターには情報庁の統括する電脳課の数人が映っていて、
『アマリリス削除に対応するユーザーを募集します』
と語っていた。
☆――☆
『サ――――――――――――――――――――――――――本戦だぁぁぁぁぁ!』
『中学生パペットウォーリア』本戦開会式も中程に差し掛かり、ひじょーに元気の宜しいメイン実況お姉さんの声。キーもトーンも高い綺麗な声だけど、ブンブン振り回されている腕が台なしにしている気がする。あと机にがっしと置かれた足も。
場所は古都にして新首都・京都。『東京一極集中型国家では万が一の災害・戦争が起こった時簡単に瓦解する』との理由で重要行政組織を始め放送施設・娯楽施設が全国に散開され、京都に皇居が移った事でそこが新首都となった。
今日は中学生本戦当日。挑むはオレ・コリス・霞・村子さん・卵姫さん五名。
子供の部は既に昨日一昨日の二日で行われており、今日明日で中学生、明後日明々後日は高校生の部、更にその後の二日で大人の部となる。
中学生の部・西京代表のオレたちがまず戦うのは――
『トーナメント表はこれだァ! て言っても今からランダム抽選だけど!』
ドラムロールすら聞こえてきそうな勢いで捲し立てるお姉さん。実況席の隣にあるどでかいモニターにはトーナメントの線が表示されていて、その一番下――チーム名がある部分では地域名がランダムに点いたり消えたりを繰り返していた。
オレたちはモニターを眺める。
『私のボタン一つでバトル相手が決定します! 責任重大! ぞくぞくするって気持ち良い!』
そんな告白されても困る。
『さあ押しちゃいます!』
お姉さんの手がボタンに置かれ、
『せーの!』
押された。
地域名の点滅が速度を緩めていき――止まる。
第一回戦
ファーストバトル 「北陸」v.s.「東京」
セカンドバトル 「北海」v.s.「四国」
サードバトル 「西京」v.s.「京都」
シード 「南州」
「わたしたちは午後二時からですね」
卵姫さんの微笑を交えた呟き。そう言えば【魔法処女会】は他の地域からも出ているのだろうか?
「勿論出ていますよ。全ては――」
確実にこの大会に出てくるだろうと予測される『仮想災厄』を倒す為に。
それはわかるのだけど、正直パペットウォーリアにそんな問題持ち込みたくなかったな……。と思うのだが、どこか使命みたいなものを与えられて身震いする気持ちもあったりして、うん、子供心って複雑。
「貴方の入会も継続中なのをお忘れなく」
つまり『仮想災厄』を倒す為にご協力を、と。
「頑張ります」
「はい、宜しく」
『さささささぁ! 対戦相手が決定しました! そこ! いきなりガン飛ばさない!』
縦に並んでいるオレたち参加者。やる気満々な人たちはキッと鋭い目つきで自分の相手を睨んでいた。
あ、霞もやってる。
『では! ユーザーの皆さまに今ゲームから支給されるこちらを着ていただきます!』
じゃーん! とお姉さんが手にして見せたものは。
『ナノマシン収斂型電衣【seal―シール―】です!』
裸の上に装着されるもので、大会用のユニフォームと言って良い。これまでの普通のナノマシン衣料、そして体は電子体であるパペットやアイテムに触れられない(触っていると思えるように表示されるだけ)。しかしこれなら。
『装着者の意志があればパペットを始めデジタルに触れられます! その分危険を伴いますがよりパペットとの共闘を実現させる為のものであり今後一般生活に導入するか否かのテストでもあります!』
ナノマシンで造られる衣料は衣服に使われるあらゆる素材を再現できる。勿論デザインも。デフォルトの状態で十着ほどが記録されていて、もっと増やしたい場合は自分でデザインするかネットを通じてアップされたものを購入する事で数を増やせる。
『楽しんで着ましょう!』
しかしユーザーの危険は増加する。それを大会運営が許可したのはなぜか?
「半仮想体である仮想災厄は現実からの干渉を遮断しデジタル側に存在を移せます。それを逃がさない為です」
「でもネットに逃げ込まれたらどうするんです?」
「それも考えていると思いますよ。スポンサーにエレクトロンと綺羅星がいる以上」
エレクトロンは仮想災厄を放った側、だから本当のところはアマリリスを捕らえる為だと言う事は火を見るより明らかと言う奴である。
でも綺羅星は? 彼らはアマリリスと仮想災厄をどう思っていてどう対処しようと考えているのだろう?
『では開会式を終了します! 選手ユーザーの皆さまは順次【seal―シール―】を受け取りにいらしてください!』
そうして開会式は終了。
「バトルは午後からですが、【seal―シール―】を受け取りましょう。慣らし運転です」
「「「はい」」」
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