第80話『AIがAIを産む産出システム~』
いらっしゃいませ。
「『…………』」
言葉が出なかった。けれど頭の中では様々な言葉が駆け巡っていた。
なに? ユメが仮想災厄? いや、どう見ても普通の人間で……。
仮想災厄が十三も? エレクトロンが全部作ってしまったのか?
『よー君』
ハッとした。予想以上に涙月の声は正常で、どこか力が篭っているようにも思えた。
『私いま盛大に困ってます』
「オレもだよ」
『私はよー君と巫のどっちを護れば良いんだろう?』
あ、そこ?
『いやどっちかじゃないね』
「?」
『両方護れば良いんだよね』
「りょう――」
巫さんはオレを護れと涙月に【紬―つむぎ―】を託し、ジキル氏は神巫さんを護れと涙月に【紬―つむぎ―】を託した。それならどっちも護れば良い。確かにそれが理想ではあるけれど。
「涙月……ユメは普通の青年に見えた」
『私も会いたい。見てみたい』
「いやどこにいるかまでは」
魔法処女会は彼の行方を捕捉しているのだろうか? できるならオレも会いたい。確かめなければ。彼は敵なのかどうか。
「卵姫さんに連絡とってみるよ」
『うん』
オレは涙月との通話回線を開いたまま卵姫さんへと通話をかけてみた。三回コール音が鳴り、サウンドオンリーで繋がった。
『こんばんは宵。お風呂上がりのバスタオル一枚なのでサウンドだけで失礼します』
思わず姿を想像してしまった。慌てて頭を振ってイメージを振り払う。
『今わたしの姿を想像しましたね?』
「全然?」
『よー君……』
「してないって」
したけど。ごめんなさい。
『あら? もう一人いらっしゃるのでしょうか?』
「あ、すみません勝手に――」
『想像できます。涙月でしょう?』
『言い当てられた!』
くすくすと言う卵姫さんの笑い声。普通なら人に会話を聴かせるのはマナー違反だと思うのだけど、気を悪くした雰囲気はない。良かった怒られるかと思った。
『神巫から話は聞いています。【紬―つむぎ―】を託されたそうですね』
『は、はい!』
『宵がユメと接触した事も報告されています』
「……筒抜けですか」
苦笑。
『ご安心を。監視しているのはユメであって貴方ガタのプライバシーとプライベートではありません。だから監視カメラなんて探さなくて良いですよ宵』
ハッ。その言葉通りオレはコンセント周りやぬいぐるみ(自分用に買ったんじゃないよ? 妹がこの部屋に来た時の為に置いてるだけです)なんかを確認している真っ最中だった。監視されてはいないらしいけど、やっぱり筒抜けらしい。
「あの、ユメは本当に敵なんですか?」
『そうです』
あっさりと、言い放たれた。
「人類誕生プログラム――それは一体何?」
『簡単に言えば――らtysdふ』
言葉が乱れた。うん? 通話不良? いやでも量子テレポーテーションなのに通信障害なんてあるのだろうか? まさか【紬―つむぎ―】が壊れたりは……。
『よー君? 今の?』
「うんなんかエラーが――」
『割り込み失れーい!』
「『うわ⁉』」
唐突に、元気の良い少年――いやキーが高いから少女だろうか?――の声が響いた。【紬―つむぎ―】や【eyesys】は脳に直接音を流すから随分クラクラと頭が揺れた。
「だ、誰?」
『仮想災厄の一つ、人類置換プログラム!』
「『――⁉』」
『いきなりごめんね! でもでもでも! それ以上こっちに深入りして欲しくないんで!』
これは脅迫しに来ているのだろうか? 楽しげな声だけど。
『脅迫⁉ のんのんのん! アドバイスだよ! 君らが行き着くとこまで行き着くとボクらの迷惑になるんで! 君らだって人が邪魔すると嫌だろう⁉』
それはそうだが、世の中には止めなければならない場面が存在するのだ。
「嫌だけど、貴方たちのやる事がオレたちの暮らしに影響するんじゃない?」
『するね! でも君らの暮らしにはプラスになると思うよ! 自信ないけど!』
そこはあってもらわないと困るんですが。
「貴方たちはアマリリスをどうする気?」
『削除する気! あれはちょっと危険だしそれがユメが作られた最大の理由だし! ボクらはユメの存在意義を奪わないさ!』
『それ以外を行う可能性はあるのかな?』
『ある!』
言いきった。多分それ以外とは悪さだと思うけれどさて。
「例えば?」
『言わない! 良いかい⁉ 直にボクらの仲間が君らに接触すると思うけど! 何も云わずにアマリリスにつけた標識を渡すんだ! それがダメなら力づくになるよ! OK⁉』
「『NO!』」
オレと涙月、二人の声がハモる。
『……そうかい』
そう言った声はこれまでと違い陽気なものではなく、首筋に冷や汗が流れるくらいに冷淡なものだった。
続けて彼――彼女?――は言う。
『それじゃ、せいぜいお命気をつけて』
その言葉を最後にノイズ音が鳴って、
『――い! 宵!』
「――あ」
卵姫さんの声が戻ってきた。
「あの、今――」
オレはどこかの誰かさんから入った邪魔を一通り説明した。卵姫さんは少し考え込むように黙り、口を開く音が聞こえた。
『神巫に話しましょう。対応が決まったらお二人に連絡します』
「はい」
卵姫さんとの通話を切って、オレは涙月に言った。
「幽化さんにも聞いてみるよ」
『…………』
おや? 返事がない。
「涙月?」
『おっとごめんごめん。実はこっちでも予期せぬ展開が』
「うん?」
『歌詠鳥が来たん』
「…………は?」
『呼ばれてないのにじゃじゃじゃじゃ~ん』
「うわ!」
その声は確かに歌詠鳥のそれで。
歌詠鳥――アマリリスをママに持つ、曰く『マスターユーザーとママを赤い紐で結ぶ役』。
そんな子が再び現れた。
「な、なんで歌詠鳥?」
『標識の所有者が変わったのでご挨拶~』
ああ、ジキル氏から涙月に移ったんだ。
『それと~仮想災厄の気配を感じて一回叩こうかなって~』
意外と物騒な。
『歌詠鳥、でももう遅いっす』
『ショック~途中でドーナッツショップがあったから見とれてた~』
「『見とれんな』」
いやそれより。
「歌詠鳥、仮想災厄は十三人もいるの?」
『本来ユメ一人~。でもユメはママと同じシステムを持っていて~』
『同じ?』
『AIがAIを産む産出システム~』
「『――!』」
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