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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第78話「それはとても――情けないですよ?」

いらっしゃいませ。

☆――☆


「いてぇ!」

「オレも痛い!」


 腕を押さえて抗議の声を上げる(カスミ)と、振り上げた脚を手で押さえるオレ。


「なんでお前がいてぇんだよ蹴った側のくせに!」

「蹴り慣れてないから膝に痛みが……」


 ぴょんぴょんと跳ねながら右足の膝を手で擦る。ちょっと伸ばした衝撃で走った痛みだから重症ではないだろうけれど、オレはそんなに運動不足だっただろうか?


「普段使わない筋肉を使っているからですよ」


 そう言いながらオレの頭をぺしっと叩き、


「貴方はただガラの悪い喧嘩をしているだけ」


霞の頭もぺしっと叩く卵姫(タマゴヒメ)さん。


「えいや!」


 その卵姫さんの後頭部を狙って鞭の如くしなる蹴打を放つコリス。しかし卵姫さんは静かにしゃがんでそれをかわすと脚を掴んで、


「うひゃ!」


体ごと脚を振り回して床にコリスの小さな体を叩きつける。


「こっのぉ!」


 がむしゃらに突っ込み殴りつける霞。


「バトルロイヤルなんだから周りにも注意なさいな」


 拳が届く前に卵姫さんが言った。その言葉を合図に村子(ムラコ)さんが横から霞を蹴り飛ばす。


「が――!」


 ガラ空きだった脇腹に一撃を喰らって転がる霞。一気に肺の空気が吐き出されたのか呼吸が荒くなっている。


「ほら、(ヨイ)、もう痛みは引いているでしょう? 来なさい」


 痛みは引いているのだけど、女の子を殴ったりするのが嫌だから霞に向かって行ったんだよね……。


「あの、今更ですけど肉弾戦の意味って?」

「あら、誰よりもパペットバトルで強くなりたいのなら体の動かし方を知らなければ。それともパペット頼りのバトルで良いのでしょうか? それはとても――情けないですよ?」

「――!」


 いつの間に移動したのか、瞬きをした瞬間に卵姫さんのスネが視界を覆っていた。


「だっ!」


 まとも喰らって上半身が後ろに飛ばされ目の前がチカチカする。しかも感じた覚えのない痛み。それに戸惑っていると上から村子さんがドロップキックをカマしてきた。


「お?」

「いつまでもやられっぱなしじゃ――!」


 オレは自分のお腹と村子さんの脚の間に腕をクロスさせてドロップキックの防御に成功。


「ない!」


 腕を払い、村子さんのバランスを崩す。次いで村子さんの腕を掴んで卵姫さんに向かってその体を振り回し――


「いったーい!」

「ごめんなさい!」


 慌てて手を離すオレ。すっぽ抜けて飛んでいく村子さん。すると村子さんの腕を卵姫さんがとって振り回し、


「――⁉」


村子さんがオレの胸に向けて蹴打を放つ。


「貴方は女の子を大切にしてくれるようですが、それを理由にやられていたら元も子もないですよ」


 倒れていくオレに向かって楽しげに言う卵姫さん。


「じゃあ最後は――」


 村子さんの腕を離し、飛んでいく彼女に追い討ちをかける卵姫さん。村子さんは空中でバランスをとり綺麗に着地し、すぐに廻し蹴りを撃つ。


「甘い」


 卵姫さんは村子さんの脚を掴んで自分の方に引っ張り背中に肘を強く当てる。


「――た!」


 苦悶に顔を歪めながら村子さんは卵姫さんの首に向かって右手を伸ばす。しかし手は軽く弾かれ、逆に首を握られ――


「は!」


 床に叩きつけられた。


「はい、終了」


 殆ど卵姫さんv.s.他の皆だったのに勝利を許してしまった。パペットなしでここまで強いなんて……。

 卵姫さんの招集で行われたこの特訓。魔法処女会(ハリストス・ハイマ)所有の集会場での特訓となったのだが、まずパペットに最適な号令を出す為、そして自身もパートナーとして戦う為に体の使い方をオレたちに叩き込む、そう始まったのだけど、完敗。男として立つ瀬がなかった。


「宵、男なのに、と言う考えは捨てなさいな。いくら命を失わないパペットウォーリアとは言ってもこれは真剣勝負。フィールドに立ったら男も女もないですよ」

「いいえあります」

「……まさか即答で否定されるとは」

「オレは、そりゃ女の子が相手でも戦うけど最低限一線を超えないようにしなきゃ悔いを残すと思うので」


 目をぱちくりとさせる卵姫さん。

 オレの父は母が時代遅れの不良に絡まれていた時に助ける事で出逢ったと言う。父もまた古風な人で男は女を守るものと信じ、それをオレにもずっと言っていた。だから。オレは女の子を守る。

 卵姫さんはぱちぱちさせていた目を一度閉じ、開く。ふっと唇に微笑みを携えて。


「ではわたしが傷つかないように護ってくださいね」

「え? そりゃ勿論――」

「第二ラウンド、開始しますよ皆さま」

「え――」


 楕円形の集会場のあちこちに床からポールが出てきて、野球ボール程のゴムボールが幾つか射出される。


「あれは跳ね返る度にスピードを増します。さ、起きなさい。ぐずっていたらボールの餌食ですよ」


 慌てて体を起こす霞たち。


「これが終わったら今度はパペットを出しての特訓です」

「まだ続くのかよ⁉」


 もうへとへと。そんな表情。


「その後はコンビネーションの練習ですからね」

「マジで⁉」

「ほらボールが行った」


 そんな感じで特訓は続き、最終的にボロボロにされて終わったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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