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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第75話『別れの日が近づいている』

いらっしゃいませ。

『第二次予選通過者を発表します!

 天嬢(テンジョウ) (ヨイ)選手 十四歳!

 コリス・冥・ロストファイア選手 十二歳!

 (ハレ) (カスミ)選手 十五歳!

 可愛(カワイ) 村子(ムラコ)選手 十三歳!

 ソリイス・卵姫(タマゴヒメ)選手 十五歳!

 年齢関係なさそうだけどはっきりさせときました!

 以上五名が本戦への出場権を手に入れました!』


 湧き上がる歓声。黄色い声、ブーイング、指笛。それを一身に受けるのは登壇したオレを含めた五人。

 照れ笑いをするオレ。

 ピースを掲げるコリス。

 そっぽを向いている霞さん。

 手を振る村子さん。

 笑みをたたえたまま目を瞑っている卵姫さん。

 五人五色の反応を見せながら閉会式は進み。


『次週日曜午前十時より本戦が開始されます!

 本戦・第一戦!

「北海」

「北陸」

「東京」

「京都」

「西京」

「四国」

南州(ナンシュウ)

 計七地域の代表者五名とのチーム戦! です!

 今日はライバルだった皆さまが西京チームとして別地域の五名とバトルします!』


 続きは来週。体調の管理をしなければ。


『――ではこれにて予選第二戦閉会式を終わります!』


 主賓の挨拶の後、司会のお姉さんの締めの一言で閉会式は終わり、


「よろしいですか?」


降壇したオレたち四人に卵姫さんが声をかけた。


「チーム戦、練習します? 出たとこ勝負で本番一発にかけます?」

「練習……」

「俺は別に一発勝負でも良いけどよ」


 そう言いながら目をそらす霞さん。一方で唇を尖らせて手をもじもじと動かしている。絶対やりたいんだこの人。


「わたしやりまーす!」


 元気良く手を挙げるのは、コリス。


「そうですね、本戦でごたつくとなんですし」


 そう言ってオレを見る村子さん。


「やっときますか」


 と、オレ。


「それでは前日は体を休めたいでしょうから、金曜日にしましょうか。場所はわたしたちが用意します。

 電話番号とメアド教えていただけますか?」

「ん」


 皆で電話番号とメアド――メールアドレスを交換し、この場は解散と相成った。

 さてオレは涙月(ルツキ)と合流して、他がどうなったか見よう。


「支部長」

「はい?」


 去ろうとしたその後ろで村子さんが珍しく笑みを消して卵姫さんに声をかけた。オレは盗み聞きはダメと思いながらも顔は前に、耳は後ろに向けてしまい。


「ユメ・シュテアネがこの会場に現れたようです」

「――そう」


 ……やっぱり彼を知っているんだ。

 それ以上は声をウィスパーにされてしまった為聞き取れなかった。






「ん~~~~~~~~~~~」

「ちょ、ちょっと涙月」


 涙月と合流して高校生の部・お姉ちゃんと社会人の部・幽化(ユウカ)さんのバトル、それぞれが決勝進出を果たしたバトルを見届け、近くの喫茶店で中学生メンバーと練習する事になったと話した後、涙月がぎゅーとオレの手を握ってきた。

 テーブルに置かれた二つの手、両方だ。しかも……指と指を絡めた恋人繋ぎ。店内の他のお客さんとスタッフが思い思いの表情でこちらをチラチラと見てきて恥ずかしい。


「どうしたの涙月?」

「別行動が増えそうだからよー君成分充電中」


 それが切れたらどうなるんだろう?


「うし! スタッフのお姉さん特上パフェ追加!」


 手を離して既にパンケーキとアイスを食べた後だと言うのに更にオーダーを追加。結構良く食べるんだよなぁ涙月って。成長期だからお腹のお肉にはならないで済んでるみたいだけど。


「よー君もお食べ。甘いの好きでしょ」

「うんまあ。でも恥ずかしいんだよね。男がスイーツ好きだって」

「んはは。周りの顔なんか気にすんな。やりたいならやっといた方が後味良いよ。勿論犯罪は論外だけどね」

「……ん。それじゃ、この新作ケーキっての頼んでみようかな」


☆――☆


「……誰?」


 口の中が甘くなって帰宅し、軽く運動してから夕食を食べ、入浴。一連の日常行為を送った後オレは眠りに就いた。

 その日の夜、オレは不思議な夢を見た。

 八人の人に囲まれている。ただその姿はぼやけていて、光っているようにも霞んでいるようにも見える。

 一人は腕を組んで仁王立ち。一人は椅子に腰掛け、一人は傅き、一人は子供を抱えている。そんな風に皆のオレに向ける対応はそれぞれで、更に中央に九人目――或いは一人目――の桜色の髪をした男性がオレの前に背を向けて佇んでいる。

 そして皆が言うのだ。


『別れの日が近づいている』


 ――と。


「別れって?」


 オレは問い返す。しかし彼らは何も応えず、中央の男性が空を指さした。上にあるのは一面の星空。美しく神秘的な夜空だけで。


『天が迫っている』

「……天?」

『時が来ても慌てず、騒がず、現れたものを受け入れろ。それは彼らの形見にして最強の剣。お前の新しい○○○○なのだから』


 朝。オレは目覚まし時計から流れる歌で目を覚ました。お気に入りのヴィジュアル系ロックバンドで数年前まで新曲を出せば一位を取るバンドだったけれどヴィジュアル系ブームは終焉し、その後はトップ10に入れば良しと言うくらいに位置しているバンドだ。オレは変わらず彼らの音楽が好きだし、何よりボーカルの男性の歌声が好きで中性的な顔にも憧れている。

 最近は日本でデビューした金髪紫眼のソロ少女歌手にクラスの男子は夢中だしオレも興味がないかと言えばあるけれど、やはり自分の中のランキングではバンドの方が一位だ。

 目覚めは悪くない。はずなのに、どうしてオレは泣いているのだろう?


「……顔洗ってこよ」


 夢は朧げに覚えている。彼らは一体誰だ?






「前世とか」

「え?」


 その日の午前十時、涙月と待ち合わせて次の日の打ち合わせ。と言う名の……デート?

 夢の内容をまず話してみたのだが涙月からの返答第一声がこれだった。


「前世ねぇ……」


 オレは誰かと別れたのだろうか? それも八人もの人と。

 カコン と軽い音を立てて自動販売機にカップがセットされた。続いて氷が小さな雪崩みたいに出てきて、苺シロップがかけられ、最後にストローがサクッと氷に突き刺さった。かき氷の自動販売機だ。


「はい」

「あんがと」


 カップを取り出して涙月に渡し、次にオレの分を買うべく……えっとどれにしよう? ラムネ味ってのにしてみよう。買うべく、ボタンを押した。ボタンが指紋を読み取ってちゃりんと言う音と【紬―つむぎ―】によって表示されているMR複合現実画面に☆100コイン頂きました☆と言うメッセージが表示された。これで自動的に預金から引き落とされる。

 二人揃って木陰にあるベンチに座り、咀嚼。


「「んま~」」


 日本の夏と言ったらこれですよね。シュワシュワと口の中で炭酸が暴れている。それがとても気持ち良い。


「よー君は相変わらず炭酸好きだね」

「涙月は相変わらず苺が好きだね」

「赤いのから白いのまで好きだぜ」


 そう言えば白い苺って言うのもあったな。食べた事ないけど味は同じなのかな?


「オレはリンゴも良いかな?」

「アダムになる気か!」

「そんな気ありません」


 他愛もない会話がとても心地良い。バトルとはまた違う楽しみだ。


「で、明日は問題なしかいよー君?」

「うん。一時に駅だよね?」

「そ。あー楽しみだ」


 オレと涙月、どっちも予選突破した時は互いのお祝いの為に、ダメだったら気分転換にと明日フェスに行く予定になっている。オレお気に入りのロックバンド『カウス・コザー』と涙月のお気に入り金髪紫眼のソロ少女歌手『(カンナギ)』が出る野外フェス。一粒で二度美味しい。一時バトルは置いといて精一杯楽しもうと思う。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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