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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第73話「涙月、いつも通りに」

いらっしゃいませ。

「ひゃっふー!」


 控え室に戻ってきた村子(ムラコ)さんに飛びつくコリス。いや、多分その角度首絞めてるよ。


「コ・リ・ス」


 ゴ……、小さなコリスの頭頂部に肘打ち一発。「あふん」とコリスが突っ伏した。


『ドンマイ、マイレディ』

「お……オオ」

「さて、これで残るは一戦だけです」


 力なく右腕を上げるコリスを跨いでオレと涙月(ルツキ)の方に近寄る村子さん。同僚をダウンさせて跨いで良いのだろうか?


「相手はわたしたちのサブリーダーの一人ですが」

「……うん」


 魔法処女会(ハリストス・ハイマ)日本支部長、ソリイス・卵姫(タマゴヒメ)さん。涙月の対戦相手。

 涙月の手が震えている。武者震い? それとも? 震える手を見つめる涙月の表情は――いつも笑っている涙月がこの時ばかりは真剣な真顔。でもそれは。


「はにふんのふぁ(何すんのぉ?)」


 オレに両頬を引っ張られて涙月は唇を尖らせる。


「涙月、いつも通りに」

「――!」


 涙月の頬から指を離してそっと頬に触れる。その手の上に涙月の手が重なって。


「うん」


 ニッと笑う涙月。良し。


高良(タカラ) 涙月選手、ソリイス・卵姫選手、試合開始まで十分です。

 フィールド・控えサークルまでお越し下さい』

「うん。行ってくるね」

「ん」


 オレの拳に自分の拳を当てて、涙月・出陣。






『バトルフィールドを決定します!』


 巨大なルーレットが表示され。


『選定スタート!』


 針が回り始めた。


『決定! スノーボールアース!』


 フィールドにナノマシンが放たれ、収斂してフィールドの景色を象っていく。全地球凍結の中から一部が切り取られ、氷の大地と山脈が造られた。


『開戦まで三十秒! 両選手フィールドへ!』


 涙月と卵姫さんがフィールド内へと進み。


「寒い~~~~~~~」


 すぐに涙月は自分の体を抱きしめた。夏服だしね。

 卵姫さんは、墨汁のように真っ黒で艶のある長い髪を冷たい風に流しながらも真剣な顔を崩さない。本当に中学生かと思わせる程に雰囲気が大人びている。


『両者その位置でお待ちください!』


 高良 涙月、ユーザーLv92、パペットLv100。

 ソリイス・卵姫、ユーザーLv99、パペットLv100。


『カウント0でバトルスタートです!

 カウントダウン、始めます!

 10



 3

 2

 1

 0! バトルスタート!』

「ウェルキエル」

「――!」


 ポツリと呟かれた卵姫さんの言葉。彼女のパペットの名だ。それを証明する人の何倍もの大きさのある黄金鎧の天使が現れた。


「――――」


 見る者全てを魅了・圧倒するその存在。掲げられる真っ白な翼は鎧の体すらも小さく見える程に巨大で。


「クラウンジュエル!」


 体だけなら引けを取らない大きさの騎士の顕現。涙月のパペット。


「ごめんなさい、涙月。人をいたぶるのは好みではないのだけど」

「え?」

「ウェルキエル――ジョーカー発動」


 こくん、と首肯する天使。手に持ったハート型の盾を掲げ、ブレるように光らせる。

 攻撃? しかし何かが起こった様子はどこにもなく。


「――? っつ」


 涙月が胸を押さえて表情を歪めた。ぎゅっと胸を掴んだまま涙月は冷や汗を額に一つかき、膝をつく。






「涙月?」


 オレは控え室のモニター前で彼女の姿を見て一人呟いた。






「……はっ」

『涙月?』

「ちょっと……心臓がおかしい気が……」

「天使ウェルキエルは――」


 マイクが拾う卵姫さんの声。涙月は顔を上げてモニターを観る。


「――心臓を司る天使。貴女の心臓も、パペットの紋章もわたしの自由によって動かせます」

「なん――」


 つまり生殺の権利を握られたわけで。


「敗北宣言を。すぐにジョーカーを解きます」

「……まだまだ……クラウン!」

『おう!』


 クラウンジュエルのランスが光って、涙月の体を貫いた。自殺? ではない。ランスに天使のジョーカーが吸い込まれていく。


「へぇ」


 面白いものを見た、そんな風に笑う卵姫さん。


「吸収だけでは――」

『ないぞ!』

「――!」


 涙月の体から抜かれて大きく突き出されるランス。そこから放たれた光が寒い寒い大地の上方を目に見えぬ速さで飛んでいき、ウェルキエルに到達した。


『――⁉』

「私のクラウンジュエルのジョーカーは!」

『問答無用の吸収と開放なのだ!』

「ウェルキエル」

『――くっ……』


 ウェルキエルの様子を見て、卵姫さんは息を吐いた。


「自分のジョーカーに殺されるなんて実にオマヌケさん。

 では、ユーザーアイテムの顕現を」

「うん?」


 涙月が体の自由を取り戻し立ち上がりかけた氷雪の上に、ピンクに近い赤い花が咲いた。アザミだ。キク科アザミ属アザミ。アザミが氷雪に不釣り合いな程に咲き乱れたのだ。まさに絨毯の如く。


「花言葉解放、『触れないで』」


 赤い花粉がウェルキエルに降り注ぎ、紋章にまとわりついていた自身のジョーカーが蒸発していった。


「貴方はオマヌケさんではないようですね、ウェルキエル」

『無論』

「それでは、涙月、貴女はオマヌケさんかしら?」


 投げかけられた言葉に、涙月は眉をピクンと跳ね上げる。


「なんですと?」

「ウェルキエル」

『御意』


 天使がその証たる翼を羽ばたかせ――


「消えた?」

『涙月!』

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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