第71話「……ユメって犯罪者?」
いらっしゃいませ。
「今なんとおっしゃいました?」
昼食を食べ終え陸に戻ったオレと涙月は余った時間ショッピングモールを闊歩し、控え室に戻ってきた。そこで涙月はサイバーコンタクトを、オレは【紬―つむぎ―】の調子を確かめながらユメについて話していた。
目に映るディスプレイには時刻・気象情報・身体情報等が常に表示されている。その中に眼球がとらえた人物や建築物・企業等について書かれた情報表示があるのだけど、ユメを見ている時には何の情報も表示されなかった。情報は自他共に編集できるから本人の意思で表示NGにしたりもできるのだがそれは良くない経歴を隠す行為であると現実認識されている為、殆どの人が表示されるがままにしている。オレの場合出生からの学業経歴と性格がメイン。パペットについては基本的な情報しか載せずジョーカーは秘匿している。
「ユメ・シュテアネ、確かにそう名乗ったのですね?」
重ねて疑問をぶつけてくる村子さん。
「そうですけど、何か問題ありました?」
「魔法処女会的にちょっと聞き逃せない情報です。が、貴方が気にする必要はありません。わたしたちで倒します。
しかし、そうですか、日本にいるのですか」
何か因縁でもあるのだろうか? オレは問いただしたい気持ちになったがそれと同時に面倒事に巻き込まれる気もしたからやめておい――
「何か因縁でもあんのかい?」
――と、涙月がズバリと聞いてしまった。全く躊躇しないとは……羨ましくもあり憎らしくもあり。
「え~、因縁と言うより役目ですね、魔法処女会としての」
魔法処女会の役目――
「それって祈りでの救済では? ユメって何かに悩んでいるんですか?」
「いいえ。わたしたちは祈り以外に他の手段も使うでしょう?」
若干物騒な手段を。
「……ユメって犯罪者?」
「みたいなものです。あ、これ以上は秘密で」
「え~」
ぶー、と唇を尖らせる涙月。オレももうちょっとだけでも良いから聞きたかった。
「知らない方が幸せだったりしますから。お願いします」
そう言って可愛らしくにっこりと微笑む。
くっ……追求できない……。
「あ、そう言えば私たちって既に魔法処女会メンバーじゃなかったっけ?」
「う」
痛いとこをつかれた。そんな表情。
「仲間同士情報交換しませう」
「うう……」
「たっだいまー!」
追い詰められる村子さん。その時コリスが元気良く控え室に戻ってきた。お腹がちょっと膨らんでいる。孕んだ? わけはなく。
「コリスどんだけ食べたん」
「ケーキをホールで二つ程です!」
どこにそれだけ入る胃があったのだろう?
「コリス、食べた分動きましょうね」
「あい!」
『第四戦出場可愛 村子選手、遊佐 遊選手、試合開始まで十五分です。控え室に集合ください』
控え室のスピーカーから、それに街中のスピーカーからも集合のアナウンスが流れた。
「さて、わたしはパペットの具合を見るので集中させてもらいますね」
そう言うと村子さんは適当な椅子に腰掛けて手を動かし始めた。ディスプレイを操作しているのだろう。
「――は! 上手く話を終了された!」
そう言うものの、涙月はこれ以上追求しようとはしなかった。村子さんの邪魔をしない為だ。そう言う空気は読める子である。
村子さんの方は緊張した様子もなく、せっせと作業中。相手はユニコーン使いの遊。果たして勝つのはどちらだろう?
『試合開始十分前です。可愛 村子選手、遊佐 遊選手、控えサークルまでお越し下さい』
「――では」
すっと腰を持ち上げ、
「行ってまいります」
控え室から村子さんは出て行った。
『さて! 皆さまご昼食は美味しくいただいたでしょうか⁉
この科学の時代に守護霊の如きパペットと共に戦うパペットウォーリア! 午後の部開戦まで五分です! 既に両選手出揃っております!』
控えサークルには村子さん、遊。
う~ん、オレはどっちを応援したら良いのだろう?
『時間になりました! バトルフィールドを決定します!』
巨大なルーレットが表示され。
『選定スタート!』
針が回り始めた。くるくるくると回って――
『決定! 熱砂砂漠!』
フィールドにナノマシンが放たれ、収斂して砂を象っていく。どこまでも続く砂の大地。熱が大気から、砂から放たれ立っているだけでも汗が滲んでくる。
「困りましたねぇ、服薄いのですけど」
薄くても貴女の服装は黒ベースですが。
『開戦まで三十秒! 両選手フィールドへ!』
村子さん、そして遊が砂漠へと足を踏み出す。
可愛 村子、ユーザーLv94、パペットLv94。
遊佐 遊、ユーザーLv90、パペットLv96。
『両者その位置でお待ちください!
カウント0でバトルスタートです!
カウントダウン、始めます!
10
3
2
1
0! バトルスタート!』
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