第07話「サイバーコンタクトの電源が落ちた!」
いらっしゃいませ。
☆――☆
数日が過ぎ――学校
「――と言うわけで、明日は寝坊しないように。絶対にだぞー。おいてくからなー。
んじゃ当番」
「きりーつ、礼」
「「「さよーなら」」」
教師が去っていき、教室内は帰る者、部活へ行く者、お喋りする者で賑わいを見せる。
「いやー明日だねぇ待ちどうしいねぇ海超えるねぇ興奮するねぇ」
「鼻血出さないようにね高良」
「大丈――う⁉ てのは冗談で」
浮き足立ってるなぁ。
そう思うオレもいつもよりワクワクしているんだけど。
なぜって?
明日から姉妹校と合同で研修旅行だからだ。行き先はなんと、ハワイ。常夏の島。一部では『教師陣がハメ外したいだけだよな』と言われる伝統行事。
「お金はちょっと多めに持ってくるんだぜい」
「うん」
小学校の修学旅行で、オレはプリントに記載されているだけのお金しか持ってこず節約しながら旅行を過ごした経験がある。
皆『え? 決まってる分しか持ってこないよ』っと言っていたのに蓋を開けると全員倍近いお金を持ってきていたのだ。
お姉ちゃんに聞けば良かった。
「じゃ帰るかねよー君。そしてぐっすり寝て明日に備えようぞ」
「はいはい」
高良、興奮して寝られなかった、とかになりそうだ。
☆――☆
「…………」
一睡もできなかった……オレが。
遠足前の小学生か。
「……もう一回荷物確認しよ」
「じゃ、気をつけて行ってらっしゃい。わたしはいつも通りお母さん手伝って行くから」
「うん。行ってきますお姉ちゃん。
行ってきまーす」
オレは奥にいる親に聞こえるよう大声で言い、旅行用のバッグを持って出て行った。
「おっすよー君」
出て歩き出してすぐ、見知った顔が。
「あれ高良? なんでうちの近くにいんの?」
「ふ……実はお菓子の形した雲を追っていたらこんなとこまで――」
「ホントは?」
「寝られず朝からジョギングしてたらこんなとこまで来ました」
あ、やっぱり寝られなかったんだ。
「おかげで今からぐっすり寝れそうです。ぐー」
「こらこらこら。
ん? ……高良バッグは?」
「…………」
まあ、ジョギングには持っていかないよね……。
「先に行ってておくんなまし!」
そう言うと、彼女はダッシュで家へと戻っていった。
「ぜーはーぜー」
「……オレの服で汗拭かないでくれる?」
この真夏のあっつい中、往復四キロメートルの猛ダッシュ。
そりゃきつかろう。
「ぜー…貴重な女汁だぜ……はー」
「いや、汗はいらない」
「んん? 汗はと言う事は他の女汁はい――」
「そこらへんでやめとこう!」
「はい朝からエロ言わない! 整列ー!」
教師の大声で一瞬雑談は静まり、オレたちはバスの手前に綺麗に並ぶ。
「学級委員長~皆いるか確認しろー。教師への報告も忘れずに。
終わったら順次バスに入って」
「「「はーい」」」
委員長はオレたち一人一人の肩をポンと叩きながらいるかどうかを確認して、担任教師(女性・三十五)へと報告する。
こんな日にもいつもと変わらずジャージの担任は一つ笛を吹く。
「よーし班に分かれてバスに喰われろ」
喰われろて……。
オレたちは決められた班に分かれ、バスへin。
「おっしゃ歌うぜー!」
まだバスは出てもいないのに高良はどこからか手に入れたマイクを握って叫んでいた。
もう復活したんだ……。
バスはゆっくり進み、途中で姉妹校と合流し、十分足らずで高速道路へと入っていく。
「よー君お菓子食べるかい?」
「ん、もらう」
「やーい夫婦ー」
「朝から発情すんなよなー」
またか。
オレはいつも通りただスルーして――
「ん~そうだねぇ、よー君とこなら嫁いでも良いよ」
シーンと、間違いなく静寂がバスに訪れた。
オレも何も言えず、ただ、顔を紅潮させるだけで。
「んじゃ、席に戻るね。し~ゆ~」
……こ、困った女の子だ……。
「て言うかまず順番的に私が先に嫁ぐべきだろ? そうだろ?」
ブツブツと呟く担任教師を乗せて、バスは順調に進んでいく。
『さあ皆さま、大海路に乗りますよ』
バスガイドさんのアナウンスが入り、オレたちは窓からバスの行く先を見た。
海を越えて国と国を繋ぐ長い海上道路、大海路。
エナジートンネルに包まれたここは車体の自動運送技術が詰め込まれていて、事故は――まあ、数える程度しか起きていない。
『一時間後サービスエリアでトイレ休憩です。
気分悪くなった人はいませんか?』
「え?」
「どったのよーちゃん? 気分悪くなった?」
「今コンタクトに映ってたものが乱れた気が」
ノイズ、とまでは言わないけれど、蜃気楼みたいに。
「えーあたしなんともなかったよ」
「うちもー」
「……まさか壊れてきた――かな?」
オレは念の為にスキャンをかけてみた。
う~ん、異常動作も壊れているファイルもなし、か。
次、異常があったら新しいのにファイル移動させよう。
バツン!
「うわぁ⁉」
「な、なになに⁉」
突然の妙な音。それと共に起こった現象に皆慌てに慌ててしまう。
「エナジートンネル消えたぞ⁉」
「だけじゃないよデジタルサイネージも消えてるし――何より!」
「サイバーコンタクトの電源が落ちた!」
戦々恐々となる車内。
考えてみたら今の時代、電子が機能しなくなるなんてなかった。
アナログで生きた経験のない子供たちは非常に弱くなってしまうだろう。
その事態が今起こっている。
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。