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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第69話「ふ……ん。ブラコンか」

いらっしゃいませ。

「――⁉」

 鰐鮫(ワニザメ)とジャレあって(?)いた(カスミ)さんの表情が変化したのを感じた。きっと今頃、朱が差していた頬が緊張に黄色味を取り戻し、口元が引き締まっているだろう。


「なんだこりゃ……」


 そう言う霞さんの立つ土が微振動を起こしている。小刻みに震えてゆっくりと沈み――浅いクレーターができ上がる。


「圧力……水圧から圧力だけを取り出したのか!」


 霞さんの立つ場所を中心に一気に大地が凹んだ。


「……あたしの――フレンズのジョーカーです」

「そうかよ!」


 それでも霞さんは二つの足で立ち続ける。膝に手をついて気力で踏ん張っている。


「――?」


 そんなはずはない、そんな表情になる(マユ)


「圧は既に五十メートル級……いくらなんでも」

「オイオイお前がジョーカー持ってんのに俺が持ってねぇとでも思ってんのかよ!」


 ジョーカーで対抗している? でもそんな様子は――


「コイツが俺のジョーカーだ!」


 圧の膨張で空気が歪んで見える。球体状にそれは広がって、爆風を伴って霧散した。

 その瞬間霞さんは宙に逃げた。いや、自ら飛んだ。

 跳躍? いや違う。完全なる飛翔。


「……中に体があるのに?」

「こいつを使えるのはナノマシンが散布されてるドームか正式大会だけに限られるけどよぉ! 大気中のナノマシンが飛翔を可能にすんだよ!」


 翼が生えているわけではない。鎧の重量もかなりのものだろう。何せ彼の鎧のモデルは戦闘用ロボット。全身纏っていればろくに動けもしないはずだ。つまり浮力を生み出していると言う事で。


「お前も来いよ!」

「――⁉」


 霞さんが繭に向けて開いた手を突き出した。途端繭の脚が大地を離れ、ふわりと浮き上がる。


「動けねぇだろ! 最初は俺もそうだったぜ!」


 それは自慢にならない。


「くっ……」


 何とかバランスを保とうとするも体が言う事を効かない繭。けれど気丈に眉を吊り上げ気合を見せる。

 すると繭の体が沈んでいって――大地に脚を着いた。


「あ?」


 そうか水圧、圧を上から自らにかけているのか。


「そうかよなら――」


 鎧の腕と肩と足が開いて筒状の赤黒い物体が姿を見せ――


「対地爆撃!」


 全てが放たれた。


「甘いです」

「――⁉」


 繭を中心に水が顕現して渦を巻く。どんどん大きくなってそれは水の竜巻へと化けて霞さんの爆撃を全て受け流した。


「それ込みでジョーカーか!」

「行きますよ」


 天に昇る竜巻の先端が曲がった。霞さんを襲う軌道に。


「――っち!」


 舌を打ちながら右腕を突き出す。竜巻に触れた右腕が爆発し水を弾き飛ばし、更に襲い来る竜巻を何度もの爆発で飛ばす。しかしキリがないと見たのか霞さんは右腕を引いて避けてかわした。だが竜巻は軌道を変えて尚も霞さんを追撃する。


「――⁉」


 避けようとする霞さんの体が水球に包まれた。

 そこに竜巻が襲い掛かり。


「が――!」


 霞さんの纏う鎧が半壊して吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。


「くっそ……」


 体そのものを叩きつけられたのだ。デジタルのライフの減少と共に実際の打撲も負っているのではないだろうか。それでも霞さんは両手をついてよろけながらも立ち上がる。そこに大地を深く覆う程の水が顕現されて霞さんの体が水中に没した。


「流石に……Lv100だな……」

「貴方もお強いですよ。流石はLv99です」

「褒め言葉光栄だ! だがまだ負けてねぇ!」


 浮力を最大に。霞さんの周囲の水が彼の体を避けて蠢いて一気に空中に脱出。


「おおおおおおおおおお!」

「――⁉」


 木々が、神殿が、大地が捲れ、浮き上がり、その中の一つの塊からフレンズが飛び出した。


「ここにいやがったか!」


 大地だった土塊がフレンズを中心に集まっていく。


『繭!』


 体を拘束され、埋もれ、顔さえも閉じ込められていく。


「殺しゃしねぇからよ!」

「――!」


 浮かび上げられていた木々の根が弾け飛んで幹が巨大な杭になる。


「串刺しになれ!」

「リザイン」

「――あ?」

「リザインです」


 両手を挙げて、『敗北』を宣言する。


「……そうか」

『……パ、パペットが串刺しになる姿なんて見たくないよね。霞も前にボクが刻まれ続けた時に泣いてたし』

「余計な話するんじゃねぇ!」

『ご……ごめん』


 顔を赤らめて、霞さん。


「実況!」

『は、はい! 勝者 (ハレ) 霞選手です!』


 湧き上がる歓声。

 その中で土塊がはがされてフレンズが大きく呼吸をした。


「フレンズ」


 繭に呼ばれてフレンズはひと鳴きした後彼女に近寄っていく。


『ごめんね繭』

「ううん。あたしはバトルに負けてもフレンズが傷つくのは避けたいから」

『うん』

「オイオイちょい待て。んじゃなんでそもそもバトルに参加してんだ?」


 繭とフレンズの会話を耳にして霞さんは少し不機嫌そうに。


「……耳を」

「お……おう」


 急にぎこちなくなって、どこか動揺しながら繭に近づいて耳を差し出す霞さん。ぎゅっと目が閉じられている。キスじゃあるまいし。


「兄に他選手の戦い方を見せる為です」

「……そりゃ自主的にやってるのか?」

「はい」


 淀みなく頷く。


「ふ……ん。ブラコンか」

「そうですね」

「認めちゃたよ!」


 がしがしと霞さんは短髪な頭をかく。


「あーなんだ、ま良いんじゃねぇのそう言うのも」

「悪いと思ってませんが」

「そうかい。んじゃ兄貴に俺の事良く伝えとけ。その上でぶっ潰してやるからよ」


 歯を見せてニッと笑う霞さん。どこか愉快そうだ。


「伝えておきます」

「おう」


 その言葉を最後に両者は別方向に振り向き歩き、フィールドを後にした。


『ではここで一時間の昼食休憩となります。試合再開は午後一時からです。

 選手の皆さま、観客の皆さま遅れたり見逃したりなきようお願いします』

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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