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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第68話「憧れですよ」

いらっしゃいませ。

『第三戦開始まで一分です!

 前野 (マユ)選手・(ハレ) (カスミ)選手は既にサークルに控えていらっしゃいますね! 歓声も凄い!』


 繭の姿をオレは控え室のモニターから観戦する。客席に行ってもオレ個人的には良いのだけど、運営側の言う事には『バトル外で選手を蹴落とそうとする事件が何度か起こっていらっしゃいますので控え室にて観戦をお願いいたします』との話だからそれを受け入れてここにいる。

 確かに襲いたくなる気持ちがわからないでもない。本選に出たらそれだけで各国の最先端デジタル産業から協力を求められる事例があるし、何より賞金が億単位なのだ。お金に汚い人は昼夜、容赦なく襲って来るだろう。だからこの控え室の前にもガードマンが二人ほどくっついている。感謝。


『バトルフィールドを決定します!』


 巨大なルーレットが表示され。


『選定スタート!』


 針が回り始めた。くるくるくると回って――


『決定! アクロポリス!』


 フィールドにナノマシンが放たれ、収斂してシティを象っていく。ギリシア・アテナイのアクロポリス。パルテノン神殿で有名な遺跡だ。


『開戦まで三十秒! 両選手フィールドへ!』


 繭と対戦相手の少年、霞選手が古代遺跡に足を踏み入れた。

 前野 繭、ユーザーLv56(元99)、パペットLv100(元86)。

 晴 霞、ユーザーLv92、パペットLv99。


『両者その位置でお待ちください!

 カウント0でバトルスタートです!

 カウントダウン、始めます!

 10



 3

 2

 1

 0! バトルスタート!』


 いざ、開戦。


「――!」


 開始直後、繭は眉をピクンと動かした。さぁ索敵、と言う時に上空に赤い光が上がったからだ。鏃に似た光だ。誰がやったのか――それは言わずもがな。霞少年に違いない。ではなぜそんな真似をしたのか――これも言わずもがな。「ここに自分はいる」――そう言っているのだ。


「フレンズ」


 繭のパペット、海竜『フレンズ』が地面から首だけを浮かした。どうやら土の中に潜行していたらしい。長い首を鎌のようにもたげて繭の顔に近づける。


「先行して光の足元へ」

『良いよ』


 フレンズはもう一度首を大地に沈めギャラリーには姿が見えなくなった。一方繭はアイテム群の中から剣と銃を顕現し、それを持ってゆっくりと進み始めた。

 その時もう一度光の鏃が空に上がった。先程よりも近い。向こうも近づいている。

 繭はそれを確かめ、白い神殿に身を隠しつつ進む。

 鏃はその後も定期的に上がり、それを見た繭もそちらに歩き進んだ。やがて往くべき先で水柱が上がった。フレンズと霞さんが会敵しその様子がモニターに映されたのだ。






「霞――さん、だよねあれ?」


 控え室でモニター観戦していたオレはちょっと自信なげに誰にともなく呟いた。


「鎧がパペットのようですよ。強化外装と言った方が正しいかも知れませんが」


 その呟きに応えてくれたのは村子(ムラコ)さん。どうやら事前に霞さんの情報を持っていたみたいだ。

 成程強化外装。モニターに映るのは機械っぽさをベースにした赤紫の全身甲冑。外から肌を確認できないからユーザーが入っていると言う事に確信が持てなかったけど村子さんの言う通りならあの中に霞さんがいるのだろう。






 フレンズが炎と水と雷の矛を作り出し、霞さんに向けて放った。


「ムダだっつってんだろ!」


 霞さんは一際大きな左腕の鎧を後ろに引き、一気に前に振り抜く。拳が空気を叩いた。と思ったら赤い光の鏃が放たれた。先程まで空に放っていたものとは違う巨大な鏃。それは三本の矛の中央を通り向け、鏃の纏う力が矛を全て砕いた。

 がちん! と言う音を出して鎧から大きな薬莢が排出される。そしてすぐに次の銃弾が装填された。


「弱えぇなぁオイ! 弱ぇってのは苦痛しか呼ばねぇなぁ!」


 ……意外な性格。確かにパペットの力が強大だと態度が大きくなるタイプはいるが、彼は先ほどの殴打を見ても間違いなく格闘技を習得している。きっと元々ああ言うタイプなのではなかろうか?

 フレンズが地中に沈んだ。


「せこい手だな!」


 霞さんの真下から彼を飲み込むべく口を開けて浮上するフレンズ。霞さんは両腕をつっかえ棒にして口が閉ざされるのを防ぎ、右腕が爆発した。


『――!』


 口のすぐ近くで起きた爆発にフレンズが震えながら地中に沈む。


「右腕は触れるもの全てを爆殺する! 触れずに近づくんだな!

 そしてぇ!」

「――⁉」


 完全に霞さんの背後からマシンガンを連射した繭。けれど腕の鎧が二つに分離して盾になって防がれた。


『ぼ、ボクの目は後ろにありますので……ご注意ください』

「おいこら鰐鮫(ワニザメ)! ヘコヘコすんな!」

『お、落ち着いてよぉ……』


 ……なんか随分キャラが違うな……。






「サイバーコンタクトには鰐鮫を作る材料が揃っているのでしょうね。例えばそう――優しさについて語った怪しい元犯罪者の著書とか」


 いやまあ確かに元犯罪者って出所後よく本出すし以前と変わった自分をアピールする為か善についてやたらと語るけど。


「なんであの気の強い霞さんがそんなものを? 村子さん」

「憧れですよ」

「憧れ?」






『霞だって優しいキャラで高校デビューしようとしてるくせに……』

「バッバカ野郎言うんじゃねぇ!」


 ……根は良い人に思えてきた……。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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