第67話「先手ひっしょ――――――――!」
いらっしゃいませ。
そう言ったのはコリスと勝利さん、二人同時だった。そして二人同時にポリゴンの土煙を上げて駆け出した。
……似た者同士?
二人は大地を駆け、木の枝の上をひょいひょいと跳んで、アニマルキャラを愛でて実況に注意され、山岳地帯で対面。
「先手ひっしょ――――――――!」
言って岩の上から大きくジャンプしたのは勝利さん。小柄で日焼けした肌を見せる彼の前面に巨大な本が出現した。ハードカバーの本を巨大にしたもので見た事もない文字が表紙に書かれている。
「行くよ『くりからもんもん』!」
巨大な本『くりからもんもん』――それが彼のパペットか。
開かれる本から文様が浮かび上がり、勝利さんの背中で輝いた。
「まずは単純に――――――パワーアップ!」
前に転がるコリス。直後コリスのいた場所を勝利さんの拳打が叩き、大地が凹んだ。
「うぉ~すごい威力ですね!」
「まっだまだ!」
避けたコリスに向かってストレートを放つ。しかし距離がある。届かないと思ったら空気の圧力が飛んでいって腕を胸の前でクロスさせたコリスを吹き飛ばした。
「うぬ!」
クルンと体を回転させて両手を付きながらも耐えるコリス。体の身のこなしが軽い。基本的な身体能力が高いのか体の使い方が上手なのか。
「ツィオーネ!」
『はいお嬢さま!』
ツィオーネの両手に生まれる赤く小さな精霊。『火』精霊が呟くと勝利さんが火に包まれた。
「熱い! 気がする!」
ゴロゴロと転がって火を消そうとするもなかなか消えない。だからか勝利さんはくりからもんもんの別のページを開いて新しい文様を背負う。すると巨大な金魚鉢が現れてその中に飛び込んで火を消した。
「ぷはっ! 金魚姫!」
水面から顔を覗かせると勝利さんは金魚鉢の中で悠然と泳いでいた二匹の金魚を外に出した。すると金魚は人魚姫へと変身して、美しい声で唄いだした。その声が波紋となって広がって、空間を振動させて壊していく。
「うへ⁉」
慌てて波紋を避けるコリス。コリスは追撃が追いつかないようダッシュしつつ、『土』黄色い精霊を生み出し土の檻で金魚姫を包み動きを封じた。次いで勝利さんも包もうとして、
「甘いよ!」
ジャンプしてそれをかわされる。
「甘いのはそっちです!」
『手』
「――⁉」
盛り上がった土から半透明な手が多数出てきて勝利さんを狙う。
「うわわわわわ!」
今度は勝利さんが逃げる番。山岳地帯を走って走って逃げるも手はあちらこちらから伸びてきて勝利さんの足首を掴んだ。ビタン! 顔から大地に突っ伏す勝利さん。
「いったぁ。――え⁉」
無数の手が合体して巨大な掌となった。そのまま勝利さんを潰すべく振り下ろされる。勝利さんは痛む顔を必死にこらえながらくりからもんもんを開いて文様を背負い、鎖を出現させて巨手を拘束して止めた。
「あっぶな――」
『勝利たん!』
初めて声を上げるくりからもんもん。『たん』て……。
「――⁉」
『声』
次の攻撃に慌ててページを捲り新しい文様を背に浮かばせる。その間にコリスは大きく息を吸い込んで――
「わ!」
衝撃波として空気を打ち出した。
「太鼓腹!」
大きな和太鼓を召喚する勝利さん。巨大なバチをバットの如く振って太鼓を叩くとこちらも空気の衝撃波でコリスを攻撃した。衝撃波同士がぶつかって周囲の草葉・土を巻き上げながら弾けて消える。
『迷』
「ジン!」
迷路を召喚するコリス。三つの願いを叶える精霊ジンを召喚する勝利さん。
「コリスちゃんをこけさせて!」
「ふにゃ⁉」
何かに足を蹴り飛ばされて後頭部を小さな岩に打ち付けるコリス。迷路の床は柔らかいがゴールの外に陣取っていたのがアダとなった形だ。
「~~~~~~」
コリスは涙目になりながらも『雷』太く大きい槌を出現させ、それを迷路のゴールに叩きつけた。太い雷撃が迷路中を駆け巡る。
「ジン! 盾を!」
雷撃が勝利さんを避けて通る。だがこの防御の為に彼は十秒以上を使ってしまった。一歩の遅れは次の行動への遅れとなって、
『穴』
「――⁉」
真下に空いた穴に真っ逆さまに落ちてしまう。
「ジ――ジン――」
そこで穴の蓋が閉ざされた。
『水』更にトドメと言わんばかりに穴の中に水を流し込まれ、『氷』水が凍った事で、
「――――――」
勝利さんは戦闘不能となった。
『しょ――勝者コリス選手!』
「「「おおおおお!」」」
「ビ――クトリ――!」
両手の人差し指をおっ立てて両腕を掲げるコリス。
それを見て村子さんはモニター前でそっと息をついた。
「イッエー!」
パッチーンと手を叩き合わせる涙月と控え室に戻ってきたコリス。
「勝ちました! 勝利です! ビクトリーです! ヴィットーリア!」
「落ち着きなさい」
「ふにゃ」
頭に村子さんのチョップを軽く貰ってコリスは口元に指でバッテンを作る。
「良かったねぇコリス」
「まあ、良くやりました」
「あい!」
「さ、繭ちゃんのバトルまで十分切りましたよ。準備運動準備運動」
「ちょ――」
繭の腕を後ろからとって、背中合わせで彼女を持ち上げる村子さん。
あの、繭お臍見えてますよ。あまり肌露出しない人なのに。
『お報せします。
前野 繭選手、晴 霞選手、バトル五分前までに控えサークルへどうぞ』
お報せがスピーカーから流れて、村子さんが繭の腕を離した。
「ではいってらっしゃいませ」
「……はぁ」
「繭、頑張って」
「はい」
「あのぉなぜわたしと宵さんで態度が違うのでしょう?」
不満を口にする村子さん。
「信頼度では?」
「あ、ショック」
「行ってきます」
「いってらっは~い」
最期に涙月に手を振られて、繭は部屋から出ていった。
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