第64話「では、転移と聖剣の真髄を見せてあげるよ」
いらっしゃいませ。
「……ラッキー」
オレは肩で息をしながら人の大きさ程もある円柱型オブジェに手を伸ばす。街について一番に目にしたものは「ウェルカムん」と書かれた少しおどけた門。
そこから中に入っていくとまず住宅街があって、しばらく進むとホテル街、更に進むとビジネス街となっていた。
円柱型オブジェを見つけたのはこれで四つ目。これはアイテムの箱だ。何が入っているかは開けるまではわからず一つ目は敵――氷柱さんとシンボルスォードの居場所を教えてくれるガラス板だったからオレのアイテムとして認証して持ってきた。
二つ目三つ目はサッカーボールとペンだった。サッカーボールはひょっとしたら追尾システムでもあるのかと思って蹴ってみたけれど普通に転がるだけだったから放置プレイ。ペンは文字で書いた物の効果を一時的に呼び寄せる効果があったからゲット。
そして四つ目が念願の回復アイテムだった。ただ小瓶だったからムダ遣いはできそうもない。瓶の中にあった水を一口アエルの口へ入れると牙がとがれライフは78まで回復し(MAX100)、狩られた『電王』の頭も元に戻った。その頭を撫でてやると満足そうに目を細めた。
「さて、氷柱さんは?」
オレはガラス板の電源を入れる。すると3Dマップが浮かび上がり、赤い光点二つと青い光点二つが現れた。場所的に青がオレたちだ。だから自動的に赤は氷柱さんたちとなるがどうやらどちらがユーザーでどちらがパペットかは教えてもらえないらしい。まあそこまで贅沢は言うまい。
で、二つの赤い光点はそこそこ離れた距離に点っている。こちらからもだが向こうのユーザーとパペット間も一キロメートルほど間が空いている。
「二手に分かれる?」
『ここからブレスで攻撃しようか?』
「いや、瓦礫だらけになったらこっちも動きづらいし。一方でシンボルスォードが回復していないとも限らないよ。空を行かれたらこっちが不利になる」
アエルも飛べるが速度は向こうが上だから。
『そうか。では二手に。ペンは宵がもってゆけ』
「うん。それじゃ」
『うむ』
そうしてオレたちは二手に分かれた。
索敵を始めてから十五分。アエルには通信で氷柱さんたちの位置を逐次教えつつ近づいていく。ここのビルは基本ガラス張りの壁がほとんどだから姿が映りこんで相手に見つからないように気をつけながらゆっくり進む。
氷柱さんは――うわ、こっちシンボルスォードの方だ。
見つめる四車線道路のど真ん中に彼は悠然と座り込んでいた。余裕……なんだろうか? ならこっちは油断としてそれを受け取ろう。
オレは人魂を四つ先行させる。この子たちには上からシンボルスォードを狙わせる。もう四つにはマンホールから下に潜り込んでもらう。オレはキョロキョロと目を走らせマンホールを探す。が、見当たらない。……ひょっとして下水道とかない? それなら地下道だ。避難用通路はどこにだってあるはず。地下道への入口を探して少し歩き、見つけた。すかさず人魂を先行させる。それが終わると十のディスプレイを投影する。アエルと人魂、それぞれの視界に映るものが表示された。あ、アエルの視界に氷柱さんが映っている。氷柱さんも自身のパペットと同じように四車線道路の真ん中に仁王立ちしていて。
それならば。
「アエル」
オレはアエルに指示を送る。八つの首をできるだけ下げさせて道路を這うようにし、見えている四つの道路から同時に氷柱さんに奇襲だ。人魂もシンボルスォードの上下に既に待機済み。その姿を剣に変えて、狙いをつける。
「3、2、1――」
静かにカウントダウンを口にし、
「GO」
奇襲開始。
全員が一斉に動く。同時に氷柱さんとシンボルスォードも動き出す。
アエルを狙う剣が四方八方から伸びてきて、シンボルスォードが全身の剣を針鼠の如く伸ばして――それは予想済み! アエルに、人魂に当たる剣が砕けていく。拾ったアイテム、ペンで不可視のバリアを展開させておいたのだ。しかし強度は然程ないらしく剣と一緒に割れていくのが光の反射で見えた。けど充分だ。剣を防ぐ役目は果たしてくれた。
そのまま氷柱さんとシンボルスォードを攻撃し――
「シンボルスォード!」
『承知』
氷柱さんとシンボルスォードの位置が入れ替わった。
転移! しまったこの攻撃は相手を想定したものだから即座に対応はできない!
氷柱さんが無数の剣を作り出し自身を包むように大回転させる。そこに人魂の剣が突っ込んでいき――炎の塊であったそれが蹴散らされていく。しかも剣はそのままオレに向かってくる。
一方でアエルは奇襲返しを喰らってシンボルスォードの羽ばたきによる暴風で動きを封じられ、そこに剣が伸びて来て串刺しにされた。
「終わりだよ宵」
剣がオレの顔を、首を、そして心臓を貫いて――オレと人魂、アエルの姿が消えた。
「『――⁉』」
これまでで一番の驚愕を顔に浮かべる氷柱さん。上空から吹きつけられた炎のブレスに包まれながら。
上手くいった。これまでの接近は全てペンによる幻影だ。
「――⁉」
目を剥いたのは、オレ。氷柱さんを焼くはずのブレスの中、巨大な刃が特殊素材の道路から突き出ていた。
氷柱さんはどこに⁉
動揺を感じながら右に左にと目を向けるが一向に彼の姿はなく、道路から突き出ていた剣にヒビが入って、割れ、その中に氷柱さんがいた。あんな防御もできたとは。
「ちょっと、いや結構びっくりした。
では、転移と聖剣の真髄を見せてあげるよ」
氷柱さんの唇が優しく釣り上がった。それはまるで兄弟と遊ぶような笑みで。
余裕? 楽しんでる? いや、そうか。これは決して奪い合いでも殺し合いでもない。だけど真剣勝負だ。真剣に遊ぶ。それこそがパペットバトルの真髄なんだ。
「行くよ!」
「――!」
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