第62話「怖い?」
いらっしゃいませ。
☆――☆
『皆さま良くお集まりくださいました!』
場所は大会二次予選会場。時刻は九時半。今日もアナウンスの声が風に乗って良く響く。
『本日も晴天! 良いお天気に恵まれました!
皆さま眠気は吹っ飛びましたでしょうか? 第二次予選が始まります!
まずは大会運営会社会長のご挨拶から――』
凡そ二十分かけて開会式が行われ、試合相手が発表される。
『中学生の部 第一戦 天嬢 宵選手v.s.地衣 氷柱選手!』
「「「――!」」」
いきなりだ。しかも相手が聖剣・氷柱さん。
心臓が高鳴る。動揺と緊張と恐怖と、高揚感。
オレは挑戦者だ。胸を借り――いや、彼の頭上を越えていくんだ。
ちらりと氷柱さんの方を見ると彼もこちらを見ていて目があった。どきりとしたら氷柱さんはニコッと笑って手を振ってきた。凄い余裕ありますな。ひょっとして敵じゃないとか思われてたりする?
「よー君も笑っとけば」
「うん?」
つんつんとオレの腕を肘でつつきながら。
「私よー君の方が強いと思うし」
「……ありがと」
「んふふ」
『第二戦 コリス・冥・ロストファイア選手v.s.狩松 勝利選手!』
コリス――相手は良く知らないな。コリスはちゃんと調べているだろうか? ……いや期待できないなあの子のあの性格じゃ……。魔法処女会が対策してるのにかけよう。
『第三戦 前野 繭選手v.s.晴 霞選手!』
繭の相手の情報もない。調べとけば良かった。
『第四戦 可愛 村子選手v.s.遊佐 遊選手!』
魔法処女会【永久裏会】所属選手と、ユニコーンのマスターユーザー。
となると――
『第五戦 高良 涙月選手v.s.ソリイス・卵姫選手!』
相手は魔法処女会日本支部のトップか。
「涙月」
「う~ん、昨日部屋に戻ってから一通り映像見たけど、ソリイスさんバトルじゃいつも一撃で相手倒してるんだよねぇ」
「怖い?」
「うんにゃ。勝つぜ勝つぜ」
涙月の唇は笑っていて、しかし僅かに緊張の気配があった。第一次予選トップとの対決なのだ。緊張しない方がおかしいのかも。
『では十時から第一戦を開始します!
両選手は時刻までに規定選手控えサークルにいらっしゃいませ! 遅れないようにお願いします!
これにて開会式を終了します!』
良し、トイレに行っておこう。
☆――☆
第二次予選会場 バトルフィールド 直径二キロメートルの円形フィールド
真っ白な床。全てがディスプレイになっていて展開される風景によってそこにも何かが表示される。
『バトルフィールドを決定します!』
バトルフィールド上空に巨大なルーレットが浮き上がり。
『選定スタート!』
ルーレットの針が回る。くるくるくるくる回って、止まる。
『空中庭園に決定! 展開します!』
ナノマシン展開。バトルフィールドの白い床の五メートル程度上に浮遊する大地、そこに近未来を思わせる都市が組み重なっている。床には空が映されて、あまりにリアルすぎるそれにオレは一つ唾を飲み込んだ。高いところはちょっと怖い。
『では天嬢 宵選手! 地衣 氷柱選手! フィールドへ!』
控えサークルから出て、オレと氷柱さんは空中庭園へと伸びる階段に足をかける。一段一段が白磁の板でできていて浮いている。
落ちないかなこれ?
おっかなびっくりしながら昇って行き、ナノマシンが再現した空ゆく大地に足を下ろす。じゃりっと音がしてほんの少し土が舞った。ナノマシンの再現度が凄い。ドームのナノマシンフィールドも凄いが一段と性能が上がっているように感じる。
オレは庭園に繋がる大陸の端まで伸びている道路の終着点に歩を進めて止まった。
『両者その位置でお待ちください!』
オレ、天嬢 宵、ユーザーLv89、パペットLv100。
地衣 氷柱、ユーザーLv94、パペットLv99。
『改めて確認します! このバトルはユーザー、或いはパペットのライフが0になる、また敗北宣言で勝負が決します! よろしいですね!
でわでわカウント0でバトルスタートです!
カウントダウン、始めます!
10
3
2
1
0! バトルスタート!』
その声にオレは足を踏み出し――ヒュ――――ンと風切り音が聞こえてきた。
「?」
鳥かな? そう楽観的な事を考えてオレは上を見た。青空、綿飴に似た雲、遠くの方には入道雲も見える。いずれここにも雨が降るかな。いやお天気は今は置いといて。
はて、何も見えないが? 音の候補といえば南の空をゆく鳥の群れぐらい。でもそれらも点となって見えるだけで翼が羽ばたいているかも確認でき――いや、近づいてくる? エサは持っていないのだけど。
そうだ、オレは楽天的過ぎたんだ。もうバトルは始まっていると言うのに。
飛んできていたのは鳥ではなく剣だった。
「嘘!」
十本の長大な剣。それが猛スピードで迫ってくる。オレは慌てて肩に乗っていたアエルを大きくして巨剣を鞭の如き首で弾き、牙がびっしり生えている口で受け止め、いきなりのピンチを脱した。
――いや。
剣はそれでも動こうともがいて改めて数本がオレを襲う。
攻撃を受けているのは間違いないが、島の端からここまで剣を飛ばすなんて! しかもこの様子だと自動追尾型。アエルに咥えている物を砕くように脳波で指示を出す。二本・三本と噛み砕き、残りは首で弾いていた七本。それらに追いつき噛み砕こうとアエルは首を伸ばすもその動きより早く剣が逃げ回る。そして隙を見てオレとアエルを攻撃してくるのだ。自動追尾な上にまるでAIでも搭載しているかのような動き。これは剣獣『シンボルスォード』の攻撃ではない。ユーザーのアイテムだ。それなら。
オレはアイテムである八つの人魂を召喚。アイテムならアイテムで撃破できるはずだ。極端にレベルが離れていなければの話だが。
人魂を炎に変えて剣にぶつけ溶かす。一つ、また一つと剣の数が減っていく。最後の一振り! と言うところで都市の方から音がした。何かが駆けてくる音だ。人ではない。音は大きい。
「ドラゴン!」
を模した剣の聖獣、シンボルスォード。そいつが超速で駆けてきたのだ。ん? 駆けてきた? 背中の大きな翼は使わなかったのか?
「アエル! ブレス!」
八つの首が口を大きく開け、その中が発光。炎の息が解放された。
『おぉ⁉』
シンボルスォードの驚嘆の声。しかしそれでも獣は止まらない。炎を身に受け体を覆う剣が溶ける壊れるのもお構いなしに突っ込んでくる。オレからライフを全損させる気⁉ 当然オレのライフが0まで削られても勝負は負けだ。
オレは慌てて突進を避け、アエルに炎のブレスを吐かせる。目標はシンボルスォードのゆくちょっと前方。ブレスは滑り止めのついたガラス製の道路とその下に装飾されている枯山水、更にその下の大地を溶かし、マグマにも似たドロドロの状態を作り出す。シンボルスォードは足を絡め取られてバランスを失い、その場に倒れこむ。そこにアエルの牙が突き刺さって――と言う未来予想をしたがそんな機会は訪れず、ドラゴンが羽ばたいた。巻き起こる乱気流。ガラス張りのビルが砕け、停車している浮遊車が吹き飛んだ。
一度の羽ばたきでこの圧力。そうかバトルフィールドが滅茶苦茶になるからわざわざ足でやってきたのか。ドラゴンのレベルは99。こちらは100。それならアイテムと同じく止められないはずがない。
「アエル! 攻撃に転じるよ!」
『オオ!』
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