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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第57話『フリ~ズ』

いらっしゃいませ。

 仰け反る(ユウ)はとりあえず置いといて、オレは滅傷(メッショウ)の動きを注視する。いや、していたはずだ。けどその姿は目の前で消えてしまった。


「雷神!」


 更に後ろから稲妻が放たれる。


「「「――!」」」


 巨大な横一文字の雷撃がオレたちを包んでライフを減らす。痛覚は再現されていないとは言え脳がしびれを再現してしまう。あれだ。目隠しした人間に熱した鉄棒を押し付けると言って普通の鉄棒を押し付けても火傷をする、それと同じ原理だ。

 だから――動けない。

 その上、首に黒紫に妖しく輝く大鎌をかけられてしまっては。


『フリ~ズ』


 言われるまでもなく。けどオレは動けなくても!


『――!』


 滅傷が何かに気づいたように顔を上げた。視線の先には太陽があって、光が降ってきた。フォーマルハウトの光の矢だ。滅傷は当然避けてかわす――と思ったのだが、


「――!」


光が到達する前に大鎌を横に薙いだ。オレの首を斬る形で。しかしオレだってただ処刑を待っていたわけではない。滅傷が顔を上に向けた隙に顔をずらしていたから大鎌はオレの右耳を削っただけで通り過ぎた。いや仮想とはいえ自分の耳が削られるのはとてもではないが気持ち悪いのだけど。


「よー君そのまま倒れて!」


 咄嗟に体を支えようとした左腕を折って受身に変えた。その瞬間クラウンジュエルの巨大なランスが滅傷を貫き。

 ――いや。

 滅傷はランスの上に飛び乗っていて、そのまま上を駆ける。疾い!


「うえ⁉」


 驚愕する涙月(ルツキ)には目もくれず滅傷はあっと言う間にクラウンジュエルの首に達し大鎌を振るった。


「アエル!」


 四つの首がクラウンジュエルの胴体に頭からぶつかり、巨体が揺れて後ろに勢い良く倒れていく。滅傷はバランスを崩して首を刈りそこね、次いで襲ってきたアエルの残り四つの首を空中にも関わらず大鎌を踏んでは飛び、または落ちを繰り返してかわす。

 空中にいる間に何とかひと噛みでもできれば!


「『闇王』!」


 ジョーカー発動。

 黒いエネルギー球を作り出し滅傷に向けて撃った。滅傷は大鎌でそれを切り裂き、数秒先の世界に転移する。


『――⁉』


 闇王のジョーカー、それは数秒の時間を奪う事。

 戸惑う滅傷の真上から血王(チオウ)が口を大きく開けて迫り、滅傷を牙だらけの口で噛み付い――たと思ったのに、滅傷は大鎌を棒に見立てて口が閉じないように支えていた。しかし血王は一度口を大きく開き滅傷を自分の顔でぶん殴った。廃ビルに叩きつけられる滅傷。落ちていく体を風神の風が支え、竜巻となり、更に雷撃が追加され雷の竜巻が滅傷を取り込んだままこちらに迫ってくる。


「まだまだ!」


 雷の竜巻が分離し、二つ・三つ・四つと増えて行き周囲一変。とてつもない気流の森となってしまう。

 滅傷はどの竜巻に⁉


「お・ま・か・せ! クラウン!」

『オウ!』


 クラウンジュエルが一歩前に出る。巨体の後ろにオレたちが隠れる格好になり、クラウンジュエルは盾を構えた。


『展・開!』


 盾が機械じみた音を立て凡そ二倍の面積になる程に各部を開いた。その中央から光が照射されてエネルギー状の盾が広がる。


「……あの、涙月」


 その光景を見てオレはおずおずと手を挙げる。どうしても言わなければならないから。


「ん? なんだい?」

「竜巻は四方八方から来ているのですが、盾は前方だけでしょうか?」

「…………」

『…………』


 暫しの沈黙。そして胸を張って堂々と言葉を放つ。


「どんとこい!」


 と。


「気合で何とかできないよ⁉」

「ジョーカー!」


 え? ジョーカー?

 クラウンジュエルのジョーカーは――

 大気が唸る。竜巻が、風が光の盾に吸収されていく。いや風だけではない。雷撃もだ。


「この盾名前募集中はエネルギーを吸収するのだ!」


 言いながら後ろを振り向く。前方の竜巻を消し去って他を消すべく振り向いたのだ。

 そこに。


「へ?」


 間の抜けた声を上げる涙月。振り返ったクラウンジュエルの背後にアエルとフォーマルハウトが出現したからだ。


「涙月はそのまま!」

「お? おお!」


 言われて彼女はエネルギー吸収に専念する。オレたちは――消された竜巻から飛び出した滅傷を迎え撃つ。


『ジョーカー』

「「――!」」


 滅傷がボソリと呟いた。大地が盛り上がり、大きな金棒になって宙に浮く。それだけではなく半透明な何かが滅傷の体をとり纏い、滅傷を核とした鬼の巨体が完成する。

 暗殺者に鬼。鬼に金棒。

 これは――怖い。単純な恐怖ではない。芯から冷えるような寒さだ。


「滅傷の殺気にやられてるようね! 気ぃつけないとパペットどころかユーザーもライフ0になるわよ!」


 鬼が金棒を持ち上げる。動作は思っていたよりもずっと早い。むしろ人間がバットを振りあげるより早いのではないだろうか? そして当然振り下ろすのも早く、見えなかった。


「「――⁉」」


 アエルとフォーマルハウトが金棒と大地に挟まれて潰され、圧力で隕石が落下したかの如くクレーターが完成する。


「よー君!」

「涙月! 第二撃はそっちだ!」

『正解』


 ゾクリとする滅傷の声。その時には鬼は金棒を横に振りあげていて、振った。


「この!」


 光の盾と金棒が激突する。エネルギーが吸収されているはずなのにクラウンジュエルの足が大地にめり込み――


『ま・だ』


 ――金棒とは全く逆の方角から棘が出てきてクラウンジュエルを貫いた。


「なに⁉」


 鬼が金棒を引き距離をとった。あんな距離からなにを? 鬼は金棒を振り上げ、降ろす。と、棘が出現してこちらに向かってきた。なんて攻撃に特化したジョーカー!


『『『――ぁ!』』』


 凄まじい速度と勢いと圧力の棘を避けきれず刺されるパペット三体。


『……庇ったね?』


 そうだ。パペットたちはオレたちユーザーを守ってくれた。でなければオレたちも刺されライフは0になっただろう。しかしどうする? あの攻撃をかいくぐって鬼を――滅傷を倒すには?


「不意打ちいっぱーつ!」


 こんな時でも元気な涙月。


『ぬぅ!』


 そんなマスターユーザーに応えて傷だらけの体を無理に立たせるクラウンジュエル。

 光の盾を展開し――


「撃って!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ォ!


『――⁉』

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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