第53話「金貨で買えるのは――!」
いらっしゃいませ。
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「良かった! 体育あって本当に良かった!」
「私は追われるの苦手だァァァ!」
「意外な事実! いやオレは知ってたけどさ!」
オレと涙月、二人は全力で駆ける。青春と言う名の一幕を。なんてロマンチックなものではなく、二人見つけた洞窟に入ってみたのがおよそ十五分前。そこはインディジョーンズの世界だった。
ゴロゴロと転がってくる岩石の円盤。一昔前のアニメでよく描かれていた大きな石のお金をイメージして欲しい。
迂闊にも大きな宝箱を発見してオレたちはアイテム発見か? と意気揚々と開けてみたのです。そしたら十数枚の石のお金が詰まっていて、最悪な事にそれは――笑ったのだ。
『若いうちからお金なんて求めるなぁぁぁぁぁ!』
と叫びながら笑ったのだ。
それからと言うもの石のお金たちはオレたちを追い回しているのだった。
「お金じゃなくて剣とか王冠とか金貨とかかと思ったんだよ!」
『ほら見ろお金じゃないかぁぁぁぁぁ!』
「確かに!」
換金できるけどね。
「いいや! 私らの持つお金と金貨は別物だぜ!」
『なんだって⁉』
「お金は日常生活に必要なものを買うものだ! 私とよー君はお金大好きっ子じゃなく必要なものを買う為にお金が要るだけだ! だが金貨は違う! 金貨で買えるのは――!」
『ごくり!』
「ロマンだ!」
『ロ! ロマン!』
がーん! 石のお金がショックを受ける。
「だがただの石で買えるものはない」
『無価値!』
がーん! 再び石のお金がショックを受ける。
「だからこんなロマンの一コマにもなれぬ事態など! 根性で何とかしてやるさァァァ!」
「え⁉」
振り返った涙月。彼女は腰を思いっきり屈めると右足からびょ――んと飛び跳ねた。石のお金を飛び越えるつもり⁉
「よ!」
飛び越え――はせず(無理だったのかな?)先頭の石のお金に足をつけるとすぐにまたジャンプ。更に次に向けてジャンプし、ジャンプし、ぺしゃんと潰された。
「涙月ィィ!」
あ、石のお金にしがみついてぐるんぐるん回ってる。良かったね石の重量まで再現されてなくて。
地下の通路でそうこうしていると崖が見えてきました。
崖⁉ ぱっと見では底が見えず、唯一の命綱である縄の橋は――本来木の板がある場所も縄一本だけで。バランス良く走れと! しかも崖の向こう岸では大きなカニが橋を切ろうとハサミをゆっくり動かしているではないか! 設計した人出て来い!
「涙月! 脱出できる⁉ そのままだと多分崖に落ちる!」
「お? おお!」
涙月は体をもぞもぞと動かし、反転し、背中を石のお金につけて足を思いっきり地面に叩きつけ――
「せーの――――!」
「うわ」
まるでプロレスのように相手を――石のお金を持ち上げると、ぶん投げた。
「お、お、お、お」
たたらを踏む涙月。勢いがあったから進む足が止まらないらしい。
「わ、わ、わ、わ」
オレは倒れそうになる涙月を抱き止め、しかしオレの足も急には止まらない。急ブレーキ危ない。落ちていく石のお金をそのままに縄の橋に突入し一歩二歩三歩と進み――カニが縄を切った。落ちる⁉ と思ったら縄がブロックになった。
「はい⁉」
水色に輝く磨き上げられた十cm程度の立方体。足をつけると沈みだし慌てて次のブロックを踏むと今度は落ちず、更にブロックを踏むと落ちず、更に別のブロックに足を進めると落ちる。それを繰り返し何とか対岸まで渡りきった途端カニが襲ってきた。
「アエル!」
「クラウンジュエル!」
二体のパペットに噛まれ突かれカニは輝く霧となって消えていった。
「あー生き残ったー」
背伸びをする涙月の横でオレはキョロキョロと目を動かし、出口を探す。
と、その時。
「「ん?」」
崖下から聞こえた奇声。二人して覗いてみると――目の前を何かが横切った。あれは――
「翼竜?」
「白亜紀設定だからってホログラムじゃないぜ! 俺のパペット『龍騎』だ!」
「……ごめんなんで崖の下から大声出してんの?」
そう、声はずっと下からで。
「落ちたら上がれなくなった! パペットに実体があったら良いなと強く思いました!」
「あっそう……」
呆れるオレの頭上で龍騎がUターンして戻ってきた。
「悪いけど俺のポイントになってもらうぜ!」
「「お断り!」」
アエルとクラウンジュエルで龍騎を迎え撃つ。
『樹王』『闇王』の首を向かわせ、一気に噛み砕こうとするも龍騎は器用に空中で進路を変更する。急に飛行軌道を変えたのに全くぶれがない。その後も龍騎は素早く移動を繰り返し首を避け続ける。
それなら!
オレはアエルに心の中で指令を出し、首は動き出す。右から『樹王』左から『闇王』上から『覇王』下から『血王』。
龍騎はブレーキをかけるのではなく更に加速し真ん中を突き抜ける。だが。
『⁉』
「いけええ!」
そこにはランスを構えたクラウンジュエルが。そのランスが龍騎を貫いた。
オレと涙月は右手を叩き合わせ、小気味良い音を鳴り響かせた。
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