第52話「補い合っていこうぜ」
いらっしゃいませ。
☆――☆
「う……」
「……ひっく」
皆のところから颯爽と駆け出してクリア条件を満たすべく走りだし数分後、ちっこい双子にオレと涙月は頭を悩ませていた。
「OKOKちっこいの。ママはどこかな?」
「うぁ……うぁぁぁぁぁ!」
「おおっと私子供苦手かもぉ⁉」
涙月の意外な弱点発見。いやそんなん言っている場合ではなく。
「ん?」
くいくいとオレのパンツ(ズボン)を引っ張る力に顔を向けると、双子(妹)ちゃんがこちらをじ~と見つめていた。
「ね? パパとママは? どうやってここまで来たのかな?」
目線を同じ高さにしてオレは聞いた。妹ちゃんはオレをじ~と見つめたまま顔を動かし耳に小さな口を近づける。
なにか情報が得られそうだと期待を寄せていると――
「お前なんかに教えるかよ」
と言われた。
「…………」
オレはたっぷりじっくり固まった。
え? え? ええ?
そんな風に内心困っていると妹ちゃんが口を大きく開けて、その中から刺々しい鉄の舌が出てきた。
「――⁉」
舌――だったそれはオレの耳を貫こうと伸びてきて、慌てて頭を引いたオレの鼻先を掠めていった。
「――っ!」
血は出ていない。確かに掠ったのに。この子は――
「パペット!」
パペット特有の光を消して接近とは卑怯な!
「だははははははは!」
口を大きく開けて笑う少女。しかしその声は一つではなく三つ重なっていた。
――三つ?
もう一つは涙月に泣きついていた男の子。更にもう一つは――
オレと涙月は双子から距離を取って背中を合わせ、上を見た。
「だははははイイねイイね人が驚いてるサマってのは良いもんだ!」
その少年は廃ビル設定の窓の一つから顔を覗かせこちらを愉快そうに眺めていた。
「だははは――は? は? だっわぁぁぁあ!」
アエルの首一つを少年のいる窓へ突撃させてみたのだが、彼は思ったよりも素直にびびってくれたらしく腰を落とすと瓦礫と一緒に落ちてきた。
え? 落ちてきた? 彼がいたの六階なんですけど?
「クラウン!」
オレが戸惑っていると涙月の声が上がって、クラウンジュエルのヘルメットに空気が取り込まれていき、即座にそれが打ち出された。連続して出される風の銃弾は少年の下を通り、横を通り、何発目かで当たった。
「うぉぉぉ⁉」
肩に当たったそれは弾けて爆風となり、少年の体を上に浮かせる。
「ほら! 他の窓に飛び込んで!」
「お? おお? おお⁉」
今の涙月の声を聞き届けた少年は慌てながらも足を動かし、獣が飛び移るかのように瓦礫――映像ではなくナノマシンだったようだ――に這いつくばり、別の瓦礫に飛んで、また這いつくばり、飛んでを繰り返し窓の中に飛び込んだ。
『『だ、大丈夫お兄ちゃん⁉』』
双子パペットが同時に声を上げてビル内部の階段へと向かう。
お兄ちゃんって呼ばせてるんだ……いや自由だけど。
「いや、あれは変態と見た」
「思っても言わないの涙月」
まあ変態かどうかはともかく、オレはちょっと落ち込んだ。
よくよく考えてみたら今のはアエルのジョーカーで時間を戻せば助かったのではないだろうか? いやナノマシンは反応してくれるかも知れないが人間の体はどうなるだろう?
「……涙月、今人間の体を浮かせられるって知ってた?」
「うんにゃ?」
咄嗟に体が動いたわけだ。
「よー君よー君」
ちょいちょいと手を動かす涙月。こっちにおいでと言う合図だ。
「なに?」
体を近づけると、涙月はおもむろにオレの頭を持って腋にホールド。
「な、何す――」
「よー君が私と同じ事できる必要はないさ。私もよー君にできる事ができるわけじゃないし。補い合っていこうぜ」
「…………」
内心を読まれた上に爽やかに言われてしまい、オレはぽかんと口を開けて固まってしまった。
「ああ勿論努力しなくて良いよってわけじゃないからね?」
と言って軽くウィンク。
「……うん」
「良し。じゃ、次のバトル行こうぜ!」
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