第51話「ム――⁉ わたし別にムラムラした生活送っていませんよ⁉」
いらっしゃいませ。
「あ、あの……」
「素晴らしいですまぁ可愛い」
意外と言えば意外、ウブな反応を見せる涙月に擦り寄る村子さん。すすすと涙月の前に座り込んで――ちらっとミニスカートをめくった。
「ふにゃぁ⁉」
ばっち――ん!
涙月に平手打ちを食らって、村子さん鼻血を出す。
「お? おお⁉ 申しわけない村子さん!」
「ふ……ふふ、まあ可愛いヒモパン見れたから良しとします」
そのまま耐熱タイルの上に突っ伏す村子さんであった。
オレたちは魔法処女会の衣装に着替える為に廃墟設定されているビルに入っていた。まず涙月が着替えて、次は男子。ま・それは良いのだが、
――そう……ヒモパンなんだ……いやいや!
してはいけない想像をする自分の頭をオレは軽く小突いた。
「じゃっじゃーん!」
「うぉ」
扉を開けて勢い良く出てきたのは――コリス。
「お色直しですウェディングです披露宴です将来の夢はお嫁さん!」
と言う割に彼女がしていた格好は、バニーガールの衣装を少しマジシャン用にカスタムした何とも肌の露出の多いものだった。
「って、なんでコリスが着替えてるのさ」
「女の子は色々着たい欲求を持っているのです」
「着替えなら良いけど色々な男を試すのはやめとけよ」
半分呆れ顔で、御伽君。コリスはまだ恋愛する歳ではない気がする。いや最近は小学生でも彼氏がいたりするからひょっとしたらひょっとするかも?
「だいじょーぶです! 魔法処女会はシスターの群れ! 皆、主に操を捧げています!」
何それ超ハーレム! 羨まし――いや! 思ってないそんなの!
「あんたも男やねぇ」
「コリス、ノって良い時と悪い時があって――て言うか脱いだ下着を手でブラブラさせない!」
しかもその下着肌丸見えじゃないか! もうちょっと男を警戒しなさい!
「あ、わたしが選んであげた奴ですね」
「犯人はあんたか村子さん!」
何が悪いの? そんな表情をして小首をことんと傾ける村子さん。魔法処女会ってどこか欲求でも溜まっているんだろうか?
「では、宵さん、御伽さん、氷柱さん、お次はあなた方ですよ」
ぎくり、オレたちは同時に肩を震わせる。特に震えたのは氷柱さん。そりゃそうだ。善意で助けたのに今着せ替え人形になろうとしているのだから。
「まともに喋ったの一言二言しかないしね」
笑顔のままボソッと言う氷柱さん。眉がぴくぴくしているのを見るに追い詰められているのが良くわかる。
「さ、入った入った」
コリスと村子さんに背中を押されて、オレたち男三人が更衣室として使っている部屋に入る。と言うか入れられた。
「……魔法処女会がいなくなったところで、ぼくは行くよ」
一人窓枠に足をかける氷柱さん。手をヒラヒラ振っているがオレと御伽君がそれを見逃すはずもなく。
「「一蓮托生です」」
氷柱さんの服を引っ張って中に戻す。
「ちょ――君らも逃げれば良いじゃないか!」
「逃げられるならとっくの昔にしています! でも中継がある以上すぐに居場所は割れるって!」
「――! そうか中継があったか」
「なくても見逃さないけどねぇ」
ドアからにゅっと出てきた村子さんの顔。目までを出して、みょほほと笑っている。鍵が壊れているとは言え罪深いな。
「男相手でもセクハラとかノゾキとか罪になりますからね!」
「はいはい」
と言いながら村子さんは指をちょいちょいと動かした。
「?」
何の意味があるんだろう? そう思ってみていると、氷柱さんが出ていこうとした窓が自動的に閉まった。
「「「え?」」」
なに? 心霊現象? この科学のど真ん中で?
「にょほほほほ。ではさいなら~」
顔を引っ込めてドアを閉める村子さん。その時確かに見た。村子さんの目にサイバーコンタクト起動中の証であるエンブレムがあったのを。つまり――
「村子さんのパペットだ」
「透明なパペット? それとも能力か?」
「はぁ、仕方ない……。今日のところはシスターの顔を汚さない為にも着替えようか」
氷柱さん、覚悟完了。
「きゃっふ――――――――――!」
着替えたオレたちを見て、村子さんは飛び上がった。気のせいかな? 目の虹彩がハートに見えたけど?
「よくよく考えたのだけど――」
氷柱さんは腕を組みながら言葉を出し始めた。頭にかぶっている王冠がズレそうになって慌ててかぶり直す。
「なんで魔法処女会に男用の制服があるんだい?」
「男用? それは女の子用の物ですよ。パンツルックは男の特権ではありません」
「――……ぼくは……女物を着てしまった……」
ず~んと顔を曇らせ、しゃがみ込んでしまった。聖剣を精神的に追い詰めたらダメだと思う。なまくら刀になってしまう。
「……御伽君、なんで顔朱くしてるの?」
「は? 恥ずかしいからだよ」
それなら着替える前から朱くなっていなければおかしい。オレが見た感じだと着替え終わって出てきた時からのはずだ。
「……着替えたから、わかるんだよ」
「何が?」
「……楽しさ」
ぽつりと、彼は言った。
楽しさ――楽しい。……こう言う格好が。
「……御伽君がコスプレに目覚めた!」
「マジで⁉」
「大声で言うな――!」
大喜びの村子さん。オレの口を塞ぐべく覆い被さる御伽君。二人一緒に倒れこんで、涙月が写真機能を連打した。しないで。
「?」
その様子をぽけ~と眺めているコリス。良かった。ふざけているようでいて彼女はまともな精神を持っているっぽい。
「同人誌!」
あ、ダメっぽい。
『お楽しみのところ申しわけないのですがぁ』
「ん?」
控えめな声に振り向いて見ると、実況のお姉さんがぷかぷかと宙に浮き壊れた窓からこちらを覗き込んでいた。
「……まさか着替えを見て――」
『いいえ! 見ていません! 宵選手の右胸にあるほくろなんて見てません!』
「見てるじゃないか!」
そのやり取りに涙月がキラーンと目を輝かせ――
「それだけで恥ずかしがるなんて甘い! よー君はお○ん○んにもほくろがあるんだZE!」
「言うな――――――!」
小さい頃一度一緒にお風呂に入っただけなのになんて良い記憶力!
『良いな~幼馴染。あいつはホントにダメ男だし』
ぶつぶつと言い始める実況さん。貴女の私生活に何があるんだか知りませんが今仕事中じゃないんですか?
『――あ、そんな場合じゃなくて。
皆さまずっとこの様子放送されてますよ? 笑われてますがバトルしなくて良いんですか?』
「「「あ」」」
言われてみたら……。オレは目の端に表示されている時計を見て、残り時間が三十分であるのを知った。
「ダメだ、急いでポイント集めないと!」
オレは涙月と目を合わせ、村子さんにその目を向けた。
「ムラムラっち!」
「ム――⁉ わたし別にムラムラした生活送っていませんよ⁉」
涙月にちょっと恥ずかしいあだ名をつけられて慌てる村子さん。笑えるけどそんなのしてる場合じゃない!
「村子さん、オレたち勝利条件満たしてないんで行きますよ!」
「そっそうですね! わたしとコリスはもう安全圏です。わたしたちは――えっと」
「誰を勝ち抜けさせるか決まっていたんだね?」
微笑む氷柱さんのちょっと冷たい言葉。真剣にバトルに挑んでいる人間からすればそう言う『予定』は気に入らないのだろう。
「……そうです。聖剣と御伽ちゃんはどうですか?」
「御伽ちゃん……。俺はあと一人倒せば問題ないぜ」
ちゃん付けに顔をしかめながら。
「ぼくはもう大丈夫だろうね。ポイント的にも残り十名的にも」
「では――」
「後は私たちだけですな。よー君」
涙月はオレに目を向ける。言われる事とやる事は決まっている。
「うん、行こう」
「がんばですお二人とも!」
手をぐっと握りしめて突き上げるコリス。
「ん。じゃあまた後で!」
駆けていくオレと涙月。そのオレの耳に氷柱さんの小さな声が届いた。
「さて、それじゃ御伽? ハウス・ドッグが何者で何をしていたか、教えてもらえるかな?」
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